第12話 フットサル対決終了。そして...
【後半戦】
「さて、後半だ」
玲央は膝に手を置いて深く息を吐いた。
汗が頬をつたうが、それすらも心地よい。
初めての“試合”。それは思っていた以上に、胸が高鳴る感覚だった。
「こんなに楽しいんだな……サッカー、いや、フットサルでも」
夢生もまた、相手チームとして玲央たちと向き合いながら、小さく笑っていた。
初めてのゲームで、頭では分かっていた「ポジショニング」や「スペースの作り方」が、実戦でどう生きるのか——それが肌で感じられるのが新鮮だった。
「オレたちが勝てば、部員二人ゲットだ」
そんな玲央たちとはまた違ったテンションで、神田はにやにやと笑っていた。
「そして、フットサル研究会は存続の危機になる……そのギリギリのスリルも、悪くないぜ」
魚住は静かにうなずくだけだが、彼の視線も確かに真剣だった。
口には出さないが、玲央たちの“真剣さ”に、どこか心動かされ始めていた。
――キックオフ。
後半開始の合図とともに、ボールが再び動き出す。
先に動いたのは玲央たちだった。
玲央のドリブルからの切り込み。光陽とのワンツーで抜け出す!
「左空いてる!」
昴が声を上げる。玲央はすかさずパス。昴が一歩踏み込んでからの左足シュート!
「決まった!」
ゴールネットが揺れ、玲央たちが一歩リード。2-1。
だが、すぐさま神田が反撃に出る。
夢生が中央でボールをキープし、相手を引きつけた瞬間、右へ。魚住へと絶妙なパスが通る。
「今だ、魚!」
神田の声に応えるように、魚住が静かに——けれども迷いなく、低い弾道のシュートを放つ。
ゴール!2-2。
試合は白熱の様相を呈してきた。観客はいないはずの体育館が、どこかざわめくような空気に包まれる。
「くっ……やるな」
玲央が唇を噛むと、光陽が笑う。
「決めようぜ、もう一発」
「当然だ!」
玲央たちは果敢に攻め込む。
相手も負けじと攻め返す。
夢生は途中、パスの判断を一つ間違えてピンチを招いてしまうが、それを神田が身体を張ってカバーする。
「ミスってもいい。今はやってみろ」
短いその言葉に、夢生はほんの少し、心のなかが熱くなるのを感じた。
そして、終盤——
再び同点となった試合。3-3。
残り1分。勝負の行方は時間との戦いになりつつあった。
そのときだった。
――チャンスの形が生まれる。
玲央が左から切れ込み、相手を2人引きつける。
「今だ!」
玲央の視線の先には——普段はあまり前線に出てこない田浦昴。
その昴が、あまりにも自然なステップでスルスルとスペースに入り込んでいた。
玲央のパスが滑り込むように通る。
「お前、こんなプレーもできんのかよっ!」
「たまにはな」
昴の足元から放たれたシュートがゴール左隅へ突き刺さる。
――4-3!
試合終了のホイッスルが鳴り響いた瞬間、玲央は天を仰いだ。
「やったあぁぁあ!!」
「……勝った、のか……」
夢生も驚いたように、そして心から嬉しそうに声を漏らす。
神田は口を開けたまましばし呆然とし、それから豪快に笑った。
「っははは! まじかよ、あの無口が決めるのかよ! 最高だなオイ!」
「ルールはルール、俺たちが入部する。約束だ」
魚住が静かに言い、神田も「そうだな」と拳を握って頷いた。
玲央は、喜びに沸く仲間たちを見渡しながら、ふと気づく。
体育館の入り口に立っている、見慣れた人物——顧問の有屋紫乃。
その隣には、一人の女子生徒が立っていた。
肩までの短い髪、きりっとした目元。どこか空気の違うその少女は、玲央をまっすぐに見据えていた。
「先生……その子は?」
紫乃は微笑んで言った。
「紹介するわ。彼女も、部に興味があるって。ちょっと、特別な子よ」
玲央は息を呑んだ。
新たな仲間、そして——新たな嵐の予感。
サッカー部創設への道は、まだ始まったばかりだった。




