閑話 学園編~行軍訓練の罠の裏側~
ロビンが現れた舞台裏です
王都は騎士学校候補生の遭難にざわめいていた。ここしばらくなかった不祥事であり、先日のトーナメントで活躍したエレス候補生は、王都の民の間でも人気が出ていた。孔明な騎士の指定や貴族でもない、平民出身の少年が、戦場の英雄を打ち倒す。わかりやすい身近な英雄物語に自らを投影していたのであろうか?
「ロビンさん、ご足労頂きありがとうございます」
「いや、礼には及ばない。エレスとカイルにはいろいろと借りがある。むしろ行軍訓練の行程表を入手した貴女のコネに興味が湧くよ。イリスさん」
「ふふっ、商人は情報が命ですからね。それに、秘密めいていたほうが淑女は魅力的でしょう?」
「ハハッ、違いない。物資はここで受け取る。地形的に襲撃ポイントはこの辺だろう」
「今の時期でしたら積雪がありますから、山の上の方で魔法をどかんで後は雪崩が全部隠滅してくれると」
「まあ、雪崩ごときで死んでくれたら良いんだがな」
「それくらいでは死なないと? すごい信頼ですね」
「エレスばっか目立ってるが、他の連中も並じゃない」
「上位魔獣を打ち取れるほど・・・ですか?」
談笑していたロビンの目線がすっと引き絞られる。物陰から獲物を射抜く狩猟者の目。
「あんた、なにを知っている?」
「まず大前提として、私はエレスさんと敵対するものではありません」
「それを示す証はあるのか?」
「今回の暗殺計画を妨害していることで、私の身の証になりませんかねえ?」
「いいだろう。今は貴女を信じよう」
「ありがとうございます。そもそもですね、私はエレスさんを初めて見た時に」
「みたときに?」
「一目惚れしたんですよ」
そう告げてニッコリと微笑むイリスに、ロビンすら目を奪われかけた。
「あー、わかったわかった。なんかアホらしくなってきたな」
「と言うか、お父様にも話し通していますしねー」
「それは貴女が次女だから通ったのか?」
「あら、詳しいですね? 私の家族構成をお話したつもりはないんですが?」
「俺を甘く見ないでもらいたいんだがね、イリス殿下」
「・・・・なるほど、あなたのような方がエレスさんのそばに居てくださるなら私も心強いです」
「エレスは平穏な人生を望んでいる。貴族の権力闘争に巻き込まないでくれるか?」
「上位魔獣を打ち取るのにどれだけの戦力が必要か、知らないわけはないでしょう?」
「なにが言いたい?」
「望むと望まざるにかかわらず、あなた達は既に舞台の上なのです。あなた達の武勇は諸侯のパワーバランスを揺るがしかねない」
「大げさな・・」
「本当にそう思いますか?」
「・・・貴女の意見を聞きたい」
「この国最大の兵力を持つのは誰ですか?」
「トゥールーズかアルフェンスか?」
「もう一人忘れていますよ?」
「バルデン?」
「ふふっ、王家ですよ」
「名目上はそうだろう。だが、今まともな将がいない。近衛すらまともに掌握できていない」
「そうですね。今この国に欠けているのは英雄です。旗頭となる存在なのです」
「だからエレスを?」
「そうです」
「で、どっからが本音だ?」
「全部ですよ?」
「要するにだ、一目惚れした男を手に入れるためにこんな手のこんだことをやってるってのか?」
「よくわかりましたね」
「くくっ、面白い。俺は全面的にあなたに協力しよう」
「ありがとうございます。個人的には私はミリアムさんとも仲良くしたいんですよね-」
「ほう、普通は独占するために排除するんじゃないのか?」
「そんなことしたら嫌われちゃうじゃないですか」
「それにね、あんな素敵な人を私一人で独占できるなんて考えてませんよ」
「剣を持ってない時はかなり残念だぞ?」
「そこが可愛いんじゃないですか!」
「やれやれ、好きにしてくれ」
呆れたような表情で、それでも目元に笑みを浮かべロビンさんは出発していった。私達の推測が外れてないことと、エレスさんの無事を祈って。普段はおざなりな礼拝しかしていないが初めて神頼みをした。
ロビン・ロクスリー卿。エレス王直属の騎士で諜報活動を主とした。生まれはファフニル地方。生涯家族を持たず、後に保護した戦災孤児を養子として自らの爵位を継がせる。王妃イリスとの関係も深く、王妃ミリアムとは昔なじみであった。エレス王の伝説が始まるキマイラ討伐の際に矢を放って王の反撃のきっかけを作ったとされる。
王国一の射手と呼ばれ、今でも弓兵の代表格として語り継がれ、弓兵を志す者はロビン卿の墓参りをすると大成すると言われている。
炎の紋章ちっくな人物紹介でした。
次回はエレスたちの反撃・・・のはず?