シレジエン会戦~伝説の再来~
双子のお子様は天空の血は引いていません
なんか特殊な隠れ里の血はひいてますが。
【告げる、古の盟約に基づき我がイリスの名において命ず 広大なる大地を統べし汝 その御手の一端を貸し与えよ サモン・アース!】
100のゴーレムが横一線に現れ、盾を構えた。
【女神よ 汝が愛子を慈愛の翼もて包み給え・・・ディバイン・ランパート】
そこに防御魔法の重ねがけが入る。ってイリスの声なのか?なんか違和感が・・・魔戦士隊の魔法攻撃が一斉に放たれるが、そもそもゴーレムはイリスと同等の魔法防御力があり、そこに防御魔法が重ねがけされているのでまったくの無傷だった。そしてゴーレムの反撃。矢尻のように尖った石弾が驟雨のように降り注ぐ。器用なことに奇数番のゴーレムは水平発射、偶数番のゴーレムは曲射と使い分けている。それを交互に三連射され被害の出た敵陣に混乱が見て取れた。ゴーレムの城壁を回りこむように横陣の右から一騎駆けで斬り込む。
シリウスの遠吠えがどんどん高くなってゆく、そしてある一定の高さを超えた瞬間聞こえなくなり、無音、不可視の振動波となってたたきつけられた。超音波の振動は物体を破壊し、あらゆるものが砂礫のごとく砕け散った。フェンリルが上位魔獣たる所以である一撃死の技、ハウリングロア。
なんか本人曰く、分子レベルでの慣性力を制御し分子結合力を破壊するとか言うてた。よくわからんがすごいことだけは理解した。
いきなり指揮官らしき魔戦士がいきなり上半身を消滅させられた。拍車がかかった混乱は破局へと転がり落ちてゆく。
敵陣にゴーレム部隊が斬りこんだ。それを好機と見て俺自身は敵部隊から離脱する。敵兵が迎撃しているが疲れを知らない魔法生命体だから攻撃が命中しても怯むことなく、ずっと戦い続けるゴーレム相手にジリジリと切り崩されていった。そして戦術級魔法が放たれる。巨大な風の刃が一閃され、魔戦士隊はほぼ壊滅状態となった。ふう、イリスの働きがなかったらやばかった。
第三王子の軍はアースガード軍が時間を稼いでいるうちにシレジエン包囲軍と合流し、態勢を整える予定だった。敵も城門を抑える部隊から兵を抽出しアースガード軍と向き合っているこちらの側面を突こうとしているようだが、一手遅い。此方は中央突破を果たしつつあり、後詰の軍も既に半壊している。こちらの左側に近寄りつつあった3000ほどの部隊はさらにその側面から魔法兵の十字砲火を受け一気に混乱した。ロビンと東方武士団の奇襲である。
「やあやあ、我こそはウェストファリア王の朋友にして一の部下、イセノカミ・トモノリなり!腕に覚えのあるものはかかってまいれ!」
なんか場違いな名乗りを上げ斬りこんでゆく。トモノリに続いて一糸乱れぬ統率で槍兵が敵の側面を突き崩した。両翼を伸ばして包囲を図っていたが、部隊を伸ばそうとするとそこに射撃が降り注ぐ。
500あまりの兵で3000を蹴散らしてゆくその姿はまさに圧巻だった。
敵の後方で鬨が上がる。オルレアン騎兵が出撃して、城門を封鎖している兵を薙ぎ払った。フェルナン卿が陣頭に立って指揮をとっている。オルレアンのルドルフ卿に隠れて影が薄いように見えるが、若い頃は猛将として名を馳せた人だったらしい。普段は穏やかな笑みを浮かべ、貴公子然としていた面影はなく、毅然と采を振るう姿はまさに歴戦の将にふさわしい風格を見せていた。
敵軍は城の包囲を解き、シレジエン東方の小さな砦に拠って、そこで軍の再編をしているようだ。こちらもフェルナン卿を先陣に経て、その砦に迫る。迎撃に出てきた敵兵は、士気が低く逃げ腰だったため逆に打撃を加えにくいという皮肉な結果となった。
「殻にこもられたか。厄介だな」
「囮を使いましょう。効果的な餌が」
「ほう、どうするのだ?」
「少数の部隊をつけて、第二王子殿下に挑発していただくのです」
「うむ、やろう。退路を決めてその両翼に兵を伏せよ」
「御意!」
ベルティエのあくどい計略は即実行された。100ほどの騎兵を率いて砦の前で敵を煽ってもらったのだが、煽り方がひどかった。なんで一騎打ちとか言い出す、ここまで積み重ねてきた戦術的勝利を無駄にする気かこの野郎。
それでも出てこないのでいろいろと罵詈雑言を言い放ち、XXXX野郎とかこのタXXしとかまあ品性を疑うようなセリフが出てくるあたり、いろいろとどうかと思った。何故か近衛兵からの視線が痛かった。
まあ、結果として敵は様子見なのか少数の騎兵を出撃させてきた。オルレアンのライエル卿が見事な指揮で撃退する。もう少し多めの兵が出てくると徐々に後退し、距離をうまく作って突撃し撃破した。数度の先頭に勝利し、へっぽこの王の下にはへっぽこの騎士しかいないのだなとライエル卿が煽ったところ・・・なんか敵王子が先陣切って突っ込んできた。なんでこうなるのか??
まあ、後はいつもの流れだ。伏兵で取り囲んで包囲殲滅である。ただまあ、ここで下手に決着を着けるとややこしいことになりそうだったので、王子は取り逃がしておいた。
退いてゆく敵軍を見送ってこちらも軍を再編するべくシレジエン城に入った。ロビンとアストリアを派遣して近隣領主の調略を進める。戦いの状況も密偵や吟遊詩人などを使い、建国王の伝説とあわせて広めさせた。100のゴーレムを操る直径子孫の王妃の武勇伝である。王女時代から、後の夫となるエレス王とともに数多くの戦いに臨んだといろいろ話を盛ったのはご愛嬌・・だよな?
シレジア城、城主居室。イリスのマントが不自然に膨らんでいる。おいまさか・・・
疑念というかなんかいろいろと棚上げして、まずは愛する妻を褒め称える。
「イリス、お前はすごいな。いつの間にあんな魔法の腕を上げてたんだ?」
「いやあのその・・・じつは・・・ね?」
「前にゴーレム召喚した時はひっくり返ってたしな。あの戦いからもう6年か、早いものだ」
「う、うん、そうだ・・・ね」
イリスのマントの膨らみがさらにもぞもぞし始める。お前なんてことを・・・
「で、種明かしはないのか?あの頃より確かに腕は上げただろうが、ゴーレム操りながら別の魔法使えはしないよな?」
そう言うと、イリスは目線をそらし口をとがらせてぷひゅーとかいいだした。お前口笛吹けないよな。
そしてマントの前が開き、イリスそっくりの娘と、俺の子供時代にそっくりとミリアムが頬ずりしまくっている息子が現れたのだった。
「あーもー、お前なんちゅうことを・・・」
「うん、こっそりついてきたんだけど、この子たちまでついてきてたの気づかなかったのよねー・・・」
「ろびんにおしえてもらったのー、おんぎょーじゅつー」
「ちょっとまて、レイル!熟練の猟師だからできるような技術を使えるとかどういうことだ!?」
「まえにみりーままが魔法教えてくれたの」
「マリー、どういうことだって・・・ちょおおおおおおおおおお!?」
「エレス。この子たちの才能って、やっぱ隠れ里の血を引いたせい?」
「あー、多分な。てゆーか5才足らずで戦術魔法使いこなすとかどんだけ!?」
「うん、すごいよねー、あはははは」
「天才じゃないか!素晴らしい!イリス、お前は最高だ!俺達の子供は最高だ!」
「さいこー!ぱぱだいすきー!」
「あー・・・そうだった、この人子供が絡むとすんげー馬鹿になるんだった」
「で、イリス。その最高の子どもたちを戦場のど真ん中に連れてくるとか・・・どういうことだ?」
「・・・・ごめんなさい」
「結果無事だったからいいが、この子たちに何かあったら・・・その瞬間から俺の二つ名は魔王になる自信があるぞ」
「笑えないからやめて・・・」
子どもたちはなんか楽しそうに俺たちの周りをくるくる回っていた。その笑顔に癒やされつつ、大技を使ってへたり込んでいるシリウスを膝の上でモフり倒すのだった。
勢力圏は拮抗させることができ、ほぼ東西で国土が分割された。いったん停戦が結ばれた。お互い軍を引き、シレジエンには今回の戦いで見事な働きを見せたライエル卿を入れた。子爵位を与え、城代ではあるが、ほぼ全権を委任した。参謀としてアストリア、ロビンを配置し現地の調略を行わせる。
国境地帯の入植村については、エヴルー城にひも付け、その指揮下に置いた。マルク子爵を城代に任命した。ただし、軍事面のみの指揮権とし、領土運営についてはウォルト卿に一任した。アルフェンス領で小さな村の立て直しに成功した手腕を買っての措置だ。
つかの間の平穏は次の戦いの準備期間である。身も蓋もないが、まあまた忙しくなるんだからと開き直って、子どもたちと過ごす時間を増やした。城内の馬場でリンが見事な腕の騎射を披露してくるわ、マリーが手のひらサイズのゴーレムを生成するわ、レイルは近衛兵と互角に戦うわ。
なんだこれ、うちの子供すげえとか親バカモードではしゃぎまくったがふと我に返ってしまった。
この子たちの力は振るわれるべきではない。あまりに強すぎる力は跳ね返ったときにこの子たちに深い傷を刻むだろう。ということは統一しか無いのか。うん、ないな。
我が子のために争いをなくすために戦う。なんか矛盾しているような気もしなくはないが、アースガード国内がいろいろときな臭いことになっているようだ。なんか議長選挙が近いとかなんとか。柄ではないが、なんとかするしかないようだ。
どうしてこうなった・・・?
イーストファリアの情勢は落ち着いたが、アースガード連邦がさらなる兵力を投入し第二王子を駆逐しようとしているようだ。対抗して第二王子に援軍を送るかに見られたが、なんと第二王子をシレジエンに後退させ籠城させた。エレス王は軍を北上させ一気にアース-ド連邦の本拠を衝くべく軍を進めた。
次回 敵の本拠と軍を分離して叩くのはセオリーです(仮
統一戦線はいよいよクライマックス?