第3話 白熱のPK戦!
入学式初日。ホームルームを終えた葵玲央と赤江光陽。二人のPK勝負を見届けるため、田浦昴が立ち会う。赤江は100円玉を取り出し、コイントスを始めた。
「表か。葵、お前が先攻後攻を選んでくれ。」
赤江がそう言うと玲央は、
「じゃあ後攻で!」
「OK。なら始めるか。」
玲央はゴール前に、赤江はボールを手にペナルティースポット前に立つ。それを真剣な眼差しで昴が見ていた。対峙するふたり。一瞬の静寂と緊張感が漂う。そして昴がホイッスルに口を近づけた。
-ピィィィィッ!-
ホイッスルと同時に赤江が助走し、あっという間にゴール右隅に決める。
(は、速い!)
これには玲央も驚きを隠せなかった。一歩も反応出来なかったのだ。赤江は挑発的にゴールに向かってきた。
「おいおい、こんなんで驚くのは早いぜ。ワールドカップ優勝を夢見る葵くんよぉ。」
ニヤリと笑う赤江だったが、玲央の表情を見てすぐに落ち着きを取り戻した。
(コイツ、笑ってやがる。)
玲央は心底ワクワクしていたのだ。入学初日に強敵に巡り会えたこと、そして作り物じゃないサッカーゴールを前にサッカーが出来ることを。
「次は俺の番だな。」
そう言って玲央はペナルティースポットに向かい、ボールをセットした。そこから5歩下がり、ボールと赤江とゴール全体を見つめる。その目は獲物を威嚇する獅子のようだった。赤江もそれを感じ取っていた。
そして昴がホイッスルを吹く。玲央はゆっくりと、そして力強く踏み込んだ。
-ドゴォォッ!-
ボールを蹴る衝撃音が強烈なシュートを物語る。しかし、赤江はすぐにボールに反応していた。
(強い。だがコースが甘い!)
中央よりやや左側、赤江から見て右側にボールが飛んでくる。コースを読み切った赤江はパンチングで防ごうとした。だが、その瞬間。
(な、なんだと!?)
赤江はボールに触れず、ゴールが決まった。どうだと言わんばかりに玲央はガッツポーズをする。それを見つめる赤江。
(ボールがいきなり消えた。いや、消えたというより伸びてきた感じだ。)
完全に面食らった赤江だったが、内心ではワクワクし始めていた。
(こんなヤツがいるとはな。)
互いに1本目を蹴り終えたばかりだったが、お互いの力量を認め始めていた。PK戦はそこからどちらも外さないまま続いていく。
息の詰まるような攻防が続き、10本目に差し掛かったところで、赤江が玲央に語りかけた。
「葵。自己紹介の時に気に食わんと言ったな。何でか分かるか?」
「ごめん、俺にはさっぱりわからないや。」
玲央の答えに赤江は話し続ける。
「俺の夢もワールドカップ優勝だ。だからこそ、真っ先にみんなの前で宣言して、自分を追い込みたかった。それをサッカー部でもないお前に言われたから尚更な。コノヤロウって思っちまったんだ。」
赤江は飾らない真っ直ぐな思いをぶつけてきた。それを聞いた玲央は笑顔になって応えた。
「じゃあ、一緒にワールドカップ優勝目指そうぜ。」
「フッ、その前にサッカー部作るんじゃないのか?」
赤江はボールをペナルティースポットにセットし、玲央に対峙した。
「俺は負けん。いくぜ、玲央!」
「俺も負けない。来い、光陽!」
いつしか互いを認め、自然と名前で呼ぶ二人。そしてPK戦は再び続いていくのであった。