脳筋を調子づかせるとえらいことになる
接続障害、一体何ごとが?DDosですかね?
フレスブルグ郊外、カイル軍はこの状況を打開すべく、大きな動きを企図していた。魔物相手に慣れている冒険者、自由戦士を中心とした混成部隊を亜人部隊への足止めとし、その上でフレスブルグ駐留軍を撃破、都市の奪取という計画である。もともと防御設備が整っているとはいえない商業都市であったため単純な攻城戦であれば問題ないと判断され、攻略目標となっていたのである。駐留軍も主力の魔戦士隊を失い野戦で蹴散らされた敗残兵である。よってこの戦いのポイントは圧倒的多数の亜人部隊であった。
「アーサー卿、作戦案は読んだ。かなり難易度の高い内容だが?」
「はい、ですがこれ以上時間をかけると補給の負担もさることながら援軍の到達により、さらなる戦況の悪化を招くと考えます。駐留軍の士気が低下していることで、敵指揮官には焦りが見えます。そこに付け込みましょう」
「うん、まずは側衛部隊で亜人部隊を牽制しつつ城外の部隊を攻撃。その後偽装退却で敵を誘い出し、騎兵で後方遮断を誤認させ、平行追撃でそのまま城内に突入すると」
「はい、側衛部隊にはマッセナ卿を指揮官に、自由戦士と冒険者を充てます。これはもともとあのような相手に慣れているからです。敵の撃破までは望みませんがしっかりと足止めをしてくれるものと」
「一応聞いておくが、捨て石ではないのだな?かのマッセナ卿は我が義父である。まあ、それゆえに、今回の作戦に於いて最適な指揮官であると私も思うが」
「暗に騎士や正規兵以外を見下していると?」
「まあ、それはないな。うちの軍でそれをやると戦場に立てなくなる」
「そもそも陛下自身が自由戦士ですからね。その気風で我軍は成り立っております」
「杞憂だったな、すまん」
「いいえ、そのように思われる素地があるのは理解しております」
「では具体的なところを詰めようか・・・」
翌朝、部隊が編成されカイルは軍を進めた。モートン卿率いる支援部隊を本陣に残しこれまでは越えなかったラインを超えてきたのである。それは挟撃のリスクのある位置関係に足を踏み入れたのであった。それを見た敵指揮官も迎撃に出てきた。
互いの接敵は平凡だった。矢の応酬の後歩兵がぶつかり押し合う。互いの戦線を食い破るべく軽歩兵が浸透し重歩兵の盾列の前に撃退される。魔法兵が一斉射撃を行い、防御魔法とぶつかり、閃光を散らす。互いの攻撃と防御が拮抗し、お互い有効打を与えられない状況が続く。カイル軍も攻勢に出たものの亜人部隊の動向を気にするあまり積極的な手を打てないでいる。
そんな最中、亜人部隊が動き出した。カイル軍の側面を突く形で進撃したため、右翼部隊が動揺しほころぶ。敵軍の攻勢がそこに集中し、カイル軍は攻勢を中断し徐々に後退を始めた。そこにかさにかかって攻勢を強める。そしてさらに押し込まれる。戦況は駐留軍側に傾いておりカイル軍は防戦一方となっていた。だがその時点で気づくべきであった。亜人部隊が足止めされており、カイル軍と相対しているのが自軍のみであったことを。
亜人部隊が接近してくる。そこに冒険者、自由戦士を中心としたマッセナ隊が攻撃を開始した。5~6人の分隊というか、冒険者パーティ単位で構成された彼らは、慣れた様子で少数の敵をおびき出し、叩いてゆく。もともと本能に従う部分が大きい連中である。目先の敵に襲いかかり各個撃破されていった。そこに怒りを燃やし、部隊としての足も止まってしまう。だが元の数が違う、それに平地での真っ向からのぶつかり合いでありマッセナ隊は徐々に押し込まれてゆく。指揮官のマッセナ卿は思い切った手を打った。
「野郎ども!敵の頭を潰す。俺に続け!」
大音声で呼びかけると周囲の戦士たちが雄叫びを上げる。そして切り札が切られた。
【女神よ 汝が愛子を慈愛の翼もて包み給え・・・ディバイン・ランパート】
レイリア侯爵夫人の神聖防御魔法が部隊を包む。その光で亜人たちは明らかに怯んだ。
そしてさらに攻撃魔法が打ち込まれる。
【輝きよ 煌めき集い我が敵を打払う驟雨となれ ライトニング・アローレイン】
光の矢が降り注ぎ前衛部隊を蹂躙する。ポッカリと空いた陣列に長剣を掲げた女騎士リンが切り込む。
「私に続きなさい!突撃!」
「お嬢を死なすな!行くぞ!」
「野郎ども突撃だ!」
マッセナ隊の士気が異常に高かった理由はここにある。総指揮官の身内が3人も編成され、先陣で突撃しているのである。これを捨て石部隊だという不安は払拭された。どころか、士気は沸点を越え恐ろしい勢いで敵陣を切り裂いてゆく。突撃の先端部では戦術魔法が打ち込まれ、開いた穴にはカイル軍でも最強の戦士が斬りこむ。そして部隊の中央では伝説の戦士が周囲を鼓舞する。これに相対するのは不幸以外の何物でもなかった。程なくして亜人部隊の中央にいたオーガが魔法攻撃の集中砲火を受けて消滅し、亜人部隊は崩壊、霧散したのである。
カイル軍の方でもその様子は見えていた。無論駐留軍からもである。お互いが戦いの手を止めポカーンとした空気が流れた。
「えっと・・・全軍突撃?」
カイルの下した命令で温存されてきたベシェールの騎兵が敵左翼を突く。自軍の優勢をもたらした側面からの圧力が消滅したことを理解し、急速に士気が失われた。そこに騎兵突撃を受け一気に戦線が崩壊したのである。お膳立てが別の意味で一気にひっくり返ったアーサー卿も呆然としていた。
「なんて・・・デタラメ」
「まあ、それが戦場だ」
アーサー卿の脳裏には、出撃してゆくマッセナ卿の姿が思い出されていた。
「ふむ、足止めなんぞといわず、奴らを殲滅しちまっても良いのか?」
その一言がまさか本気だと思わなかったと後年述懐している。
程なくフレスベルグの城門は開かれ、降伏が表明された。
カイル軍は初期の戦略目標を達成したのである。
北方戦線は進行が開始された。南方戦線は予測を大きく上回る亜人、魔物の攻勢にさらされ、シレジエンは陥落寸前の有様だった。援軍は来るのか?兵の絶望を救ったのは大きな影、王の参陣であった。
次回 竜王降臨(こんどこそ
北方戦線をサラッと書いて次にいこうと思ったらなんか話がふくらんだでござる