第6話 見え始めた
葵玲央と赤江光陽の白熱したPK対決から一夜明け、朝7時。黄金台高校のグランドでは野球部の朝練が始まっていた。運動部の中でも学校を挙げて力を入れているのは、やはり野球部。秋田県大会でも上位を狙えるくらいの力をつけていた。
その様子を横目に、早くも職場に向かおうとする有屋紫乃。昨日のPK戦を見て、サッカー部創設への意気込みが増してしまっていた。恐らく今日の放課後あたり、玲央たちがサッカー部創設のお願いに来るだろうと予測していた紫乃は、あれこれと考えを張り巡らせていた。そんな時、校舎玄関の方から駆け寄って来る者がいた。
「先生~!有屋先生~!」
紫乃はハッと声のする方を向く。まだ登校するには早すぎる時間だったが、そこには葵玲央の姿があった。
「葵くん?まだ登校の時間には早いけど、どうしたのかしら?」
少々面食らった紫乃だったが、ここまでくれば簡単に予測がついた。
「はい、お願いがあって。単刀直入に言います。有屋先生、サッカー部の顧問になってくれませんか?」
「やっぱりね。」
「へ?やっぱりって…」
「あ、ああ、一人言よ。それより顧問ですって?」
「はい。サッカー部を作るには顧問の先生がいなきゃだめだし、とりあえず担任の有屋先生に頼んでみようかなって。」
しばらく考えるふりをする紫乃だったが、心の中ではもう答えは出ている。少しの間をおいて、いつもの冷静さを装って紫乃は答えた。
「引き受けるのは簡単ですが、まず部員がいなければ話になりません。サッカーの試合は普通11人でするものだけど、試合が成立する最低人数というものがあります。」
一呼吸おいて、紫乃は条件をだす。「試合が出来る最低人数、7人以上のメンバーをまずは集めること。そして素人でもいいけど、サッカーに全てを賭けられる人間を選ぶこと。あなたの壮大過ぎる夢についていける人間じゃないと、サッカーを心から愛せる人間じゃないと、あなたのやりたい高校サッカーは出来ないでしょう。分かるかしら?」
いつもの少し強めの口調で言ってしまった紫乃は、心の中で、(ヤバい、ちょっとキツかったかしら、もうちょっと優しく言うべきだったかしら…)と後悔していたが、玲央はすぐに、「ハイ!やります!まずは最低7人ですね!」と、全く意に介さない表情でスパッと答えた。(7人、最低でも7人集めれば、試合が出来るんだ!やっとホントのサッカーの試合が出来るんだな。)
悩むより、まず行動に移す。葵玲央のサッカー愛が、新たな種を撒き、いつか芽吹く時が来るのだろうか。