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第52話 十和田湖合宿・2日目――「暁と王者と」

 合宿2日目の朝。 湖面には薄く霧がかかり、空は淡い茜色に染まりはじめていた。鳥のさえずりが響く十和田湖畔、砂浜を静かに走る影が一つ――**葵玲央レオ**だった。 玲央は無言で、しかし確かな足取りで地を蹴る。波の音、風の匂い、砂の感触。 そのすべてが彼の小宇宙を、静かに燃やしていた。 (……あの春、サッカー部を作った日から、何もかもが変わった。ここまで、みんなで積み上げてきた)

(だけど俺は――まだ、あいつに追いついていない。相羽猛……苅田雄希……) 玲央の脳裏に、冥桜の双璧の姿が浮かぶ。

「この合宿でもっと強くなる。新人戦で、必ず……勝つ」

  拳を握りしめたその時――向かいから、もう一人の影が駆けてきた。**赤江光陽ミッツ**だった。

「よう、レオ。お前、やっぱ走ってたか」

「ミッツ……なんで?」

「んー、何だかレオん家で修行始めてから、体内時計が野生化してさ。自然に起きちまうんだよな、こういう時」 にやりと笑うミッツ。肩を並べて走るその姿に、静かな連帯感が生まれる。だが――

「……ん? 後ろから……誰か来るぞ」 玲央が振り向いた。

「えっ……」

「お、お前らまで!?」

 ミッツが目を見開く。 朝靄の中、後方から黄金台サッカー部の仲間たちが次々と現れる。 バル(田浦昴)、テル(神田照真)、ショウ(氷見翔弥)、ズミ(魚住大輔)、ザック(早乙女咲哉)、カズ(柳沼主良)―― 最後には、キャプテン・**ムウ(有屋夢生)**がしんがりを走っていた。

「合宿で一番やる気出してるの、君らだけにさせてたまるかよ」

「うっせーよ、キャプテンのくせに最後じゃねーか!」

「……これは“修行”ではない、“共修”だな」ザックが仏頂面で呟き、みんなが苦笑いする。 朝焼けに染まる十和田湖畔。 砂浜に、黄金台の9人の足跡が一列に刻まれていく。誰一人欠けることなく、歩幅が揃い始めていた。


 そして――その時。

「……あれ、正面……」 レオがふと、前方に目をやる。

「あいつら……走ってきてるのか?」 夕焼けのような朝焼けの中、もう一つの集団がこちらに向かってきていた。20人以上。統率の取れたフォーム、一定のリズム。何よりも、目を奪われたのはその練習着の色だった。

「え……あのユニフォーム……」

「うそだろ……まさか……」ミッツが小声で呟く。 そしてムウが、確信を持って言った。

「**あれは……青浜学園――“青森浜田学園”**じゃないか……」 一同に、衝撃が走った。


 青浜学園。 隣県・青森の、誰もが知る全国最強の高校サッカー部。夏のインターハイ、冬の選手権をここ3年間で“6連覇”中。 まさに“高校サッカーの絶対王者”。 黄金台の9人と、青浜の20人あまりの集団が、湖畔の一角で――静かにすれ違う。


 互いに立ち止まる。 青浜側にも、どこか見覚えのある顔がいた。J下部組織から進学したとされる司令塔・比良坂蓮ひらさか・れん、昨年全国大会で“決勝ハットトリック”を決めたストライカー・門脇征真かどわき・せいま……テレビでしか見たことのない選手たちが、目の前にいた。

「……本物だ……」 思わず誰かが呟く。 緊張が、静かに湖畔を包む。 目と目が合い、言葉がなくとも、互いにその“覚悟”と“領域”の違いが、胸に刺さる。

 しかし、青浜のキャプテンらしき男が、黄金台の方に軽く会釈した。それに、玲央が小さく頷き返す。

「……行こうぜ、レオ」

「……ああ」

言葉は交わさない。だが、それだけで十分だった。 青浜学園の練習拠点も、どうやら十和田湖畔らしい。 偶然か、必然か―― 黄金台と青浜、**“東北の無名校”と“全国の絶対王者”**が、静かに出会った朝だった。


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