内政編 ~経済発展の裏事情~
感想もらったので、モブキャラで出してみました。
ヒノモト食堂は素晴らしい経済効果を上げた。うまいものを食べて明日への活力とする。当たり前のことではあるが、その普通を再確認させてくれた。小口の買い物などが増え、小規模な商人が潤い出す。ヒノモト領への買付けが増えたが、生産量には限りがある。よって外部から材料の買い付けも増える。街道整備や治安維持などは以前から行われていた。そういった事業に対し、税としての労役ではなく、自由参加のうえで報酬を払った。そのような政策で民は貨幣をある程度溜め込んでいたのである。
そしてそこに美味くて安価な食事という起爆剤が放り込まれた。ゆっくり作られていた土壌が一気に芽吹き、ウェストファリア王国は空前の経済発展を遂げたのである。
「まあ、何でも良かったのだよ。きっかけはの」
「ノブナガ公には感謝している。いっそ大公に格上げしようか?」
「いらぬよ、わしが頭を下げるのは王のみ。そういった形式を作るためだからのう」
「なんというか、俺とシャイロック卿が長年行ってきた政策をしっかり見ぬいたうえで、その先の手を打つとか、どんだけですかあんた」
「であるか、なに、わしも似たようなことを考えていただけよ。我らは流浪の民故な」
「というと?」
「移動すれば税をとられる。ものを売れば税をとられる。とどまれば税をとられる。いっそ息をすれば税をとられるとすら思っておった」
「まあ、そういうところもあったと聞く」
「この税というものを軽減する、不要なものは撤廃する。それだけで人は動き、ものは動き活性化する。そのうえで、豊かになった国から税を取る。効率的じゃろ?」
「ぶっちゃけ過ぎだ。だがまあ、そういうことだ。どっかの政治学者が言ってたことそのままだよ。与え、豊かにして、その上で取る」
「銭の洪水を起こせ。さすればその洪水は沃野をもたらさん。当家に伝わる覚書にござる」
「銭とは金か。たしかにの。人を動かしうるにこれほど便利なものはない」
「銭の力を知るは、わしと陛下以外には、シャイロック卿とアルブレヒト卿ですかの」
「どういうことだ?」
「アルブレヒト卿は教会の金庫番に上ったことはご存知か?」
「先日上がった情報にあった」
「傭兵を雇い入れておる。教会は今まで武力を持たなかった。ただ古くからある、その権威だけがよりどころだったのだ。その前提が変わりつつある」
「・・・場合によっては第三勢力になりうるか?」
「さて、能うやら・・・それこそ神のみぞ知るといったところか」
「義兄上はなかなかに洒落と皮肉がきいているな」
「おお、ついに義兄と呼んでくれるか。ありがたいことじゃ」
「ツヤは良き妻です。あれと引きあわせてくれた事に感謝いたしましょう」
「はっはっは、そういえば婿引き出物を渡しておらなんだのう」
「いやいや、そんな気を使わずとも・・」
「ツネオキ、目録を」
「はっ!」
「こちらは?」
「うむ、わしの最も信頼する部下じゃ。弟とも思うておる」
「ツネオキと申します。陛下には今後ともよしなに」
「おお、良き武者だ、ノブナガ公を助けていただきたい。私からも頼む」
「はは、ありがたきお言葉です」
「ツネオキ、それくらいにせよ。目録を頼む」
「はい、大殿。では・・・」
読み上げられた目録はとんでもないものだった。ここ数ヶ月でヒノモト領が上げた利益、ほぼすべてといって良い金額だったのだ。さすがに驚きを隠せず目線で問いかけた。
「なに、経費は全て差し引いておる。民にも十分に利益を分かち与えた。そしてまあ、この金には幾つもの理由がある」
「伺おう」
「一つは、妬みを躱すため。当家は今回のことで大きな利益を上げた。それに擦り寄ってくる者共もいるが、信に値せぬ輩も多いだろう。まあ、なんというか、虫よけじゃな」
「はっはっは、面倒は此方に丸投げか」
「左様。そのための上役じゃ」
「なるほど、それならば引き受けよう」
「ふたつ目は、国内の整備をさらに推し進めていただきたい。これまでの政策をさらに加速するための資金としていただきたいのだ」
「なるほど、納得した」
「カタナや宝飾品など、儲けになる技術を儂らはまだ持っておる。食品はその一つに過ぎぬ」
「おうふ・・・なんか、あんたが王様やったほうが良い気がしてきたんだが?」
「なに、こういうのはな、裏から操るのが楽しいんじゃないか」
「お手上げだ、貴公に譲られた玉座、徒や疎かにせんことを誓うさ。せいぜいな」
「まあ、これが最後の理由だな。現王家に与える恩というか、貸しか」
「あー、もう理解した」
ヒノモト領からの税の額を聞き諸侯は戦慄した。ちょっとした候爵領なら10年以上を賄えそうな額だったのだ。王の宣言により、それらの資金は国内の整備、開発への投資に回された。イーストファリアの国境地帯の開拓と、街道整備、各地にある鉱山の開発などである。シレジエンの西に有望なミスリル鉱山が発見された時は緊張が走ったが、特に国際問題になることはなく。首脳陣は安堵の息をついたのである。
もう一つ大きな動きがあった。ヒノモトの民のように流浪しており、定住していない民族が一定数存在する。フェリアースよりさらに東方から流れてきた人々だ。魔法技術に長けたエルフ族と、金属加工や武器の製造に長けたドワーフ属。身体的特徴があり、場合によっては亜人扱いの彼らが保護を申し入れてきた。生活や文化の違いで流浪を続けていたヒノモトの民が定住したとの噂を聞きつけてきたのである。
シレジエンとの国境、フリーデン山脈の麓に村を作りドワーフ族の住処とした。また、フリード北東の森をエルフ族に与えた。便宜上彼らの長を男爵位に任じたが、ドワーフの戦士は自らが鍛え上げた武器で模擬戦相手の兵の武器や鎧を斬り飛ばし、あらゆる攻撃に耐えぬいた。ミスリルのバックラーで魔法弾すら跳ね返すのである。どうしろと?
そしてエルフたちはひとり残らず弓の名手で、近衛騎士団を同数の兵で撃破した。森のなかで展開されたゲリラ戦でひとり残らず射抜かれたのだ。また、魔法兵団との撃ち合いで勝つなど、一線級の戦士であることを示した。
彼らの移住により、技術の発達が進み、増えた人口はそのまま国力の増強につながってゆくのである。
送り込んだ密偵がほとんど戻らない、そんな魔窟になりつつあるアースガードの首都マグデブルク。
漏れ出てくる情報からは圧政というのも笑えるほどのいどい有様だった。
そんな話を聞いてエレスが自ら潜入すると言い出す。
臣下の胃痛は収まる日が来るのか?
次回 潜入
気分によっては別の話書きます(ぉぃ