第8話 知性と覚悟
黄金台高校に新たな一日が始まる。放課後の校舎裏、玲央たちは白線だけ引かれた空き地のグラウンドで部活申請用の仮練習をしていた。 光陽はぼやく。「やっぱり3人じゃどうにもなんねーな。せめて4人いりゃ、パス回しっぽいこともできるのに。」 昴も同調したように、「声をかけるあてもないしな。新入生に話しかけても『え、サッカー部?あったっけ?』って反応ばっかだし。」
そこに現れたのが、田浦昴のクラスメイト――有屋夢生だった。制服のまま、少し距離を取りながら練習を見ている。
それに気付いた昴が声を掛ける。「あれ?有屋じゃん。何してんの?」 「……いや、その、少し興味があって。サッカーって、面白いのかなって思って。」 有屋が答えると、玲央が空かさず「興味があるなら、やってみない?ちょうど人が足りないんだ。」 と有屋を誘い始める。しかし有屋は困ったような顔で「……僕、運動はそんなに得意じゃないし。サッカーなんて、一度もやったことないよ。」
そこへ光陽が「いや、3人中2人も素人みたいなもんだから!大丈夫大丈夫!」と、半ば強引でもいいから入部させようみたいな勢いで有屋を誘う。
そのとき時、有屋の脳裏に浮かんだのは、あの一冊の古い雑誌。そこには「U-18日本女子代表候補・有屋紫乃」の文字と、ピッチを駆ける若き日の母の姿があった。 有屋は「もし……もし僕が入ったら、何を任されるの?」 と問う。すると玲央は、「夢生くんの得意なことって何?」と。 有屋は「指示を出すこと。戦術を考えるのが、少し得意かもしれない。」
この答えに玲央は興味が湧いた。
そして玲央は少し目を輝かせて言った。 「なら、指揮官になってよ。このチームの“頭脳”になってくれ。有屋夢生!」 夢生は少しの間悩んだが、その後少しだけ笑って―― 「うん。やってみる。」 こうして、4人目の部員が入部を決意した。