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閑話 一介の兵の回顧録

思いつきです。

 俺はルーク、フリード王国軍大尉で騎士の位を先日賜った。先日のシレジエン籠城戦を闘いぬき、幸運にも武勲を立てることができたのだ。

 旅の途中トゥール村に立ち寄ったとき、ギルドの張り紙を見たことが士官のきっかけだ。試験官をされていたのがいまやトゥールーズ候のカイル卿だった。なんの考えもなしに突っ込んで受け流され、シールドバッシュを食らってぶっ飛ばされた挙句失神という醜態を晒したのは良い思い出になりつつある。水をぶっかけられて目覚めた俺に、黒髪の青年がやたら笑顔で合格!と言ってくれた。これが主君たるエレス様との初対面だった。


「おらあああああ、走れえええええ!!」


 領主が自ら新兵訓練とかなに考えてんだ?俺は士官がかなったことを5分おきくらいに後悔していた。経歩兵隊に編入されたが、皮鎧に盾、長剣を佩き、要するにフル武装でひたすら走らされる。同期入隊の連中も様々だ。真っ白な顔をしたと思うといきなりリバースしたり、へたり込んだところに魔法弾が飛んできたり。つーか、一番のびっくりなポイントは最後尾に指揮官用の鎧を着こみ大剣を背負ったエレス様が走っていることだ。そのことが俺のプライドをギリギリのところでつなぎとめていた。俺のほうが装備が軽い。俺は声を張り上げていない。自分より重い鎧を着てる奴に負けてたまるかと。

 

「突撃!」


 号令に従い駆け出す。目の前に大盾を構えた陣列が立ちふさがり鏃こそ外しているが、矢が間断なく降り注ぐ。文字通りの死地だ。途中で立ちすくんだり、矢にあたってひっくり返る奴が出てくる。俺は盾を構え時折サイドステップを交え、的を絞らせないようにして走る。もともと軽歩兵の突撃は重歩兵や盾兵の隙間をぬって斬りこみ最前列を崩す浸透攻撃を行うことが主目的だ。人塊になって突っ込むような性質ではなく、個人的武勇と度胸が頼りの一騎駆けに近い。もちろん実戦想定なので、自分の後方からも味方の弓兵の援護射撃が行われている。なんとか盾兵の間をこじ開け浸透に成功した。というあたりで訓練終了の号令がかかる。

 ふと後ろを見ると、矢にあたったのか、ぶっ倒れている味方と、陣列にたどり着いたのは100のうち10にも満たない状況がわかった。


「突撃に成功したものはよくやった!だが、そこでまだ3割の成果だ。切り込んで的に打撃を与え、その上で離脱を成功させないといけない。お前らは無駄死してはならん。そして辿りつけなかった者。怖じけて足を止めた奴は俺自ら狙撃した」


「おいおい、なんちゅうことを・・」と俺が独りごちるのを聞いたかのようなタイミングで話が続く。


「あの陣列に10足らずの兵が切り込んで、生きて帰れるか?お前らは全員が陣列にたどり着かないとならん。さもなくば攻撃が失敗して全滅の結果が残るだけだ。自分が攻撃に失敗するということは戦友を危険に晒すということを肝に命じろ!」

「「はっ!!」」

 そんなこんなで俺は訓練の日々に明け暮れていた。自分が強くなっていくのが実感できたし、同期は良い奴らだった。領主様も良い主君だと思えた。人手不足なのは間違いないだろうが、兵に入り混じって組み打ちの訓練をする貴族様も珍しいのではないか?

 残念ながら俺には魔法兵の適性はなかった。だが、度胸と剣の腕を買われ切り込み隊の分隊長に抜擢された。今まで一匹狼の用兵まがいだった俺に取ってはとても嬉しい出来事だった。


 そして初陣の時はやってくる。内乱が起きたのだ。ポーワテイルの戦い。エレス様が軍を率いて戦った初めての戦いとされる。まあ、亜人相手の小規模な戦いは何度か経験しているが、人間お軍相手の戦いは俺も初めてだった。

 軽歩兵と少数の騎兵を率いて、本陣に留守居の兵のみを残して出撃する。包囲を狙って敵兵は分散した。こちらの全力を持って敵の分力を討つとか言ってたがよくわからん。だが接敵した際の敵兵はこちらより少なかった。一気に蹴散らした。まだゴブリンの集団のほうが持ちこたえたんじゃないかってくらい脆かった気がした。同じような遭遇戦がもう一度あり、これも見事に蹴散らした。その後夕方まで移動し、休息を告げられた。俺の周囲は盛り上がっていた。王都の正規軍を相手に怖気づいていた奴もいたのだ。しかし、2度の戦闘を見事に勝利し、士気は大きく上がっていた。そして下された夜襲の命令。俺の分体が先陣の中に含まれており、武者震いと強がりながら、震えを抑えきれなかった。まあ、結果は知っての通り我軍の快勝である。俺、この人に一生ついていくんだ。そんなフラグめいた言葉が頭をよぎっていた。

 小規模な遭遇戦を幾度か勝ち抜き、ついにあの戦いに至る。グラナダ要塞攻略戦だ。軍議が揉めたという噂はすぐに回ってきた。出撃準備の命令が来たが、ほかの領主軍は全く動こうともしない。ここが俺たちの死に場所になるかもしれないと、悲壮な覚悟を決めた。

 払暁、筏を使って川を渡る。そのまま河岸に魔法兵が野戦築城を始める。河のそばだけに直ぐに水が染み出してきて、堀は水堀になった。盛り土は崩れやすく、普段と違う環境に戸惑う。なんとか柵を作り終えた。俺の分隊は出撃することを考えて虎口付近に配置となる。そして敵が攻め寄せてきた。そこから先はあまり覚えていない。あまり得意ではない弓を射ったし、いったん退却する敵部隊に追撃を仕掛けた。柵を崩されそうになった地点の援護に周り、柵の間から出撃し、敵兵を掘りに叩き込んだ。どこで誰と戦っているのか、何人倒したとか、数える暇もない戦いだった。気づいたら盾が真っ二つになり、手に持っている剣は見覚えのないものに変わり、鎧も幾つかパーツが欠損していた。血止めに巻いた布にはじっとりと赤黒く染まり。自分の血なのか返り地なのか顔がバリバリだ。そういえば、目に焼き付いた光景があった。黒い狼にまたがったエレス様が閃光のように敵陣を切り裂く光景。あのまま攻めこまれていたら人は落ちていたかもしれない。だからっつって普通最高指揮官が一騎駆けやるか?そして敵陣を引っ掻き回して、俺のところの虎口から帰還した。追撃してきた兵を撃退したのは俺の分隊だ。陣内は歓呼に湧いた。士気は天井知らずに上がった。なんだろう、後年この戦いは歴史書に載るかもしれない。吟遊詩人が酒場で歌う英雄譚の一節になるかもしれない。そんな予感があった。

 そして戦況は一気に傾いた。援軍が来たのである。エレス様に従って出撃し、要塞前まで敵を追撃して、このまま城攻めだと気合を入れなおしていたら、要塞は既に落ちていた。ラーハルトの旗が翻っていた光景はもうなんだろう、俺の思考回路を真っ白にした。ああ、こりゃ伝説に残るわ。と何故か確信していたのである。


 その後は、王都を開放し、隣国との戦に勝利し、エレス様はエレス王になった。俺は何故か親衛隊に抜擢され、分隊まるごと編成された。そのあとは出陣は減り、俺自身も訓練教官として新兵訓練なぞをやっている。軍政改革のときは俺の肩書は軍曹になった。

 そして、第2次シレジエンの戦い。王は別ルートでシレジエンに向かっている。ロレンス卿の部隊の支援として親衛隊を出撃せよとの命令を受け、出陣した。なんかもういろいろ我が目を疑う光景の連続だった。城を取り囲む亜人の群れ、群れ、群れ。雲霞の如きってのはこういうことかと。そこに、白い竜が降りてくる。もう呆然とした。ブレスが亜人の群れを焼き払い、竜から降り立ったミリアム様が魔法で巨人兵を消し飛ばす。亜人の群れに動揺が走った。


「ロレンス卿、ここが好機。突撃の下命を!」

「・・・うむ、皆の者、突撃じゃ!」


 ドワーフの重装歩兵が恐るべき打撃力で敵兵を圧倒する。エルフたちの弓と魔法弾が敵陣に穴を開ける。ヒノモトの騎兵は縦横に駆けまわって敵兵を切り裂く。負けてはならぬと親衛隊も切り込む。そして分厚い敵陣を突破し、城門を確保した。オルレアン騎兵がここぞとばかりに出撃してきたが、先頭には黒狼に跨ったミリアム様がいた。これも後世、吟遊詩人の歌になるんだろうなーという変な確信を抱きつつ、敵本隊の追撃に加わった。まあ、そのとき、真っ先に的に斬りこみ、士気を鼓舞したこと及び、長年の功績を鑑みというのが昇進の理由だった。まあ、正直柄じゃないって逃げまわってたのが実情なんだが、あの出会った時のように、満面の笑みを見せて俺に褒美を下さった王様は、まさにあの時のままだった。俺はこのまま王に従って戦うのだろう、そしていつか戦死するのだろう。そのとき、先に逝った戦友に恥じない戦いをすることができているのか、それだけが気がかりだ。


 騎士ルーク。トゥール村の募兵に応じ、ラーハルト軍の兵になる。主君に従って転戦し親衛隊に編成される。幾多の戦いで功績を上げるも、本人は昇進を拒む。しかし、王自らの叙爵には苦笑いを浮かべつつ受け取ったという。戦いの後軍から退き、退役軍人年金と、報奨金を基に孤児院を設立した。もとは自身も戦災孤児であった事が理由ではないかと言われる。孤児院の手伝いに来ていた女性と結ばれ子沢山の家庭を作る。ときおり現れる黒髪の青年と酒を酌み交わすことを何よりの楽しみとしていたという。

イカン、本編と同じようにいろいろ端折ってしまった。肉付けストーリーのはず・・・?

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