第33話 猛き覇王、降臨
後半戦が始まった。 冥桜学園3軍は、前半と打って変わって数名の選手を入れ替え、フォーメーションを変更してきた。 明らかに「締めにかかってくる」空気。 だが、それすら黄金台サッカー部の戦術担当・木庭香織は、既に読んでいた。 「夢生くん。後半、あの形で来ると思う。だから……フォーメーション変更を指示して。」 前半終了間際、香織は夢生にひそかに作戦を授けていた。 後半開始と同時に、黄金台は猛然と走りまくる。 夢生の指示が即座に伝わり、神田と魚住が下がることで5バック気味になり、ディフェンスラインは厚く纏まりを見せる。そしてポジションを代えた赤江がボランチまで下がることでボールが収まり、赤江の正確無比な配球に、玲央の体力とスピードと闘志が呼応する。 相手の変化に動揺するどころか、完全に逆手に取った形で黄金台は息を吹き返した。 後半5分、赤江のスルーパスに反応した柳沼がDFラインを抜け出し、1点目。 さらに後半14分、玲央が左サイドを独走して放ったミドルがゴールネットを揺らす。 《スコア:3-4》 歓声が上がる。 ベンチもグラウンドも、確かな手応えに震えていた。 (あと1点……! 追いつける……!) 黄金台メンバーの目に光が宿り、空気も明らかに変わっていた。
だが――。 その瞬間だった。 グラウンドに、ただならぬ気配が流れ込む。 ベンチ裏のゲートが静かに開いた。 そこから歩いてきたのは、漆黒のユニフォームに身を包んだ、十数名の男たち。 冥桜学園・1軍の選手たちだった。 試合を終えたばかりのはずの彼らが、整った髪も、整然とした佇まいもそのままに、静かに歩いてくる。 その姿に、黄金台の選手たちはおろか、冥桜3軍の選手たちも言葉を失った。 「……こんな試合、3軍でも話にならねぇな」 「3点も取られた? 冗談だろ、課題未達どころか赤点だな」 「遊びすぎなんだよ。なぁ、相羽?」 1軍の選手たちが、辛辣な言葉を次々に吐き捨てる。 3軍ベンチの面々も、顔をこわばらせて何も言えない。
そんな中――一人の男が、静かに歩み出た。 黒髪短髪。 大柄で無駄のない身体。 猛獣のような圧倒的な存在感。 その背には、冥桜学園ストライカーの象徴たる数字――「9」。 相羽 猛 冥桜学園2年、1軍エースストライカー。 玲央は、トイレの後で見たあの光景が現実に目の前にあることを理解するのに、わずかな時を要した。 彼は、ピッチの中央まで無言で歩き、審判の前に立つ。 そして、鋭く指差すように言い放った。 「……残り15分で、俺を出せ」 「1分で1点。15点取ってやる」
その瞬間、空気が変わった。 まるで大地に雷が落ちたかのように、グラウンド全体が震えた気がした。 見ているだけで呼吸が浅くなる。 その場にいた誰もが、本能的に「何かが起きる」と感じていた。 冥桜1軍の選手たちが無言でベンチの後ろに並ぶ。 ピッチ上の3軍選手たちは、どこか神妙な面持ちで一歩下がった。 「おい、交代枠は?」 「あります!」 「じゃあ、行くぞ。……邪魔はするなよ」 ベンチ裏から1軍のユニフォームをまとい、相羽がピッチに立つ。 彼がボールを受けた瞬間、世界の速度が変わる―― そんな予感と共に、残り15分が幕を開ける。




