第5話 決着!PK戦
雪が舞う中、31本目のシュートを放った葵玲央。疲労困憊ながらも決死の覚悟で食らいつく赤江光陽。ボールは光陽の両手を弾き、ゴールバーに当たった後、ゴールライン上を転々とし始めた。
そしてコロコロと右ポストに向かって転がり、ポストに当たったボールはゴールラインのやや外で止まった。
「クソォーッ…止められたか…」
そう言って玲央は両足を押さえうなだれる。一方の光陽はゴールライン上に仰向けに寝転がり、しばらく天を見上げていた。
(………葵玲央か。すげぇ奴がいたもんだな。事情はどうあれ、あれでサッカー部じゃなかったのが勿体ないぜ…)
勝負が決し、田浦昴が玲央に駆け寄ってくる。
「玲央!大丈夫か?」
「ああ、やっぱ本物のサッカー部には敵わなかったなぁ…」
「玲央、お前その靴…」
そう言って昴が玲央の靴を指差す。爪先の辺りから破れていた靴は、パカパカとサンダルのような状態だった。それに気付いた光陽も玲央の元にやって来た。
「お前、いつからそんな状態だったんだ?」
「んー、わかんないけど、10本過ぎぐらいじゃないかな。」
「そんな靴であれだけのシュート打てんのかよ…」
光陽は半ば呆れたような口調だった。
「フッ。PK戦には勝ったが、勝負では俺の負けだな。」
「何言ってんだ、俺の負けだよ。でも、次は負けないぜ!」
「おいおい、またやんのかよ…。今度は俺の靴が破けちまうぜ。」
「そうだぞ玲央。靴がないと勝負どころじゃない。」
玲央と光陽、そして昴。いつの間にか3人は笑い合っていた。そしてさっきまで降っていた雪も止み、わずかに日が差し始める。
ふいに玲央が口を開いた。
「なあ光陽。負けといて言うのもなんだけど、一緒にサッカー部やらないか?お前となら面白いサッカーが出来そうな気がするんだ。」
光陽の答えはもう決まっていた。
「俺もそう思ってた。その前にやることがあるけどな。」
「やること?」
玲央が問い返すと、
「サッカー部を作るって申請しないと、何も始まらんよ。」
「ああ、そっか。忘れてた。」
「全く、マジでサッカー以外は頭にないんだな。面白ぇ奴だぜ。」
そして光陽は立ち上がり、帰る準備をする。
「じゃあな玲央、と、昴か。明日申請しに行こうぜ。」
玲央は満面の笑みで答えた。
「よっしゃー!楽しみになってきたぞ!光陽、また明日な!」
サッカー部創設に向けて盛り上がる3人。その様子を遠くから見つめる人物がいた。一人は玲央たちの担任、有屋紫乃。そしてもう一人は玲央の母、葵玲愛だった。
「やれやれ。入学早々グランドを勝手に使っちゃって…」
「でも内心はワクワクしてるんじゃないの?」
「ふふ、そうね。とりあえず明日が楽しみね。」
紫乃と玲愛は自分たちの過去に思いを馳せつつ、これから始まる玲央たちの行動を温かく見守ろうと思うのであった。