第50話 夏、十和田湖畔にて ― 黄金台サッカー部、強化合宿開始 ―
東北の夏、澄んだ空気と強い陽射し。 蝉の鳴き声が山々に響き渡る中、黄金台高校サッカー部の面々を乗せたマイクロバスが、十和田湖畔の合宿所に到着した。 バスから降りた瞬間、青く広がる湖面に目を奪われる。 真夏とは思えぬ涼やかな風が頬をなで、湖の奥から吹き抜ける空気に、全員が一瞬でリフレッシュされる。 「……うわ、すげえ……」 柳沼主良がつぶやく。 「これが十和田湖……やるぞ、オレたち!」 光陽の拳が、自然と力強く握られる。
「ここでやる意味、分かるよね?」 宿に荷物を下ろしたあと、すぐさま紫乃監督が全員を湖畔に集める。 「相手は11人、こっちは9人。普通にやったら、勝てない。だから――走れること。戦い続ける体力、フィジカルをこの合宿で叩き込む」 その横では、木庭香織がホワイトボードを手に、淡々とメニューを読み上げる。 「明日からのメニュー。朝5時半起床。6時から湖畔ドリブルラン。午前は浜辺ダッシュ、タイヤ引きトレーニング、午後は基礎筋トレとインターバル走……夜は座学と戦術解析です」 全員が一瞬、苦笑しながらも、視線は真っすぐだった。
葵玲央は、静かに遠くの湖を見つめる。 「この夏で、俺は変わる。誰にも負けない力を――」
赤江光陽は、玲央の隣で腕を組む。 「相羽に勝ちたい。苅田に追いつきたい。そんでもって、玲央に勝ちたい。全部本気だ」
GK田浦昴は、湖に映る自分の姿に言い聞かせる。 「止める。絶対に止める。それが俺の使命だ」
キャプテン・有屋夢生は、全員の背中を見つめる。 「9人全員が、1.5倍動けるチームになればいい。それが、この合宿の意味だ」
神田照真は、少し離れたところでドリブル練習を始めている。 「ドリブルもスタミナも、全部磨いてやる。負けてたまるか……!」
魚住大輔は、砂浜で片足立ち。 「止めて、蹴って、走って、持ちこたえて、決める……! なんか、燃えてきたな」
氷見翔弥と早乙女咲哉は、肩を並べて前を見据える。 「やろうぜ、咲哉」 「ああ。俺たちが守り抜く」
そして、1トップの柳沼主良は、空を仰いだ。 「今年の夏は、俺たちのターニングポイントになる。そう思うんだ」
その日の夕飯後、紫乃監督は宣言する。 「この一週間で、9人全員が限界を超える。思い出なんか、いらない。必要なのは、結果。――さあ、始めよう」 目標は、“公式戦初勝利”。 その先の――秋田県の頂点へ。




