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第28話 配置、そして決意

 体育倉庫脇のホワイトボード。そこには、まだ誰も見たことのないフォーメーションが描かれていた。 紫乃が手にしたマーカーの音が止み、静かに全員を見渡す。 「黄金台サッカー部、現時点でのベストフォーメーションは──3-1-3-1。ここから戦い方の骨格を築いていくわ」 一瞬、ざわつきが起こりかけたが、香織の鋭い視線がすぐにそれを鎮めた。 紫乃が一人ずつ名を呼び、ポジションを示していく。

  「ゴールキーパー、田浦昴たうら・すばる」 身じろぎもせずに名前を聞いた昴は、静かに立ち上がった。 「キーパーとしての技術はまだこれから。でも君の体格、リーチ、跳躍力は間違いなく武器になる。君には最後の砦として、誰よりも“守る意志”を磨いてほしい」 「──任せてください。一本たりとも、通さないつもりです」 短く、それでも強い言葉に、紫乃も頷いた。 「右センターバック、早乙女咲哉さおとめ・さくや。中央に氷見翔弥ひみ・しょうや。左に有屋夢生ありや・むう」 早乙女は黙って目を閉じ、うなずいた。まるで、自分の使命を受け入れる僧侶のように。 「咲哉には何よりも“揺るがぬもの”を求める。静かなる壁として、仲間の背を支えてほしい」 中央の氷見はわずかに口元を吊り上げる。 「俺に真ん中を任せるってことは……責任も重いってことですね」 「期待してるわよ。テニスで鍛えた粘り強さと判断力を、この舞台でも見せて」 左の夢生には、指先をトントンとこめかみに当てる仕草で示した。 「夢生。君にはラインの統率と、私の意図の代弁を任せたい。君の知性が、この守備を生き物に変える」 夢生は頷きながら、他のディフェンスの顔を見渡した。 「了解しました。僕が“目”になる。あとは君たちの“体”と“心”を信じます」

 「ボランチ──いや、“フリーマン”。葵玲央あおい・れお」 「ヨシッ!」 玲央は軽くガッツポーズをとって笑った。 「全エリアに顔を出してほしい。走って、繋いで、潰して、起こして。君がこのチームの“熱”を動かす存在になる」 「ハイッ‼やってやります‼」 「右インサイドハーフ、神田照真かんだ・てるま。左、魚住大輔うおずみ・だいすけ。中央は──赤江光陽あかえ・みつあき」 神田は片手を挙げて「はーい」と軽く返事したが、瞳の奥はすでに戦っていた。 「照真には突破力とリズムを。魚住には逆に、緩急と引き込み。左右のバランスが崩れたら攻撃は崩壊する。その鍵を君たちに託すわ」 魚住は静かに頷いた。 「了解。俺たち、見た目は対照的だけど──呼吸は合ってると思う」 「さすが“ツーカー”の魚住ってか?」と神田が軽口を叩けば、紫乃が続けた。 「そして、中央は赤江。君にはこのチームの“タクト”を。全てのリズム、タイミング、流れを支配してほしい」 「──やるよ。俺の夢に向かうためにも。ここが、再出発の場所なんだ」 「1トップ。柳沼主良やぎぬま・かずよし」 最後に名前を呼ばれた主良は、ゆっくりと立ち上がり、誰よりも静かに「はい」と答えた。 「君には、ひとつだけ託す。ゴールを“獲れ”。このチームの勝利は、君の一閃に懸かってる」 「了解しました。狙い、撃ちます」

配置された11人──いや、まだ9人だ。 ホワイトボードのフォーメーション図に、空白の2つの背番号が残る。 「この陣形で、新人戦に挑むつもりよ。ただし、まだ未完成。君たちの中にもう一人“自らの居場所を掴む者”が現れたとき、きっとチームはさらに形になるはず」 紫乃の言葉に、全員が自然と隣の仲間と視線を交わした。 その視線の中に、言葉は無くとも、確かな“チーム”の輪郭が浮かび上がっていた。

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