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第48話 均衡、そして衝突

 後半のホイッスルが鳴り響いた瞬間、空気が変わった。 秋田翔陵高校が、牙を剥いた。 フォーメーションは3-4-3。 3バックに変更し、中盤の枚数を増やすことで、攻守の切り替えとプレス強度を高める。 ピッチ中央、キャプテン・山崎豊の声が響く。 「行くぞ、ここからは俺たちの時間だ!」 その指揮のもと、泉清澄が中盤でタクトを振るい、新城千秋が左サイドからドリブルで切り込み、怒涛の攻撃が冥桜ゴールへと襲いかかる。 冥桜も応戦するが、中盤の主導権は徐々に翔陵へと傾いていった。

 後半10分。翔陵ベンチが決断する。 運動量の落ちてきた2選手に代わり、攻撃的なMFとFWを投入。 ベンチから送り出されたフレッシュな2人は、そのまま両サイドに配置され、圧力を強化する構え。 「行ける、流れはウチにある!」 ベンチの声も熱を帯び、スタンドからは翔陵サイドの応援が一層強まった。

 しかし―― 冥桜は沈黙してはいなかった。 監督・蓮田芽衣の指示が飛ぶ。 「栗尾、上がっていいわよ。苅田、右にスライド。トップは相羽一人でいく」 ピッチ上に再び浮かび上がる、冥桜の“変則フォーメーション”。 GKの栗尾貴史がゴールを飛び出し、ボランチに上がる。 代わりに、1年生GKが急遽ピッチに入り、最後尾を託される。 トップ下の苅田雄希は右サイドへ。 そして相羽猛が、孤高の1トップとして最前線に立つ。 3-6-1――。 中盤を分厚くして、ピッチ全体の支配権を奪い返しにかかる。

 戦術がぶつかり合い、再び試合は膠着状態に入っていく。 どちらも得点には届かない。だが、ピッチの温度は確実に上がっていた。 そして―― 後半20分過ぎ。 冥桜の苅田が中盤でボールを持つと、一気に縦へ鋭いスルーパスを送る。 受け手はもちろん、相羽猛。 相羽はディフェンスラインと絶妙な駆け引きを続けながら、ライン裏へと抜け出す。 このままでは、2点目――。 そう悟った翔陵のDFが、全速でカバーに入り、タックルを仕掛けた。 バッ! 肉と肉がぶつかり合う激しい衝突。 相羽が空中で回転し、そのままピッチに叩きつけられた。 翔陵DFもその場に倒れ込む。 一瞬、時が止まった。 スタジアム中が静まり返る中、主審が迷いなく掲げたのは、赤いカードだった。 レッドカード。 翔陵DFに一発退場が言い渡される。 会場にどよめきが走る。 「10人で、残り25分以上を戦うというのか…?」

 だが―― 誰もが息を呑んだのは、退場ではなく、その後の光景だった。 相羽猛が、起き上がれない。 芝を強く掴みながら、右足首を押さえ、苦悶の表情を浮かべている。 冥桜の選手たちが駆け寄り、スタッフが急いでピッチへと走る。 担架が運ばれる中、苅田が表情を固くしながら呟く。 「マジかよ…、相羽…」

 その映像は、テレビを通じて黄金台高校サッカー部にも届けられていた。 玲央の家で修業中の葵玲央と赤江光陽。 部員それぞれが自宅で、画面の中の相羽猛を見つめる。 グラウンドを所狭しと駆けていた姿。 力強いシュート。 圧倒的な存在感。 それらが、今では倒れたまま、何も語らない姿へと変わっていた。 「嘘だろ…」 光陽が小さく呟いた。 玲央は無言のまま、画面を真っ直ぐ見つめていた。

 ピッチも、スタンドも、視聴者も―― 全てが同じ想いを抱いていた。 「相羽猛は、大丈夫なのか?」 重く、苦しく、しかし目が離せない時間が続いていた。

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