第60話 パワープレー
試合時間は残り10分とアディショナルタイムのみ。
銅島中は、気力を振り絞り総攻撃に打って出た。再びポゼッションスタイルで反撃の形を作るべく、ボールを最終ラインで回し、GK安田瞬二へ。瞬二がフィールド全体を見渡すと、そこへ下がってきたのはキャプテン・辰野竜介。
瞬二からパスを受けた辰野は、すかさず全員に向けて叫ぶ。
「みんな、キーパーを残して上がれ‼ 総攻撃だ‼」
その声を合図に、銅島中の全員が一斉に黄金台陣内へ雪崩れ込む。ペナルティエリアへ猛然と走り込むのは、チーム随一の体格を誇るDF・大熊元基と、突進力とジャンプ力を併せ持つDF・獅戸半蔵。
その光景に黄金台ベンチも色めき立つ。
紫乃監督が思わず声を上げた。
「こ、これは…パワープレー‼」
マネージャー・香織も息を呑む。
「まさか、中学生でここまでの戦況を見据えているなんて…」
それは単なる力任せの急造戦術ではなかった。明らかに鍛え込まれたシステム。大熊と獅戸、さらにセンターFW安田和輝がペナルティエリア中央に構え、ハイボールからのポストプレー、あるいはそのまま空中戦で競り勝ってゴールを狙う。
そして辰野のロングボールは、黄金台GK田浦昴が飛び出せないギリギリの“死角ゾーン”を正確に突いてきた。まずは安田和輝が高く跳び、胸でボールを落とす。そこへ両ウイングの星川天馬と角崎武が鋭く飛び込む。
何とかクリアしても、すぐに大熊がロングスローを放り込んでくる。その飛距離は、まるでセンタリングのようにゴール前へ届く。再びクリアしても、こぼれ球を拾われては高いボールを送り込まれる――まさに怒涛の波状攻撃。
そしてついに、その時が来た。
パワープレーで混戦を繰り返すうちに、MF北島雪弥がスッと気配を消し、黄金台ディフェンスの視界から外れる。そして拾ったボールを、エリア外のデッドスペースから迷いなく右足一閃。
鋭いミドルシュートがゴール左隅に突き刺さった。
2-2、同点。
残り時間は後半3分とアディショナルタイムのみ。グラウンド全体がヒリヒリとした緊張感に包まれる。
決着の時は確実に近付いていた。




