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閑話 商人、奮闘す

微妙に影が薄いシャイロック氏をクローズアップ

 わたしの名はシャイロック。主君エレス卿より領土改造の大事業を任され(丸投げされ)奮闘している。執務室の書類の山の真実を知った今、実際問題として自らを補助するスタッフの育成が最優先であったと公開するが役に立たず。仕事をしつつ部下に同時に仕込むという激務をこなしている。

 最近は南の山賊、おっと、元山賊のサンカ族を雇い入れ、今まで入り込めなかった山地の産物が入ってきている。それを求めて買い付けに来る商人も増え、さらに彼らを兵として雇い入れている。正規兵としてと、商人キャラバンの護衛として格安で派遣している。規定の料金と、食事の支給のみで、依頼自体もギルドを通すようにしているため、この護衛部隊派遣は当家の収益とはなっていない。直接的にはだが。間接的に商人の保護と商人側では物流のリスク低減によりさらに当家の領内を通るようになる。物流の増大はイコール経済規模の増大だ。格安に設定している通行税であっても、収益は大きい。ほか、業務が増えるので、役人とその見習いなどで雇用の促進もできている。正直人手不足が領内の問題になりつつある。まあ、それもサンカ族の加入で徐々に緩和していくだろう。

 領内の発展はそのままわたしの業務の増大を意味する。ああ、また書類が増えた。報告書を確認する。ふと気づいてその書類の過去分を抜き出し精査する。これはまずいことになったと我が君への報告をまとめ、部下に後を託して部屋を出た。恨めしそうな目線はなかった。そう、なかったのだ。


「我が君。まずい事態になりつつあるようです」

「ふむ、何があった?」

「これをご覧ください」

手渡した書類には食料と鉄、皮革などの相場の推移が書かれている。軽く目を通して頭を抱えだした。即座にご理解いただけたようだ。

「あー、王都周辺がきな臭いってことか。反乱かね?」

「その予兆があります」

「買い付けている商会から購入先を探れるか?」

「王都の商人にはわたしは全くコネがない状態ですが、実際の輸送を請け負う業者には伝があります」

「ならば、物資の流れを洗え。あと、うちも軍備を加速せねばならん。兵の雇用を可能な限り進めるように」

「承知いたしました。現状の兵力は総動員して1000ほどです」

「へ?そんなにいるの?」

「実働に耐えるのはもう少し少ないですが、留守居も含めればですな」

「とりあえず訓練を強化しようか」

「そうですな。弓矢なども発注を増やしましょう」

「お隣さんにも情報は流しておいてくれ。フェルナン卿の麾下で戦うことになるだろう」

「承知いたしました」


 その数日後、騒ぎが起きた。輜重隊と剣士隊の間でいざこざが起きたのである。当家の方針で、両者の俸給は同額となっている。それを不満に思った一部の兵が輜重隊の兵に絡んだのである。騒ぎは領主たる我が君の耳にもはいり、また輜重隊の改革の責任者たるわたしにも報告が上がってきた。もとより新興の家であるゆえに、新参と古参の対立はないが、我が君の考えは輜重隊が大きな役割を果たす。そして、不満を持った兵たちの前でこう言い放ったのだ。


「腹が減っては戦はできぬ。諸君らにはそれを体感してもらおうと思う。そして輜重隊のありがたみを知るがいい」

問答無用で訓練施設の砦に放り込まれ、模擬戦そのままの内容で包囲した。

「兵糧攻めの演習だ。わずかの物資で食いつなぐ訓練も兼ねる。中にいる兵は反撃しても構わんし、脱出、退却をしてもいい。砦一つとお主らでは釣り合いが取れないからな。ただし包囲陣の指揮は俺が執る」

 そういった瞬間激震が走った。やばい、この人マジだ。今更ながら我が君の本気を悟った兵たちは震え上がる。そして水も漏らさぬ包囲網が敷かれた。包囲側には毎日補給があり、城壁の上からそれを恨めしそうに見る籠城側。無論彼らとて最初から飲まず食わずではない。だが、3日分しか無い食料で、いつまで籠城すればいいのか全く先が見えない。冒険者出身の兵が分量を管理して、体力が維持できる最低限の支給でしのいでいるようだが、それとて限界がある。突破を図るにも退却するにも体力がいる。腹ペコで出撃しても袋叩きで全滅だ。素人のわたしでもわかる理屈は当然職業兵である彼らには常識で、こちらの輜重兵が上げる煮炊きの煙を見て絶望的な表情を浮かべていた。そのまま、10日間の包囲を続け、夜襲や降伏の交渉をことごとく跳ね返し、半死半生の状況になってようやく包囲を解いた。

「わかったか?諸君らが戦うことができるのは後方支援があってのことであることが。前線で命がけで敵と切り結ぶ皆の勇気を私はたたえよう。だが、その戦うための用意をしてくれる支援の兵も同じく命がけで戦っているのだ。それを忘れてはならぬ」

 我が君の言葉により、輜重隊の兵は涙を流していた。そして前衛の兵たちも主君の度量に感じ入り、大きく士気をあげた。勝利にはどちらも欠かせぬ両輪である。ラーハルト軍の士気は最高潮に達していた。


 近々大きな戦が起きる。それは商人たちの共通認識になりつつあった。戦が起きれば流通は遮断され、困窮する集落なども出る。ここで我が君は英断を下された。商人たちに地図を公開したのである。むろん軍機密である間道や、施設は記載されていない。だが、どの程度の道があるか、距離、集落の位置、人口などの情報が公開された。さらに私の追記した地図は高値で取引されたようだ。具体的には集落の産物を追記したものである。むろんわがシャイロック商会の開拓した販路はあるが、政商となりつつある現状を踏まえ、小口の取引は小規模な商人に任せ、逆に資金援助などでゆるやかに支配下におさめることとした。

 そして、運命の日が訪れる。イリス殿下の副官、レイリア嬢が面会を申し入れてきたのだ。

我が君はわずかな兵を率いて出撃された。本拠の留守居役を仰せつかった。

同時に後方支援のすべてを担うこととなる。そして、3家分の軍需物資の差配・・・あれ?仕事量がやたら増えておりませんかな?どうしてこうな(ry


次回 商人、補給す

補給の途絶えた軍が買ったためしはない。戦闘ではなく戦争で

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