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王都の騒動

ちょっとドタバタで

国境に兵力を張り付かせ一月ほどが過ぎた。全く動こうとしない俺に諸侯も自軍の兵すら疑問に思っているようだ。まあ、動かない、動けない理由があるのだが。

 時間は少し遡る。俺はツヤを連れて王都の巡検という名の息抜きの散策をしていた。護衛も連れずと言われるが、俺の頭の上に乗っているのは何か皆思い出してほしい。もう4年以上子犬の姿のままだが、フェンリルはれっきとした上位魔獣である。そのつもりになれば100の兵を殲滅することすらできるのである。シリウスは大型犬サイズになってもらって俺の横を歩いている。ツヤは俺の腕にしがみついている。なんだろう?どっかの貴族のボンボンがペットと女連れで練り歩いているように見えるのだろうか。まあ、それは良い。ツヤ自身もかなりの魔法の使い手であり、下手に人数を出すよりも安全といえるのだ。

 街を歩く、ふとした違和感を感じた。見た目は普通の娘だが、内包する魔力量がおかしい。おもわずまじまじと見つめてしまった。その視線にツヤが反応する。


「貴方様、あのような女性がお好みですのね?」

「ん?いきなりなにを言い出すんだお前?」

「妾というものがありながら他の女に目を向けるとかひどうございます!」


通りすがりの目線が突き刺さる。いきなり始まった修羅場に人だかりができる。そして違和感を感じていた女も見えなくなる。おもわずそちらに視線を彷徨わせた。それが良くなかったのだろう。いきなりツヤの魔力が開放された。手のひらの上に火球が膨れ上がってゆく。シリウスがやれやれとばかりに少し離れたところに移動する。


「おいまて、なにする気だ」

「浮気ものにはお仕置きです!」

「まて、話せば分かる!」

「問答無用!天誅!」


 凄まじく絞りこまれた火球が俺の足元に炸裂する。爆風に人だかりが蜘蛛の子を散らした。

連続で魔法弾が打ち込まれる。躱し、弾いて防ぐ。そのとき、ツヤの妙に冷静な目配せに気づいた。

浮気者とか叫びながら攻撃魔法をぶっ放す。とりあえず全力できびすを返して逃げる。シリウスも俺に並走している。騒ぎに衛兵がやってくるが、騒ぎの元を見てへたり込む。お前ら任務を放棄するんじゃない。直接行く手を遮るのではなく、道を封鎖して一般市民を隔離する。そしてなぜか足元に矢が突き立つ。ツヤがニッコリを弓を構えて俺の方を見ていた。おいおい、待てや。なんで俺が弓で狙われるんですか。とりあえず走る。風切音を頼りに左右に身を翻す。見事な腕だな。そして俺は路地裏の開けた街路に入り込んだ。そこにはさっき俺が見ていた女と、数名の市民がもめている。ぶつかったとかどうとかと、とりあえず割り込むとしようか。


「お前ら、なにをしている」

「ああ?この女が俺の弟をふっ飛ばしたんだよ。骨が折れてるから治療費を出してもらうんだよ」

「助けてください!確かにぶつかりましたけどそんな骨が折れるとかおかしいです!」

「といってるが?」

「うるせえ、ゴタゴタ抜かすとお前から叩きのめすぞ!」

なんか話が通じないので、とりあえず手を上げて合図を送る。

ツヤが率いるヒノモトの隠密部隊が周囲を取り囲んでいた。

「ハンゾー、ご苦労」

「はっ、周囲は手のものが封鎖しております」

「ってことでそろそろ正体を聞きたいんだがな?お嬢さん」


魔力が開放された。陽炎のように空気が揺らめき、それが晴れた後にはデーモン族の女が立っていた。

絡んでいたゴロツキどもは腰を抜かして座り込んでいる。


「なぜわかった?」

「魔力量が抑えきれていなかったぞ」

「人間は脆弱な魔力しか持たぬ。可能なかぎり抑えたが、まだ足りなんだか・・まあいい」

「で、どちら様ですかな?」

「封じられし黒き書、我はその眷属なり」

「2冊は滅ぼした。残りはどれだけあるのかはしらんがな」

「ふ、あやつらは4つなる黒き書の中でも最弱よ」

「で、眷属のお前さんは、黒き書の具現より強いはずがなかろうが」

「1の書の眷属たる私が弱いだろ、舐めるでない!」


黒い魔力の暴風が吹き荒れる。とりあえずハンゾー経由で、隠密兵も散らせた。ツヤが俺の横に付き従う。

「ツヤ、お前も下がれ、こいつなんだかんだで並の魔物じゃない」

「お断りします。夫の戦いに肩を並べずして妻たる身の甲斐がないというもの」

「危なくなったら逃げろよ?」

「承知しました、貴方様」


剣を抜き放つ。シリウスが横で唸り声を上げている。

【主殿、コヤツは手強い】

【シリウスがそう言うなら大概だな。わかった】

周囲の空気が変わった。シリウスが結界を張り、周囲を遮断したようだ。

一気に踏み込んで上段から切り下ろす。手のひらで防ぎやがった。しかも無傷とかどうなってんだ?

「闇の大剣か。残念だったな。闇の眷属たる私にその剣は効かぬ」

「・・・なに?」

「ダインスレフか。太古に封じられた魔剣の一振り。それ故に私にはそれは効かぬ」

「ふん、やってみねばわかるまい」

「ならばその生命を持って贖え!」


 見た目は特に変わっていない。肌の色が真っ黒で目が爛々と赤いくらいで。だが内包する魔力を解き放ったこいつは嬢魔獣クラスの脅威を感じさせた。闇の魔力の塊といった感じか。攻撃魔法も魔力差で弾かれている。まずい、こいつにダメージを与える方法がないかもしれん。と悩んでいると後ろから凛とした声が聞こえてきた。

【諸々の枉事罪穢れを拂ひ賜へ清め賜へと申す事の由を 天津神国津神 八百萬の神達共に聞食せと恐み恐み申す】

白い結晶を散らし、矢を放つ。狙い過たず女デーモンの左目に突き立つ。神に捧げる呪と魔を祓う清めの塩が闇の魔力を吹き散らす。

「貴方様、今です!」


ツヤの声に俺は剣を振りかざし大上段から切り下ろす。

【告げる 八百萬の神達共に聞食せと恐み恐み申す 諸々の禍事 罪 穢有らむをば 祓へ給ひ 清め給へと白す事を!】

剣が光に包まれる。光の魔力を纏って今まで反発して弾き返されていた刃が女デーモンを切り裂いてゆく。断末魔を上げる暇すらなく消滅していった。


 騒ぎは収束していた。王様のちょっと派手は夫婦喧嘩と王都の民は納得しており、そもそも、王都になる前の小さな砦であった頃から、領主の顔を知らない民は潜りであるとすらされていた。故に、お忍びのつもりが全然そんなことにはなっておらず、王都の民は王様が民の様子をよく見に来てくれていると、親しみを感じていたのである。しかしながら、騒動には違いなく、治安維持には細心の注意を払っていた。本拠に侵入者があったのであるから当然ではある。そんな最中、王を訪ねて来客がやってきた。その来客が転機をもたらすのである。

懐かしい来訪者を前にしてもエレスの表情は優れなかった。この戦争の裏の黒幕の存在が明らかになりつつあるが、自分の力ではそれを打ち破れない。だが、そのきっかけになる情報を来訪者がもたらした。


次回:転換

この煽りはフィクションになる可能性があります。

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