第21話 田浦昴―迷いと覚悟の交差点―
春の終わり、まだ肌寒さの残る風の中、中学3年の田浦昴は、自分の中で燻るものを抱えながら玲央たちと草サッカーをしていた。 サッカーは好きだ。けれど、好きな理由は漠然と、何となく他のスポーツに比べて好きかもしれない。その程度だった。小さい頃から体格に恵まれ、体育のサッカーでは力強さを武器にディフェンダーとしていつも任されてきた。だが、何かが足りなかった。チームに貢献していても、勝っても、負けても、どこかで“やらされている”ような感覚が拭えなかった。
そんな彼の前に現れたのが、葵玲央だった。 中学2年のクラス替えで昴は、そこで玲央と出会った。サッカーの授業での玲央の初対面でのプレーは衝撃だった。ドリブル、パス、そして何より、ゴールへの執念がすさまじい。体育の授業と言えど、玲央は本気で自分の何倍も小柄な体で、必死にボールを追いかけ続けていた。
「田浦くんも、サッカー好きか?」 何の前触れもなく、玲央にそう聞かれたとき、昴は答えに詰まった。 「……よくわかんねーけど、他の球技に比べたら好きって感じかな」 玲央はそれに少し驚いたように目を見開き、すぐに笑った。 「俺はね、W杯、出るため」 真っ直ぐなその目に、なぜか胸がざわついた。 ――何だこいつは。本物のサッカーバカかもしれない。
その瞬間、昴の中で何かが動き始めた気がした。 中学の卒業式の帰り、玲央は高校でサッカー部を作るという想いを聞いた時、自分でも驚くほどに、迷いはなかった。 “俺は、こいつのそばでサッカーをしたい。” それが、サッカーを“やらされていた”頃の自分を変えてくれる気がした。
だが、そんな中で昴は再び迷うことになる。 ──“このままで、いいのか?” 新設されたばかりのサッカー部。部員は少なく、ポジションも手探りだ。自分はディフェンダーとして、フィジカルの強さで前線を跳ね返す役目を担っている。だが、ふとしたプレー中に夢生に言われた。 「田浦くんって、ジャンプ力も反応もいいし、手も強いよね。もしかしたら、キーパー向いてるかも」 その言葉が、頭の中でこだまする。 自分にできること、自分だからできることが、もしかしたら他にあるのかもしれない。 サッカーの本当の楽しさをまだ探しながら、それでも、玲央の隣で自分なりの答えを見つけようと、昴は今日もボールを追い続けている。
そして、近い未来―― 黄金台高のゴールマウスを守るのは、かつてのディフェンダー・田浦昴。 その姿が、チームの誰よりも大きく、そして頼もしく輝き始めようとしていた。




