表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/61

第45話 冥桜劇場

 後半キックオフ。 冥桜学園はメンバーチェンジもフォーメーションの変更もなし。 だが、西目総合は動いた。**MFに3年生・宮下大暉みやした・だいき岩沢瑞稀いわさわ・みずき**を投入。 スタミナと守備力に優れた二人の投入で、中盤の密度を高め、ボール支配率を上げていく狙いだ。 立ち上がりから、西目がペースを掴み始めた。 深沢と今泉の両サイドから縦へ縦へと仕掛け、FW井岡がポスト役に回りながらボールを収める。 幾度となく、冥桜のゴールに迫る――が。 そのたびに、GK栗尾貴史が立ちはだかる。 抜群のポジショニングと反応速度。際どいコースも伸ばした指先で弾き出し、 「まるで予知していたような」守備範囲と冷静な指示で、冥桜の守備を一枚岩にしていた。 冥桜のゴール前は、まさに鉄壁だった。

  そして、後半20分――冥桜が動く。 ゴールキーパー・栗尾が前線に歩み出し、本来のボランチへ。 代わってゴールマウスに入ったのは、控えの1年生GK・三谷琉翔みたに・りゅうと。 フォーメーションも、4-2-3-1から3-6-1へ大胆にシフトチェンジ。 トップ下にいた苅田雄希は右ウイングへスライド。 FWはエース・相羽猛ただ一人。孤高の1トップとなる。 そして、そこからが冥桜の真の時間だった。

 苅田がサイドで爆発する。まるでウイングに転向する瞬間を見越していたかのような軽やかさと加速。 西目の左サイドバックを幾度も置き去りにし、ゴール前へ切り込む。 鋭いラストパス。針の穴を通すようなクロス。 その全てを受け止め、決めるのが相羽だった。 後半22分、苅田の高速クロスをダイレクトで合わせてゴール。 後半24分、相羽がDFを一人で突破して単独カウンターからの2点目。 後半25分、苅田とのワンツーで抜け出し、左足で叩き込んでハットトリック。 エース、相羽猛の真の恐ろしさをピッチにいる全員が思い知った。 ――その時点で、相羽はベンチに下がる。淡々と、全く疲れを見せずに。 そして30分過ぎ、苅田と栗尾も交代。 代わりにディフェンスの要、キャプテン・深井薫がボランチに上がり、試合を締めにかかる。

 冥桜は守備を固め、徹底的にスペースを消す布陣に。 それでも、西目は意地を見せた。 時間はすでにアディショナルタイム。 最後のプレー、コーナーキック。 キッカーは深沢。 中央に構えるのはCBの沼田冬師。 鋭いクロス。――沼田がニアでヘディングを合わせる! 西目、意地の一発。1点を返す。 その瞬間、主審のホイッスルが響き渡った。 試合終了――3-1。冥桜学園、決勝進出。

 静まり返ったスタンド。 そこには、黄金台高校サッカー部のメンバーたちが固まって座っていた。 夢生は拳を握りしめ、言葉を失っていた。 昴は肩を震わせ、「……強ぇ」とだけ漏らす。 翔弥は険しい顔で「相羽も苅田も……栗尾も、別次元すぎる」と呟いた。 柳沼主良は沈黙したまま、フィールドを見つめていた。 マネージャー・香織は顔を上げて紫乃を見る。 「……監督。あれが、冥桜の“本気”ですか?」 紫乃は頷きながらも、どこか冷静だった。 「ええ。けれど、たぶん……全力ではないわ」 一同、目を見張る。 「前半、全員にパワーアンクルを装着させて、あえて不調に見せる。 後半、試合中に課題を与え、自分たちで解決させる。――選手に考えさせるサッカー。 それが……蓮田芽衣の手腕よ」 紫乃の表情は、どこか悔しさと、同時に確信めいた光を湛えていた。 「でも、ヒントは得たわ。これで、何も見えなかったわけじゃない」 夢生が立ち上がる。「……なら、やるしかないね。」 他のメンバーたちも、それに続いた。

 バスへ向かう帰り道。 空には、暮れ始めた初夏の夕日が差し込んでいる。 沈黙が続く中で、夢生が口を開いた。 「俺、あの相羽って奴に、いつか勝ちたい。こんな気持ちになるのは初めてかも。」 紫乃は少し笑い、「その気持ちがあれば、大丈夫よ」と静かに答えた。 香織はスマホを見つめながら、「次の練習メニュー、きっとハードになるよ……」と呟く。 黄金台サッカー部は、静かに、しかし確かに――次のステージへ進み始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ