第47話 重い先制点
時間は前半30分を過ぎた頃。 両校ともに相手の牙城を崩すことができないまま、試合は一進一退を繰すり返していた。 冥桜・相羽猛が放つシュート。 翔陵・泉清澄が仕掛けるスルーパス。 翔陵・新城千秋の反転とボレー。 冥桜・ゴールキーパー栗尾貴史の守備範囲の広さと指示力。 山崎豊のフィードと統率力。 まさに“秋田の高校サッカー最高峰”の名にふさわしい、魂のぶつかり合いだった。 そして――
前半33分、決勝を動かすプレイが生まれる。 冥桜DF笠根英がカットしたボールを、中盤の栗尾が拾う。 一拍溜めて、中央やや右寄りにポジションを取った苅田雄希へ。 苅田は翔陵の中盤プレスをワンタッチでかわし、左足でピッチを斜めに切り裂くようなスルーパスを放つ。 「来い――!」 そのパスに反応したのは、もちろん相羽猛。 山崎豊のラインコントロールをギリギリで掻い潜り、最終ラインの裏へと飛び出す。 GK寺内が飛び出す直前、ボールに足を伸ばした―― その瞬間、 「ッ…!」 相羽がペナルティエリア内で倒された。 審判のホイッスルが高く鳴り響く。 PKの判定。
スタンドがざわつく。翔陵の選手たちが詰め寄るが、判定は覆らない。 ボールを手に取ったのは、相羽自身だった。 無言でPKスポットに立ち、スタジアムの空気が張り詰める。 GK寺内は読み切っていた。 正確な重心移動、わずかな足の角度の変化…相羽の癖を見抜いていた。 だが――--- ドンッ! 相羽のシュートは、読まれていたにもかかわらず、寺内の指先を強引に弾いてゴールネットを揺らした。 1-0、大館冥桜、先制。 ベンチも観客席も爆発的な歓声に包まれる中、相羽は歓喜を見せない。 そのまま黙々と自陣に戻る。 その姿に、相手のキャプテン・山崎豊がポツリと呟いた。 「…まだまだ出し切っちゃいねぇな、相羽」
失点を喫した秋田翔陵は、前線からのプレスを一気に強める。 キャプテン山崎がDFラインを高く保ち、MF泉清澄が試合のリズムを掌握しようと広範囲を駆け回る。 新城千秋がドリブルから反転、左足のインステップで放った一撃は、ゴール右隅を狙った。 ――が、栗尾の超反応セーブ! 跳躍力、読み、タイミングすべてが完璧だった。 その直後も、翔陵は中央から素早いパス交換で冥桜DFを崩しかけるが、 栗尾の鋭い読みと、深井薫を中心とした冥桜ディフェンスラインの粘りで、ゴールには届かない。
45分+1分のアディショナルタイムの笛が鳴る。 冥桜1-0翔陵。 ゴール裏では、テレビ越しに見守る玲央と光陽も固唾を飲んでいた。 「やっぱすげぇな、冥桜…」 「でも…翔陵も引いてない。こっからが本番だ」 2人の視線の先にあるのは、秋田の頂点。そして――その先の全国。 ピッチの中央では、両校の選手がそれぞれに前半の疲労と修正点を胸に、静かにロッカールームへと引き上げていく。 だが、この試合はまだ折り返し地点。 後半、さらなる激闘が待ち受けていた。




