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第55話 前半終了、レジェンド来たる。


フィールドプレイヤーが2人足りない状態の黄金台高校だったが、人数のハンデを感じさせない堂々たる試合運びを見せていた。序盤から互いのポジショニングとパスワークを意識した試合展開が続き、特に黄金台高校は少人数であることを逆手に取り、コンパクトかつ機動力重視のフォーメーションを形成していた。


テクニックのある神田照真と魚住大輔のサイドMFを軸に、葵玲央や赤江光陽が左右に展開し、テンポよくパスを回す。前線の柳沼主良の動き出しに呼応して、早乙女咲哉や氷見翔弥がオーバーラップを仕掛け、何度か決定機を演出する場面もあった。


相手の銅島中学校もまた、基礎がしっかりしており、個々のフィジカルやポジショニングは申し分ない。ゲーム中盤、黄金台の展開力に押されかけた銅島中は、すぐさま変型フォーメーションに切り替え、中盤の枚数を増やして守備を強化。監督・徳丸巧の指導のもと、瞬時の判断と統率でチーム全体が連動し、黄金台の攻撃を封じにかかる。


両者譲らぬまま、0-0で前半30分の笛が鳴る。得点は動かなかったものの、互いに意地と技術のぶつかり合いが濃密に詰まった、見応えある前半だった。


ハーフタイム。両ベンチでは水分補給をしながら、選手たちが指導者の声に耳を傾ける。黄金台の監督・有屋紫乃は、戦況を冷静に見極めつつ、次なる一手を思案していた。


そのとき、観客席の後方から、ひとりの人物が歩いてくるのが目に入った。年配の男性だが、姿勢はしゃんと伸び、見る者を自然と惹きつけるような気迫をまとっている。


その人物は、迷うことなく銅島中のベンチへと近づき、穏やかに、しかし確かな声で徳丸監督に声をかけた。


「やあ、徳丸監督。銅島中のみんなは統率が取れていて、一人一人がよく鍛えられているね。」


振り向いた徳丸巧の表情に、一瞬驚きと敬意の色が浮かぶ。


「お、お久しぶりです……奥寺さん。」


そう、その男こそ―― かつて“東洋のコンピュータ”と称され、ドイツ・ブンデスリーガで日本人第一号プロ選手として名を馳せ、現在は日本サッカー協会の顧問を務める伝説の男、奥寺康彦であった。


銅島中の選手たちもざわつき始める。自分たちのチームを観戦に来てくれたことに感動し、背筋を伸ばして奥寺に挨拶する。


だが、奥寺は彼らに笑顔を見せたあと、ゆっくりと黄金台高校のベンチのほうへと歩き出す。


田浦昴が最初に気づき、驚いたように立ち上がった。マネージャーの木庭香織も、思わず手にしたメモ帳を落としそうになる。


現役を退いてから数十年の時が流れていても、その立ち居振る舞いと気配、そして圧倒的なオーラは、まさに“現役時代のまま”だった。


黄金台のベンチには、一瞬の静寂が流れる。選手たちも水を飲む手を止め、じっと奥寺を見つめる。


サッカー界の生きる伝説――奥寺康彦が、黄金台に何を伝えようとしているのか。その言葉を、誰もが待ち構えていた。

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