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第35話 眠れる獅子

 試合終了のホイッスルが鳴り響いてから、しばらくの間、ピッチは静まり返っていた。 スコアは3-18。 圧倒的な差で敗北した黄金台サッカー部。 誰も言葉を発せず、誰も顔を上げなかった。 そんな中、ひときわ大きく倒れ伏していたのが、葵玲央だった。 「……おい、玲央……! 大丈夫か……!?」 神田照真が駆け寄り、肩をゆする。 魚住大輔や早乙女咲哉も顔を覗き込む。 氷見翔弥が血相を変えて叫ぶ。 「玲央っ、しっかりしろ!!」 すると―― 「……んがぁ……」 玲央は小さく寝返りを打って、すやすやと寝息を立てていた。 「……寝てる!?」「えっ、まさかの……?」 「お前……試合中に、限界超えて目覚めて……そのまま寝落ちって……」 全員が一瞬唖然とした後、力なく苦笑する。 「ほんと……何なんだよ、こいつは」 倒れたまま、気持ちよさそうに眠る玲央。 その表情は、どこか満ち足りたようでもあった。 だが、その直前まで彼が見せたプレー―― あの冥桜の守備陣を一人で抜き去った異様なまでの動き。 それはまるで、別人が乗り移ったかのようだった。 「……あの感覚、忘れられねぇ……」 柳沼主良が呟いた。 「時間が……歪んだみたいだった。周りだけがスローで動いて……」 神田も頷く。 「まるで、冥桜の相羽と……同じような」

 そう―― 相羽猛。 今日、彼はまさに怪物だった。 その彼が、試合後の整列も終え、ふいに静かに歩き出す。 向かう先は――眠る葵玲央のもと。 黄金台のメンバーは一様に緊張し、息を飲んだ。 だが相羽は、何も言わずに玲央のそばに立ち、ただ見下ろす。 そして――口を開いた。 「――昇ってこい、**聖域サンクチュアリ**へ」 その一言だけを残して、背を向ける。 誰も、その意味を理解できなかった。 だが、確かにそこには“何か”があった。 相羽が認めた。言葉をかけた。まるで、同じ場所に来いと。 それは、まだ誰も到達していない場所。 本物の“頂”に立つ者が集う、聖なる領域――サンクチュアリ。


 その夜。 ミーティングルームに集まった黄金台のメンバーたち。 紫乃監督が、静かに話し始めた。 「負けた。惨敗だった。だけど――見えたわね」 「……ええ」マネージャーの香織も頷く。 「私たちが、これから何を鍛え、何を積み上げるべきなのか」 夢生が手帳にびっしりとメモを取っている。 咲哉が静かに目を閉じて、神妙に頷く。 翔弥は今にも走り出しそうな勢いで腕を組み直す。 「秋の新人戦まで……まだ時間はある」 紫乃が全員を見渡し、語りかける。 「ここから、もう一度やり直しましょう。あの“怪物たち”に追いつくために」 メンバー全員の胸に、小さく、しかし確かな炎が灯る。 最後に香織が一言だけ、笑みを浮かべて呟いた。 「……それにしても、玲央のあれ、何だったのかしらね」 「ほんと、寝るなって……最後に全部持っていきやがって」 そうぼやく声に、再び苦笑いが広がる。 だが誰もが、心のどこかで思っていた。 ――あれは“偶然”ではない。 ――きっと彼は、何かを掴みかけていた。 いつか、それが“覚醒”と呼ばれる日が来るのだと。 そして、黄金台サッカー部の新たな挑戦が、今――静かに幕を開ける。

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