第22話 赤江光陽-途絶えた栄光、再起のキックオフ-
春、グラウンドに響く歓声と笛の音。 それは、かつて自分が立っていた舞台の残響だった。赤江光陽は、忘れられないあの日の記憶を胸に、静かに拳を握っていた。 中学2年、地元では名の知れた強豪校のサッカー部で、彼は“10番”を背負っていた。試合を操るゲームメーカー。正確なパス、視野の広さ、そして勝利への執念。光陽の名は、一時期東北の中学サッカー界でも注目されていた。 地区大会決勝。勝てば東北大会出場が決まるその一戦で、光陽たちは大敗した。 思い描いていた展開とは程遠い、試合開始からの連続失点。 それでも光陽は最後まで諦めなかった。声を張り上げ、走り続け、パスを出した。 だが、誰もそのパスを追わなかった。 「……何で、止まってんだよ……!」
試合が終わった瞬間よりも、試合中に目の前の仲間たちが希望を捨てたその瞬間が、光陽にとっての終わりだった。 “俺は勝ちたかった。最後まで本気で、勝ちたかったのに――” 中学3年の春、光陽はユニフォームを脱いだ。 だが、夢までは脱ぎ捨てていない。 日本を、W杯で優勝させたい。その想いだけは、ずっと心の奥に燻っていた。 “この街じゃ無理だ。地元の限界は、もう分かってる。なら、環境ごと変えてやる。高校では、自分の理想のチームを、自分の手で作る――” そう決めて選んだのが、まだ無名の進学校・黄金台高校だった。 部活動の実績は皆無に等しい。けれど、だからこそゼロから作れる。
入学式の日。光陽は朝一番のホームルームの自己紹介で、「サッカー部、作ります」と宣言するつもりだった。 ところが。 「先に、宣言した奴がいた?……は?」 その瞬間、頭が真っ白になった。 葵玲央。聞いたこともない名前。地元どころか、県内でも無名。 サッカー界の人間なら一度も耳にしたことがないようなその男が、先にサッカー部創設を名乗り出た。 (何だそいつは。お前に、サッカーの何がわかる?) 怒りと焦燥が、光陽の中でせめぎ合う。 だが、不思議なことに、憎しみだけではなかった。胸の奥に、熱のようなものが沸き起こっていた。 “確かめてやるよ。口だけなのか、本物なのか。
” 初対面の玲央に、光陽は宣言する。 「俺と勝負しろ。PK戦だ。お前の実力がどんだけなのか確かめてやる。」 玲央は、その挑発、ただワクワクしたような表情を見せた。 試合でもない、公式戦でもない、ただの1対1。 だが、光陽にとっては、自分のサッカー人生を懸けた本気の勝負だった。 ――あの日の敗北から逃げるのか、それとも、もう一度信じてみるのか。 ボールが静かにスポットへ置かれ、2人の物語は、そこで始まった。




