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閑話 故郷

なんかが降りてきたので閑話

「そういえば、この中で誰が一番ダーリンと付き合いが長いの?」

珍しく嫁4人が一緒に集まっていた。そんな参加の雑談でリズが放った一言でミリアムが語りだした。

「わたしが一番長いね。故郷からずっと一緒だから」

「そうなの。そういえば、私がエレスのことを知ったのはトゥール村の騒動の時だけど、そこが出身じゃないのね?」

イリス、お前の差金だったのか。つーか、士官学校に王女が入学とか前代未聞だろうよ。

あのすったもんだの2年間が頭痛とともに思い出されるな。

「それで、ミリィお姉さまとエレス様はどこのお生まれなんですか?」

「そうねー、あたしも知りたいな-」

問われてミリアムが俺の方を見る。無言で頷く。


「私とエレスは、隠れ里ティル・ナ・ノーグで生まれた。伝説の建国王もここで生まれた・・・らしい」

「ってことは、私達遠い親戚なのね?」

「かも知れないって程度だけどね」

「なんで隠れ里かってことだけど、ティル・ナ・ノーグの一族からはたまに異能の者が生まれるの」

「え?ってことは・・・」

「うん、私とエレスがそれに当たる。私の持っている異能は、あらゆる戦いと魔法の才」

「え、それって・・?」

「あらゆる武器と魔法を使える・・・らしいね」

「あー、オルレアンの騎士たちを骨抜きにしたっていう・・・」

「ああ、遠当てと騎射で伝説残してきたって・・」

「それはいい」

「まあ、なんとなく見えてきたね-。その力を狙った権力者に狙われるか、場合によっては滅ぼされる」

「そういうこと、そして私を救うために、エレスは生涯逃れられない業を背負った」

「・・・どういうこと?」

「ちょっと長くなるけど、いい?」

王妃たちは無言で頷く。彼女らの大事な家族の歩んできた物語。


 剣を振るえば大人をなぎ倒し、弓を射れば飛ぶ鳥を射抜く。魔導書を一目見ただけで呪文を使いこなし、戦術魔法で魔物の群れを薙ぎ払った。普通の子どもや、大人から見ても異質な存在。

少女は孤独だった。里の者は彼女を尊び、そして遠ざけた。守り神として、強大な力を畏れた。

それは彼女が孤児だったこともあったのだろうか。村はずれの小屋で、一人寝起きする毎日を送っていた。

 幼い頃の記憶、彼女の力が目覚めるまでは一緒に遊んだ友達。

 森の奥に迷い込んで、獣に襲われる。一人の少年が手近にあった木の枝を振り回し、獣を近寄らせないように防ぐ。剣術や戦いと言うにはあまりに拙い、恐怖に立ち向かい震える足を踏みしめる。

獣の牙と爪は少年を傷つけ、流れだす血は体力を容赦なく奪う。それでも少年よりもっと幼い子どもたちは逃げ延びたように見えた。後は大人を呼んできてもらうだけだ。もう少し、もう少しの我慢だと耐え続ける。だが力の差は残酷だ。ついに力尽き少年は倒れた。その喉に獣の牙が迫ったとき、ミリアムの中で何かが弾けた。

【清き流れ集い給え 細く 細く岩をも穿つ流れよ・・・アクアスラッシュ】

 尖った水弾が獣を弾き飛ばす。少年は気を失っていて、命が助かったことに気づいていない。

連続して放たれる水弾は分厚い毛皮を貫けないが、そのうちの一つが目に命中した。

獲物に傷つけられた獣は怒りを露わにする。唸り声を上げ飛びかからんと身をかがめる。

少女は恐れる気配もなく、魔力を操り魔法を放つ。

 風の刃が閃く。不可視の刃が獣の五体を切り裂き、それを見た少女もまた意識を手放した。

里の方向から複数の人間がこちらに向かっていることを確認しながら。


 少年が目を覚ましたとき、自分が生きていることを傷の痛みで自覚した。

誰かに手を握られている。ベッドの横には幼なじみの少女がシーツに涙のシミを作って眠っていた。

傷は手当され、回復魔法が施されていた。

そして目を覚ました少女は大粒の涙をこぼしながら少年にすがりついた。


 次の日から日常は一変した。力を目覚めさせた少女は守り人の修練を強いられ、ひと月を経ずしてあらゆる武術と魔法を修めた。長老の命で村にとどまり、危険な魔獣が現れた時はその討伐を、それ以外の日は狩猟の手助けを行う。村人は彼女に近寄らなくなり、子どもたちも遠巻きにした。

 一人の少年が守り人に志願し、修練を始めていた。幸いにと言うか、剣と弓に才を示したが、魔法の才が全く無かった。魔力は人並み外れているのに、全く外部に放出ができないという実に残念な有様だった。

 そして時は流れる。里には少女が張り巡らせた結界があるので、普通の獣は近寄れない。これにより、小さな子供が獣に襲われるような事故はなくなった。今や里は彼女の守りがなければ成り立たないようになっている。だが、皆その事実から目を背け、都合の良い事実だけを見る。彼女の孤独を見過ごす。命を救われた少年は自分だけでもと時折少女の小屋を訪ねていた。

 その日は森がざわついていた。18歳になった少年は3年前に与えられた守り人の剣と弓を手に森を哨戒する。森の奥から獣の群れが移動してきていた。自分に向かってくるものだけを矢で射抜く。暫く様子見で奥に進むと、とんでもないものを目にした。遠い遠いご先祖様が魔物を封じたとされる祠が壊れていたのである。祠の周辺には血だまりがあり、不埒な侵入者はその報いを受けたようだ。まあ、それはいい、黒い魔力が吹き上がりつつある。周囲の獣が魔物化してゆく、クリスタルを括りつけた信号矢を放つ。魔力を込めると強い光と破裂音を出す。非常事態を里に伝えるためだ。

 しばらく持ちこたえれば他の守り人がやってくる。だが、それはあの少女がここにやってくる事を意味していた。自分の力のなさに歯噛みする。だが、この自体を見過ごして村に被害が出れば彼女は悲しむだろう。少年は剣を抜き、近くの魔物に斬りかかる。少しでも少女が傷つかなくて済むように、傷つけなくて済むように。

 斬り捨てた魔物は10から先は数えるのをやめた。荒い息をつきながら祠に視線を向けると、人影が見えた。おかしい、あんな魔力を帯びた人間が生きているはずがない。すさまじい勢いで、純粋な魔力を弾丸にして飛ばしてくる。剣に魔力を付加して弾く。皮膚は漆黒に染まり、目は真っ赤に輝く。バックステップして矢を引き絞り放つ。飛来した矢は眉間に突き立つ。普通なら致命傷だ。だが微動だにしない。無表情だった口元が弧を描く。禍々しい笑みを浮かべ、頭上に指をかざす。

 巨大な火球が飛来する。最大限に魔力を込めた剣を振るい、真一文字に飛ばした魔力刃で切り飛ばす。今の一撃で、剣に込めた魔力を使い切る。次の攻撃は防げない。嫌な汗が背中を流れる。

そんな時に救いの手は現れた。

「おまたせ」

 祠から這い出てきた魔人が火柱に包まれた。周囲が陽炎で揺らめくほどの熱量だ。いつものように隣に並び立った少女は無表情でこちらを責めるような目で見てきた。


「どうして一人で戦ったの?一度引き返して皆を集める手もあったはず」

「聞くな、俺にもプライドがある」

「そうね。けど里に被害が出たら元も子もない」

「そうだな、そのとおりだ」

「下がって。まだ終わってない」

「なに?」


 火柱が唐突に吹き飛んだ。魔人は哄笑しながらそれこそ無限の魔力を汲み上げているかのごとく、驟雨のような密度で魔力弾を放ってきた。少女の結界に阻まれるが勢いが衰えない。結界と攻撃魔法は同時には使えない。相手の息が切れた頃合いで反撃するのだがそれもままならない。


「逃げて。ここは私一人で戦う」

「嫌だ、お前を置いて行くなんて」

「子供の頃、あなたは私を守ってくれた。私が守りたいのは里じゃない、あなた」

「奇遇だな、俺も同じことを考えてたんだ。お前一人守れないなんざ男がすたる!」

「じゃあ、こうしましょう。結界を前に押し出して叩きつける。弾幕をかなり押しこむことができるから。回りこんで全力の魔力刃で真っ二つにしちゃって」

「わかった。やってやる!」


 結界を弓なりに変形させ、前に押し出す。魔力弾を放出している両手に向け叩きつけることで、一時的にせき止める。一点に集中した魔力が暴走し、結界ごと爆発する。この絶好の機会を逃す少年ではなかった。全力で魔力を込め剣を振り下ろす。そして込められた魔力に耐え切れず、剣が砕け散った。

 一瞬の自失、そして魔人の目から放たれる閃光が少年の腹部を貫いた。

 響き渡る少女の悲鳴。また俺はこいつを守れないのか?せり上がる絶望感を湧き上がる激情で押しつぶす。

 激痛というより灼熱感。刹那の時を経て貫かれた腹部から大量の血が流れ出し意識が遠ざかる。途絶えそうになる意識を集中する。周囲の視界がやたらゆっくりと進む。新たな感覚に目覚める。弾けるような音を聞いた。殻が砕け散る音を。

 腹に開いた穴に魔力を集中し、強引に塞ぐ。体内の魔力を循環させ、自らの身体に付与してゆく。研ぎ澄まされた感覚で、飛んできた魔力弾を手のひらで弾く。

 これまでと比べ物にならない速度で踏み込み幾万回と繰り返した動きをトレースする。徒手の技で最初に学ぶ技、中段突き。まるで鉄の塊を殴ったような感覚。相手も体の周囲を魔力で覆っている、その密度があまりに高く、貫けない。

 目に涙を浮かべこちらを見る少女。泣くんじゃない。その涙は俺が止めてやる。そして、俺はこの場で一番大量の魔力を放っているモノに目を向けた。

 祠の奥に見える黒い剣。聞きかじった伝説が本当ならばあれは魔剣ダインスレフ、一度抜かれれば誰かを斬り殺すまで鞘に収まらぬと伝説には記されていた。柄を握り、一気に引き抜く。奔流のような魔力が流れこむ。必死に操り逆に県に付与してゆく。視界が赤く染まる。これ俺も魔人化してるんだろうか?全身と剣の魔力付与を必死に制御し、一足に跳ぶ。爆発で失われた両腕をかざし、巨大な魔力弾を放ってくる。そのまま構わず飛び込む。剣を突き出すと魔力がかき消される・・・違う、吸い込んでいる。新たに吸収した魔力をそのまま叩きつける。すべての音が掻き消えた。・・・気がした。あまりの爆音と衝撃波で聴覚が麻痺しただけのようだ。

 俺が守りたかった少女がなにか言っているが聞こえやしない。ただ涙を流して何かを俺に伝えようとしている。なんだろな、なにを言ってるかよくわからないけど、お前、笑えたんだな。うん、かわいいじゃないか。


 俺たちが里に戻るとひっくり返りそうな大騒ぎになっていた。祖先の施した封印が破れ、魔人が復活しているのじゃーと長老が叫んでいる。

 そして、俺を見た瞬間、長老が固まった。どうやた俺はかなり外見が変わっちまったらしい。

里の皆から魔物を見るような目つきで見られるのはそれなりに辛かった。封印された魔剣を持っていることで、それに拍車がかかった。


 数日後、真夜中、守り人の宿舎から手荷物を持って抜けだした。ずっと東にはご先祖様が建てた国があるらしい。もうこの里には俺の居場所はない。いつも訪ねていた離れの小屋の前で一礼し、別れを告げる。


といきなり肩を叩かれた。

「どこに行くの?」

「おどかすなよ。まあ、あれだ。とりあえず東へ」

「そう、じゃあ行きましょうか」

「へ?」

「私も行くの。あ、里から出たら結界を張り直す。全力でやるから魔力切れになると思う」

「おまえは何を言っているんだ」

「だから、しばらくは・・・抱っこしていってね」

「いやだからなにを」

「約束・・・破るの?」

「なんのことだ?」

「ずっとお前を守るって・・・言ってくれた」

「むぐ・・・うーむ・・・むむむ」

「言った」

「あーもー、わかったよ。行くぞ」

「うん、よろしくね」


 それから少年と少女はあてどもない旅に出た。最初に出会った人里で自分たちが随分異質な存在であることを悟り、ひとところに落ち着かない生活を続ける。彼らのあまりに強い力は恐怖を呼び疎まれる結果になったのである。そして里を出て1年、ふと立ち寄った村で、彼らの運命の歯車は回り始めたのである。


 語り終えたミリアムを、他の3人は涙すら浮かべて聞き入っていた。まあ、あれだいろいろと突っ込みどころはある。とりあえず、俺が大怪我をしたのはお前が俺の足にしがみついてたせいだし、目覚めた俺のシャツに作ったのはよだれのシミだ。ベタベタの頬を擦り寄せられて、いろいろと困った。

だがまあ、それは些細な事だろう。思い出は綺麗であるべきだ。あの頃に比べれば表情豊かになった幼なじみをとりあえず抱きしめる。即座に両腕にイリスとエリカが、後ろにリズが抱きついてくる。俺は嫁達から伝わる温もりと、背中に当たる感触を存分に堪能するのだった。

ベ、別に本編のネタが思いつかなかったからじゃないんだからね!?

びみょーに難産でした。

次は本編か閑話か・・・どっちだ?

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[気になる点] 奔流のような魔力が流れこむ。必死に操り逆に県に付与してゆく。視界が赤く染まる。 県→剣
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