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第44話 有屋紫乃-超えられなかった壁への再挑戦-

 ハーフタイム。 ベンチに戻った冥桜の3巨頭は、互いに声を掛け合いながら冷静に動きの修正案を確認すり。 対する西目総合も沼田が全体をまとめ、次への意識を高めている。 スタンドでは、紫乃監督がノートを手に寄り添う香織と夢生に微笑んだ。 「0-0で折り返したわね。想像以上に、西目も強い。 この先、どちらが先にギアを上げられるかが勝負よ。」夢生が静かに頷き、香織はノートをめくって次のプランを練り始める。 「さあ、後半へ。あと45分、目を離しちゃダメよ。」 紫乃の言葉に、三人はうなずき返し、後半へと向かった。 ――頂きは、まだ遠い。 だが、この0-0が、「超えられる可能性」を見せてくれたのだと、6人は胸に刻んだ。

 しかし、一方で紫乃は何か違和感を覚えていた。ベンチから戻ってくる冥桜の選手たち。彼らの足取りに、妙な重さがある。 紫乃は、ただ観戦者としてではなく、指導者の目でそれを見逃さなかった。 スピード、判断、ポジショニング――どれも違和感を拭えない。特にエースストライカー・相羽猛の動きは、あまりに重い。単に守備が堅いから、という言葉では説明がつかない。 ふと紫乃の視線が、冥桜のベンチに向いた。その一角、シートの下。 見慣れた色と形。そこには、山のように積まれたパワーアンクルとパワーリストがあった。 「……まさか。全員、パワーアンクルを着けたまま前半を……?」 瞬間、紫乃の脳裏に、懐かしくも苦い記憶がよみがえる。 ベンチに立つ、冥桜の監督――蓮田芽衣はすだ・めい。 あの背筋の伸びた立ち姿。眼差しの鋭さ。立っているだけでわかる。 紫乃の中で、永遠の“越えられなかった壁”が再び目の前に立っていた。


 高校時代、紫乃は女子サッカー部の中心選手だった。 ひたむきな努力と冷静な判断力で、キャプテンとして周囲を引っ張っていた。 だが、その目の前には常に芽衣という存在があった。 公式戦で何度も激突したが、一度も勝てなかった。 芽衣は、技術もフィジカルも、精神面も完成されていた。 やがて紫乃も日本代表候補にまで登り詰める。あと一歩で、正代表。 それでも芽衣はすでに代表レギュラー。ポジションは被っていた。 焦り、努力し、アピールしようとしたある練習中、紫乃は足を負傷。 そのままピッチに立てなくなり、現役引退を決意。 「もう、サッカーはやめよう」――そう思った。 だが、それでも、サッカーを「嫌いになれなかった」。 プロではなく、教師としての道を選んだ紫乃は、サッカーを“遠くから”見守り続けていた。

  ある日、ふと目にした一枚の記事。 “秋田県に、初の女性監督誕生。元女子プロサッカー選手、蓮田芽衣。” 読み進めるうちに、胸の奥に、再燃するものがあった。 (また……あの人が前を歩いている) その日から、紫乃の心に小さな火種が灯った。 そんな折、葵玲央という少年が「サッカー部を作りたい」と願い出た。 紫乃はその想いに押され、再び“サッカーの現場”へ戻ることを決意する。 少しずつ集まる部員たちの姿に、確信を得た。 (この子たちとなら、もう一度――) そして、紫乃は冥桜学園との練習試合を申し出る。 それは、自らの想いにけじめをつけるため。そして、純粋に今の黄金台高校の実力を試すため。

 そして冥桜学園との練習試合後、簡素なあいさつだけが交わされた。 「芽衣先輩……あなたのサッカー、学ばせていただきます」 「……期待してるわ、紫乃。簡単には教えないけどね」 蓮田芽衣は静かに笑った。だが、その視線の奥には、まだ競技者の炎が燃えていた。

スタジアムの風が、再び吹き抜けた。 冥桜の選手たちは、重しを脱ぎ捨て、ベンチ前で深く息を吐いている。 紫乃は再び立ち上がった。香織と夢生、そして観戦する部員たちに目を向けながら、静かに呟く。 「――いよいよ、本気の冥桜が来るわ。見せてもらいましょう、県の頂点を狙う高校の本気を。」 そして、スタジアムに再び主審のホイッスルが鳴り響いた。 冥桜 VS 西目総合、後半戦、キックオフ。 ――試されるのは、覚悟と矜持。そして、このピッチに立つ理由そのもの。



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