第4話 二人の意地
4月、東北の春はもうすぐそこまで来ようかという頃、しかし空には未だ雪雲が横たわっていた。秋田県黄金台市にある黄金台高校。グランドの片隅にあるサッカーゴール前では、いつ終わるとも分からないPK戦が続いていた。
-ピィィィィッ!-
-スパッ!-
-ピィィィィッ!-
-ズバッ!-
繰り返すホイッスルの音と、ゴールネットを揺さぶる音が、静まり返ったグランド周辺に響く。PK戦開始から約1時間。雪がちらつき始める中、葵玲央と赤江光陽の戦いは、30本を越えても尚、終わりが見えないままだった。
「ハァ…ハァ…なかなかしぶとい野郎だ…」
「ハァ…ハァ…お前こそな。」
膠着状態が続く中、光陽が31本目のシュートに向かう。
「そろそろ墜ちやがれェー!」
渾身の力を込めた光陽のシュート、しかし玲央は徐々に反応速度が上がっていた。30本も打ち続ければスピードは鈍って当然だが、ここに来て玲央の今までの自主トレーニングの成果が出始める。強靱な足腰のバネを生かし、光陽の放ったシュートコースに横っ跳びする。伸ばした手がボールに触れ、ポストを叩く音がした。
「ついに止めたか!?」
二人の勝負を見届けつつホイッスルを吹いていた田浦昴も目を見張った。玲央の触れたボールは左ポストに当たり、そのまま逆のポストの方へバウンドする。そしてボールは右ポストに当たると、そのままゴールラインを割った。
「クッソォーッ!やっと当たったのに。」
強靱な足腰を誇る玲央もさすがに疲れの色が隠せない。だが、それ以上に光陽も疲労困憊していた。
「こんなとこで…サッカー部じゃねぇ奴に、負けてたまるかァッ!」
気力を振り絞り、光陽がゴールマウスに立つ。
「来いッ、玲央!絶対止めてやる!」
それを受けて玲央も言い返す。
「いくぜ、光陽ィッ!!」
昴もホイッスルを吹く。31本目の玲央のシュート。コースは甘いが手元で急激に伸びる強烈なシュートが放たれた。光陽はボールに食らいつき、両手で止めに行く。
「今度こそ止めるゥゥゥ!!」
伸ばした両手が玲央のシュートを捉えた。がしかし、あまりのシュートの威力に腕が弾かれた。
(この期に及んで何て威力だ…!だが…)
光陽の手を弾いてシュートコースは変わり、ゴールバーに当たる音がする。
(止めたか…?)
疲労困憊の光陽はボールを見失う。一方の玲央はボールの動きをしっかりと見ていた。強烈な威力のシュートの余力でボールは激しく上下にバウンドし、再びゴールバーに当たる。そしてゴールライン上を転々とし始めた。
(入れ、入れーッ!)
二人の勝負を見届けている昴も祈る。玲央も思わず声に出る。
「入れェーッ!」
そして、ようやくボールが止まろうとしていた。