シレジエン防衛戦
展開急ぎ過ぎかな
戦後処理をカイルに任せ(丸投げし)て街道を南下する。前回の戦いで余り出番のなかったバルデン勢は先行させてシレジエンに向かわせていた。以前はなかったが、散発的ながら魔物や亞人の襲撃がある。違和感と悪い予感に急かさせるように道を急いだ。
「陛下、前方に煙が上がっています。方角的にはシレジエン方面」
「わかった。数名斥候を出すように」
「はっ!」
シレジエンにはオルレアン勢を後詰に送っていた。今回王の名代としてミリアムが加わっている。個人戦闘能力ならある意味この国最強である。軍を率いて戦うにはあまり向かないが、先陣を切って兵を鼓舞するには最高の人材になるはずだった。
心なしか足が急く。上り坂を駆け上がり、シレジエンが一望できる丘の上に出たとき、絶望的な光景が広がっていた。
アースガードの捕虜から入手した情報で、敵は魔物を使役する方法を実用化しつつあるらしい。指揮者となる魔物に人間の因子を埋め込み、その人間の意志に従って行動させる。そして、その意志は、魔戦士を作る過程でできた洗脳術で、人間を意のままに操る事ができるものだ。すなわち、術者に操られる魔物や亜人の群れができるのである。
ファフニルに対する工作、魔のグリモアを使用して国の重要人物を洗脳し、意のままに動かす。その計画の一環として、ウェストファリアにもグリモアを使用して内戦を引き起こした。ここ数年のいろいろな工作が全て一本の線に集約しつつあったのだ。
そして、シレジエンは落城寸前の有様だった。巨人族部隊が巨大な岩を投げつけ、大木を棍棒として振り下ろす。人間用にしか作られていない城壁はひとたまりもなかった。集約魔法や戦術級魔法で反撃してはいるが、一人二人の巨人兵を倒しても100を超える数に対しては大きな効果を成さなかった。
ゴブリンやオークの部隊が城門に突撃し、城壁上からの反撃を物ともせずに押し寄せている。破られるのは時間の問題と思われた。
丘を駆け下り、亜人達の陣列に切り込む。戦闘の痕跡はなくバルデン軍は恐らく城の中だ。後詰との挟撃が怖いなら、全兵力を城に押し込めればいい。そのうえで、城を落とせる兵力を用いて攻め落とす。兵の損害を考えなければ有効な策だ。そして、今回の敵軍は損害を一切考える必要が無いのだ。最精鋭の親衛隊はゴブリンを蹴散らし、西側の城門付近にたどり着いた。城門前の敵を駆逐すべく兵を回す。城内の兵がこちらの動きに気づいてくれた。城門から騎兵が打って出て敵を蹴散らす。城内の状況を聞いたが東門が破られつつある。西門付近の確保を任せ、城内を東西に突っ切る。
東門付近は酷い有様だった。吹き飛ばされた魔物の死骸がうず高く積み上がり、倒れた巨人兵も10以上いた。凄惨な戦場の中央にミリアムは凛とした姿で立ち、剣を振るっていた。
「ミリィ!下がれ!後は俺がやる」
「エレス!どうやってここに?」
「北はとりあえず片付けた。後はこいつらを蹴散らす!」
「わかった」
ミリアムがかざした左手から氷の刃が飛び、巨人兵に突き刺さると上半身が一瞬で凍りついて砕け散った。俺もダインスレフを振るう。巨人兵が3人、真っ二つになって吹き飛んだ。親衛隊は城門を確保しつつ魔法弾を放って援護している。敵もこちらの戦況がひっくり返りつつあることを理解したのか、戦力を集中して来た。北門と南門も敵の攻勢を跳ね返したと報告が上がってきている。こちらはほぼ俺とミリアムの二人で敵を防いでいる。そもそも並の兵では上位魔獣クラスにはほぼ太刀打ち出来ないのである。
北と南門から出撃した騎兵が敵の兵力を押し返し、城の包囲は解かれつつあった。しかし、ここで巨人兵の部隊だけでも叩いておかないと、いつ城門を破られるかわかったものではない。城壁にも大きな打撃を受けており、崩れかけている場所が両手の指の数では聞かないのだ。
ひときわ大きな巨人兵が現れた。どうも指揮官クラスらしい、内包する魔力量が段違いだ。そして敵もこちらの戦力を分断しようと考えたらしい。亞人共はほぼ撃退したが、ここに魔戦士を投入してきた。親衛隊が迎撃しているが、やや分が悪い。俺の周辺にも5人ほどがいて睨み合っている。このままじゃミリアムの援護ができない。まずい。嫌な胸騒ぎが俺を満たす。
魔戦士がミリアムに向けて一斉に魔法弾を放った。得意の防御魔法ファランクスで防ぐが爆風が粉塵を巻き起こす。そして巨人の指揮官が巨大な魔力弾をミリアムに向けてはなった。
一瞬音が聞こえなくなるほどの爆音と爆風。逆光の中にミリアムと思われるシルエットが見えた。そしてある魔法を放つ。それは体内の魔法を暴走させて周囲をなぎ払う。全ての魔法使いが一人前になる時に師から教わる最後の手段。あの規模の魔法弾が直撃すれば、東の城門付近は更地になっただろう。それを防ぐためにさらに大きな規模の魔法攻撃で迎撃するいはこれしかなかったのか。
すさまじい爆風が吹き荒れた後、健在な城門を確認した。しかしそれ以外には、なにも残っていなかった。ミリアムもどこにもいなかった。
「うわああああああああああああああああああああああああああああああ!」
事態を把握した俺を膨大な感情が満たす。自らの半身を喪った。周辺の兵たちも勝鬨を上げることも忘れて呆然としている。
へたり込む俺に近寄るものはなく、荒れ狂う感情に揺さぶられ視界がゆがむ。ダインスレフから黒い魔力が噴き出し俺を覆ってゆく。ああそうか、魔人化ってこうやってなるのかと他人事のような思いを黒い感情が塗りつぶしてゆく。
そんな俺を何者かが抱きしめた。懐かしい温かい感触。ありえない安堵感に黒い魔力が霧散してゆく。そして目の前を見ると・・・ミリアムがいた。
「え・・・なんで?」
「イリスに教わったの。ゴーレム召喚術」
「っておい!?」
「あんなの100も召喚して使役するイリスってとんでもないね」
「いやまて、なにがあった?」
「ゴーレムを自爆させて防いだ」
「へ??」
「前にイリスがやったでしょ?自分の身代わりゴーレムを自爆させて敵を混乱させたこと」
「あ、ああ。そういえば」
「ぶっつけでやってみた・・・・てへ?」
「心配させんじゃねええええええええええええ」
「うん、号泣するエレスとか珍しい物が見れた。一生忘れない」
「なんかいろいろ台無しだよ!っつか忘れろ!」
「うふふ、どうしようかな」
「あのー。陛下、嬉しいのはわかりますが、いちゃつくのは後にしていただけると・・・」
なんかそこら辺にいた兵が声をかけてきて、思わずこう返していた。
「いちゃなんかついてねえ!」
なんとか城を守り切った。敵軍は人的損害はほぼ0で、此方はかなりの損害をを受けている。だが敵にもテルロー会戦の顛末が届いたらしい。捕虜の解放を条件に和議を結ぶことができた。だが、これからの本格的な戦いの序章にすぎないことは誰よりも俺がわかっていた。
和議によって一時の平和を取り戻した。両国は受けた損害の回復に着手する。
そしてエレスは、防衛戦の最後に見せた有様を嫁たちにいじられるのだった。
次回 戦後復興
なんか戦争ばっかで話が重くなりすぎた気がするぞ?




