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第17話 戦術という名の武器

 「後半は、私と夢生さんとで組んだ修正案で臨ませてください」 ハーフタイム、静かに香織が口を開いた。 教室のように使っていた小さな控えスペース。香織はノートを広げると、簡素ながらも明快なゾーン図と動線を書き込んだ。傍らの夢生も、それに合わせるように磁石を動かしながら説明を加える。 「赤江くんを1列下げて、ボールを持たせる回数を増やします。中盤の密度を上げて、相手のパスコースを限定できれば――魚住さんの縦の動きが生きてくる」 「玲央くんはあえてボールに絡まず、セカンドボール狙いに徹してくれれば、後半の頭に一点は取れるはずです」 少しの間を置いて、玲央がニッと笑う。 「了解。じゃあ俺、陰の立役者やってくるわ」

  後半開始―― 黄金台の立ち上がりは明らかに変わっていた。 赤江を軸にテンポよくパスが回り、相手の守備ブロックを左右に揺さぶる。 神田が体を張って競ったボールを玲央がすかさずキープし、相手DFが寄った瞬間、スルーパス。 「行けっ、魚住さん!!」 まっすぐに走り出していた魚住が、反応の遅れた守備の隙を突いてボールを受け、GKと一対一。 冷静に右足を振り抜いた。 ――ゴールネットが揺れる。 「っしゃあああああああ!!」 歓喜とどよめきに包まれる黄金台。点差は縮まった。希望が見えた。

  だが。 銅島中はすぐに動いた。 後半10分、控えから3人が投入され、フォーメーションが微妙に変更される。辰野が最前線に上がり、北島がボランチに下がることで、攻撃の圧力がさらに強まった。 「うわっ、ちょっと、なんか全然止まんねぇ!」 神田が相手のパスワークに翻弄される。夢生も指示を飛ばすが、消耗した選手たちの動きは徐々に鈍りはじめる。 そして後半15分、20分――立て続けに2失点。

  1-5。 夢生の額には汗がにじみ、昴は肩で息をしていた。 「さすがに……7人じゃ、限界あるな……」 玲央がそう呟いたとき、再び銅島中が追加点を奪う。今度はゴール前で混戦を制した安田和輝が、圧倒的なフィジカルで押し込んだ。 1-6。 残り5分。ボロボロになりながらも食らいつく黄金台。 だが、時計の針は無情に進む。 そんな中、香織がライン際まで走り寄って夢生に耳打ちする。 「今から“変則ローテーションディフェンス”を試してみませんか? 体力の消耗を最小限に抑えて、ボールを奪う時間だけ集中して動くんです」 「……なるほど、それなら残りの体力で対応できるかもしれない」 夢生の眼鏡が光を受ける。

  夢生は即座に指示を出す。ディフェンスラインが流動的に動き、相手のパス回しのパターンを限定する新たな陣形に切り替わる。 ――戦術と知恵だけで、いま目の前の強敵を止める。 それが彼らに残された最後の戦い方だった。 試合終了間際。黄金台の守備に一瞬の間が生まれた。 途中交代で入った銅島中の獅戸半蔵がスルスルとボールを奪いに現れる。 玲央は、それを読んでいたかのようにボールを浮かせた―― 宙を舞うボールを、赤江がギリギリの位置でトラップし、すかさずクロス。 魚住がゴール前へ走り込む。 「まだ……終わってないぞっ!!」 その瞬間に見たものとは――

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