第64話 W杯への道
日本サッカー界のレジェンド中のレジェンド――釜台邦芳。
その釜台が、いま部員数わずか9人の黄金台高校サッカー部の前に立っている。
何を語るのか。
その存在感に圧倒され、全員が静まりかえる。
すると釜台はゆっくりと右手を挙げた。
「銅島中のみんなも、こっちに来なさい。」
手招きされ、銅島中サッカー部の選手たちも黄金台の輪へと歩み寄る。
両校の選手が肩を並べたその瞬間、釜台が口を開いた。
語られたのは、日本サッカーの現状だった。
プロサッカー界の課題。
アマチュアや育成年代の停滞。
そして高校生以下の環境の不安定さ――。
誰もが真剣に耳を傾ける中、釜台は重々しい声で続けた。
「そして、ここからが最も重要な話だ。
日本サッカー協会は、10年以内にワールドカップ優勝を目標に掲げた。」
その一言に、場の空気が大きくざわめく。
「今は2015年。3年後の2018年ロシアワールドカップ……この中から代表メンバーに選ばれる者が出てくるかもしれない。
いや、出てこなければならない。ワールドカップの最年少出場記録は17歳。ちょうど君たちの世代だ。」
さらに、釜台は一呼吸置いて告げる。
「近々、U-18世代を対象とした新しいプロジェクトが始まる。
簡単に言えば、高校生と中学生が混成の選抜チームを組み、全国優勝を目指す大会が開催される。U-18ジャパンカップとでも言っておこうか。」
選手たちは一斉に顔を見合わせ、さらなるざわめきが広がった。
「今日ここでみんなに会えたのは偶然だ。だが――これは縁でもある。
いつか、君たちの中からワールドカップメンバーに名を連ねることを楽しみにしている。」
そう言い残し、釜台は奥山とともに会場を後にした。
残された若き選手たちの胸には、一つの言葉が強く刻み込まれていた。
――ワールドカップ。
その響きに最も強く燃えたのは、やはりレオ(葵玲央)。
「ワールドカップ……燃えてきたぞ‼ 俺はもう1試合、すぐにでもやれるぞ‼」
「お、おいおい……」
「少しは休もうぜ……」
仲間たちの総ツッコミが入るが、誰もが心の奥底で同じものを感じていた。
“いつか、あの舞台に――。”
日本サッカー界のレジェンド、奥山康蔵、そして釜台邦芳との思わぬ邂逅を経て、黄金台高校と銅島中学校のサッカー部の面々には、大きく強く“W杯”の2文字が刻まれた。そしてこれから始まるという、高校&中学の混成チームによる、“U-18ジャパンカップ”。
試合後の余韻と、新たな大会の開催、そしてW杯。様々な思いが入り乱れ、選手たちのサッカー熱は冷めることを止めないまま、夏休みが終わろうとしているのだった。




