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閑話 ショーン・コールドウェル

友人からのリクエスト話

 セヴァストポリ要塞の戦後処理はカイルの軍が当たっていた。先に前線に立っていたため、兵の休息も兼用となっている。まあ、そもそも実際問題として敵地のど真ん中にありながら要塞の残存兵力の武装解除と、捕虜の管理もしなければならない。なかなかに難儀な状況でもあった。

 トゥールーズ侯爵家の騎士ショーン・コールドウェルがその任に当たっていた。あまり感情を表に出さず、寡黙な青年であったが、若くして騎士に任ぜられるなど、非常に優秀で将来を嘱望されている人材である。戦災で父を失って以来トゥールーズ家に養育されていた。

 さて、ショーン卿の部下をやるにはある種の才能が必要といわれる、彼の目線や、わずかなしぐさを読み取ってその指示をこなすという、それなんてエスパー?といったスキル?である。

 今回王様がやらかした事態の一つに、主要な施設を丸ごと吹き飛ばしたことにより、食料などの物資も一緒に消し飛んだことがある。確かに長期間の攻城戦となれば補給、兵站の負担は加速度的に上がっていた。それを1日で要塞を抜いた。喜ぶべきことである。多数の捕虜が補給に多大な負担をかけることとならなければであるが。


「すまん、ショーン卿。モートンからの報告で、輜重の到着が10日後になるらしい。近隣の降伏した城市から物資をかき集められないか?購入も含めて方法は一任する。よろしく頼む」

無言でショーン卿はうなずき、一礼して陣幕を出て行った。


 翌日、要塞の補給拠点となっていた都市にショーン卿がやってきた。市民はおびえつつも迎えるが、無言の彼に戸惑いを隠せなかった。副官と思われる士官が様々な質問を投げてゆく。それにより、問題点を列挙した。物流の混乱により物資が欠乏していること。兵が要塞に取られているので、治安が悪化しつつあること、ある程度の情報を得て帰還していった。後ほど市長は気づいた、「そういえばあの騎士様は一言もしゃべらなかった」と。

 副官が寄ってきて指示の確認を行う。といっても副官の質問にうなずくか首を横に振るかだけである。副官の指示が飛ぶと四方に部下たちが散ってゆく。まず自軍の物資が不足しないように捕虜を減らすこととした。近隣の城市に捕虜を返還し、警備兵として治安維持を図る。近隣の都市で同じように情報を集め、自軍の警備のもとで物流の支援を行い、物資の欠乏をわずかでも解消する。同時に余剰になっている物資の買い上げを行う。次々と上がってくる報告にたいしても同じように首の動きだけで対応する。いっそ不気味な光景ですらあるが、事態は着々と進んで行くのは不思議な光景ですらあった。

 カイルの陣幕にショーン卿が入ってきた。一礼し報告書を差し出す。捕虜の半数を解放したこと。代償として物資を供出させたこと。その物資の供出と武装解除により、反乱を起こされる可能性は極めて低いこと。そもそも。王様がやらかしたことで、近隣住民は反感を持つどころか戦々恐々としていること。略奪などを厳に禁じ、慰撫に努めていることなどなど、1日で動いた内容としてはかなりの内容だった。


「うん、この方針で進めてくれ。いつもながらさすがの働きだ。助かるよ」

カイルの笑みを交えた返答に対して無言でうなずき、一礼して立ち去る。

「しかしあれだ、有能だし忠誠心にあふれてるのも知ってる。けど、俺は彼の声を聴いたことがない」

「ああ、たしかに。なんでしょうな、強面に似合わずかわいらしい声をしてるとか?」

マッセナ卿の言葉に思わず想像してしまい、吹き出すカイル。そして運び込まれる大量の書類。カイルが渋面を作りつつペンを手に取ったあたりを見計らってマッセナ卿はそっと陣幕を出ていた。それに気づいたカイルがなんかいろいろな感情が入り混じった声を上げるのは数分後である。


「閣下、近隣の領主から供出された物資が届きました。あと、当家に降伏を申し出ている兵たちはどうしましょう?」

ショーン卿はうなずいた後、カイルの陣幕のほうを指さした。

「わかりました、物資は集積し、捕虜の県は侯爵に報告します」

再度うなずく。これでやり取りが成立しているあたり、訓練され切った部下たちだ。


 7日後、モートン率いる輜重隊が到着した。物資の欠乏の可能性があり強行軍でたどり着いたのだが、現状に疑問符を浮かべかけた。が、ショーン卿を見て納得の表情を浮かべた。場合によっては反乱もあり得る事態であったが、未然に防いだことになる。戦場での華々しい活躍こそあまりないが、目だなない功績がこの寡黙な青年にはよく似合うとモートンがつぶやく。目礼とわずかな会釈を交わすと次の任に向け立ち去って行った。


 その次の日。今後の方針を決める会議が開かれ、ショーン卿も出席していた。書類を受け取る際に肘での明ののグラスを倒してしまい、その時彼の口から言葉が滑り出た。

「やれやれ、しまったな」

ある将官はは驚きに目を見開き、別の士官は同じくグラスをひっくり返した。そんな混乱のさなかショーン卿の副官がささっとグラスを片付けている。

「ありがとう、ラフィーナ」

「いいえ、お気になさらず、あなた」

微笑みを交わす二人にさらなる驚愕が駆け巡る。

「あああ、あのショーン卿。そちらの方は副官では?」

「ええ、その通りです。同時に私は妻でもありますが」

「んだとっ!?」

「なんだとおおおお!!??」

もはや会議どころではない雰囲気である。カイルがあえて咳払いで場を鎮める。

「会議を始める!」

ざわつきは収まったが、心ここにあらずな士官も多く、会議は半日後に繰り延べされた。


 本人の承諾を得てショーン卿の生い立ちが発表?される。

 もとはトゥールーズ家に仕える騎士の家系で、父の戦死により先代侯爵に引き取られ養育された。そういった身の上のため自分の殻に閉じこもりがちになっていたが、孤児院の世話をすることで明るくなっていったらしい。ここで、あれで?とかどうなっているんだ!?とかの声が上がる。

 ある日引き取られてきた少女がいた。盗賊に両親を惨殺されたことで孤児となった。ショーン卿が何度となく声をかけ、徐々に少女は明るさを取り戻す。そして、自ら両親の仇を討つと決め、軍に入ることを決意する。幸いにして魔法兵と弓兵の才を見出される。後日盗賊討伐に参加して首領を狙撃して打ち取った。そこまで陰に日向に支援していたショーン卿に対し猛アタックを繰り広げ、押しかけ妻になったということだ。

「ちょっと孤児院行ってくる」

「ちょっと盗賊ヤッテくる」

「くっそ、爆発してもげやがれ!」

 別方向で阿鼻叫喚になった。カイルがため息をつきながらこの戦いが終わったら功績をあげたものからお見合いパーティに参加させることを約して混乱は収束する。

「「やれやれ」」

異口同音につぶやいた主従は目を見合わせて苦笑いを浮かべるのだった。

こんな話を読みたいとか、お題をいただいて閑話を書いてみたりとか?

アイディアが尽きたわけじゃないですyp??

こんなキャラクターはどうよ?と深夜のツイッターでリクエストを受けて書いてみました。

どこの沈黙提督だとか言わないように

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