第53話 十和田湖合宿・3日目――「再戦」
合宿3日目、朝。
快晴の十和田湖畔に、今日も黄金台サッカー部の掛け声が響いていた。
朝の体力メニュー、ダッシュ&ドリブル練習、コーン間のターンや1対1の駆け引き――
ハードな内容にも、9人の表情には疲れよりもどこか物足りなさが滲んでいた。
「……なんかさ、カラダは動くんだけどな」
ミッツ(赤江光陽)がボソリと呟く。
「わかる。動けるのに、ぶつける相手がいねぇって感じ」
テル(神田照真)が横でうなずく。
「みんな……試合がしたくてウズウズしてるのね」
その様子を見ていた**マネージャー兼戦術補佐・木庭香織**が、紫乃の方をちらりと見やる。
そしてその監督――有屋紫乃は、いつもの落ち着いた声で言った。
「そんなに焦らなくても大丈夫よ。ちゃんと練習試合の予定も入れてあるから。ちなみに――」
一拍おいて、唇に微笑を浮かべながら続けた。
「明日ね」
「っしゃあああああ!!!」
一同の目が輝き、咆哮のような歓声が木霊した。
「試合……!」
「やっと、実戦だ!!」
「……相手は?」
ムウ(有屋夢生)が一歩前に出て尋ねた。
紫乃は少しだけ含みをもたせながら答えた。
「来てからのお楽しみ。ちゃんと、因縁のある相手よ」
一同の脳裏に、ある記憶がよぎる。――あの初戦。
そして、合宿3日目午後。
昼のトレーニング後。
一行は宿舎から車で20分ほどの距離にある湖畔の空きグラウンドへと移動していた。
湖と山々に囲まれた自然豊かなフィールド。ところどころ草が生い茂っているが、整備された土のピッチは、十分に“試合”の場にふさわしかった。
「ここ、空気がうまいなぁ」
「ボールの音もよく響くし、いい感覚だ」
ウォーミングアップを進める黄金台の面々。そんな中、1台のマイクロバスがグラウンドに横付けされた。
「来たぞ……」
ユニフォーム姿で降りてくる選手たちを見て、ムウがポツリと呟く。
「……やっぱり……銅島中だ!」
全員が息を呑んだ。
――そう。
彼らが初めて“チーム”として試合をした、最初の相手。
人数も足りず、戦術も未完成だったあの時――2対6で敗れた“悔しさ”が、今、鮮やかに蘇る。
銅島中のメンバーも、見覚えのある黄金台の姿に気づいた様子で、何人かが笑顔で近づいてくる。
「おーい! 久しぶり!」
「高校サッカー部、続いてて何よりです!」
「もちろんさ」
玲央が笑顔で返す。
自然と交わされる挨拶と握手。だが、その裏には、もう一度ぶつかりたいという想いがあった。
「今回はうちもフルメンバーで来てますよ」
銅島のキャプテン辰野竜介が、少し誇らしげに言った。
「望むところだよ。今の俺たちを、見せてやる」
レオの言葉に、メンバーたちが自然と頷いた。
ミッツ、ムウ、テル、バル、ショウ、ザック、ズミ、カズ――
そしてレオ。9人が並んだその姿には、“部”としての誇りと覚悟が宿っていた。
試合開始を告げるホイッスルは、もうすぐ鳴ろうとしていた。
「黄金台高校 VS 銅島中学校」――再戦、間もなくキックオフ。




