第30話 冥桜3軍猛攻
ホイッスルと同時に、冥桜学園サッカー部3軍が仕掛けてきた。 3軍とは名ばかり。全体で100人を超える部員を擁する冥桜において、3軍でもレギュラー経験者や中学全国組がざらにいる。 その彼らに、ある指令が課されていた。 「前半5点、後半5点、失点ゼロ。これは命令だ」 ――それが冥桜のコーチから3軍に課された“練習内容”だった。 黄金台の9人は、その標的だった。 開始1分、いきなり右サイドを突破される。 サイドバックの早乙女が懸命に食らいつくも、相手の切り返しに対応しきれずクロスを許す。 中央で一度弾かれるも、こぼれ球を拾われ、ミドル一閃。 キーパー田浦が触るも止めきれず、ボールは無情にゴールに吸い込まれた。
さらに5分、中央突破。 氷見が必死に身体をぶつけるが、トライアングルのパス回しで翻弄され、最後は冷静に流し込まれて2点目。 「全然、止められない……」 夢生が奥歯を噛み締める。 そして10分、再びサイドを崩されて3失点目。 ボールを持つ時間すら与えられず、一方的な展開が続いた。 「このままじゃ、本当に、10点取られてしまう……早く対策を考えないと…」 ベンチの木庭香織が青ざめる。
しかし、3点を失ってからの黄金台は少しずつ粘りを見せ始めた。 赤江が中央でタクトを振るい、玲央が自陣深くまで下がって繋ぎに入り、サイドの神田と魚住が何度もアップダウンを繰り返す。 ディフェンス陣も最初の10分で相手の傾向を掴み始め、連携してラインを保ち、なんとか守り続けた。 「耐えろ‼ここで崩れたら、全部終わる……!」 氷見が叫ぶ。 15分、20分……冥桜は焦れたようにミドルを多用し始めたが、それを田浦が好反応で止める。 その姿に、チーム全員の士気がわずかに持ち直す。
だが―― 前半終了5分前、疲れの色が見え始めた黄金台に隙が生まれた。 玲央が前線に上がっていたタイミングで、冥桜が一気にカウンター。 中央を駆け上がってきたMFに対し、夢生が遅れてカバーに入り、赤江が戻るも間に合わず。 「打たせるなっ!」 氷見の叫びも虚しく、技ありのループシュートが田浦の頭上を越え、4失点目。 スコアは0-4。 冥桜の“ノルマ”まで、あと1点。だが、 グラウンドに立つ9人の顔が、再び引き締まる。「ここからだ……ここからが、本当の勝負だ」 玲央の瞳が、ぎらりと光った。