反乱鎮圧
戦争の基本は、相手より多くの兵力を整えることです。基本の先に応用があるのです。
不平貴族どもは、首領のモンペイザ子爵とともに、プロヴァンス周辺に集結したようだ。なんかおかしいと思ったのは、そもそも、この子爵は法衣貴族のため地盤も戦力も持たないはずである。この前の官僚締め上げで、私腹を肥やしている腐敗役人の首を物理的に飛ばしたが、どうもこいつがその後ろで糸を引いていたのだろうか。どこに勝つ見込みがあって挙兵したのかは理解に苦しむが、傭兵と近隣の小領主を糾合しなんだかんだで5000ほどの兵を集めた手腕はまあ評価に値するか。
出陣の支度をしつつ、思わぬ情報が飛びこんできた。5000の手勢のうち1000の兵力がバルデン伯レックスの手勢であること。どうも子爵の嫡子がこの前首を飛ばした役人の中に居たようである。首になるのが嫌ならまじめに働けというのだ。トゥールーズ候カイルにも援軍を依頼する。ひとまず、近衛騎士2000とともに王都を発った。
「僭王よ、どの面下げてこの国を統べるつもりか。我らは貴族の権利を守るため立ち上がった!貴様の好きなようにはさせぬ!」
「俺の登極に異を唱えるは構わぬ。だが、自分勝手な権利を振りかざしてその義務を果たさぬは国にとって害悪だ。叩き斬ってやるからとっととかかってくるがいい」
「・・・我らを侮って少ない兵士か連れて来なかったことを悔いるがいい・・・かかれっ!」
両軍は平地で真っ向からぶつかり合った。横陣に展開し、互いに重装歩兵を先陣として押し合う。
盾を連ね一糸乱れぬ連携で鉄壁の陣列を保つ。後方から魔法兵の援護が飛び、個別で押し込んでくる傭兵を誘い込んで槍衾で打ち取る。寄せ集めの兵では突破どころか、渡り合うのも難しい有様だった。
そして、エレスとその親衛隊が動き出す。黒一色の軍装に身を包み、王を中心にして真っ向から切り込んだ。選びぬかれたフリードの精兵は魔力をまとわせた刃で重装兵をバッサリと切り裂く。個別で魔法弾を放ち、包囲しようと迫る兵をかたっぱしから討ち取った。そのまま真正面から突破を図り、中央を突き進む。同時に第2陣に控えていた第2連隊が左右に別れ、敵陣の両翼を突破した。
戦術もなにもなく、単純に兵の練度による力押しで倍の兵力をものともせず蹴散らしたのである。
敗走する反乱軍に1000騎の援軍が現れ、エレス軍の側面を突くように部隊を動かし、追撃の足を鈍らせた。魔法弾の打ち合いは発生したが、有効射程ギリギリの位置を見きっており、損害を受けなかったが敵を取り逃がすという失態を演じた。いやむしろ敵将の戦術の妙を褒めるべきか。
「レックスの采配は見事に尽きるな」
「誠に。攻守にわたって完璧に近い。まさに、名将というべき御仁ですのう」
「なに、サヴォイ伯も負けてはおらん」
「過分なるお言葉。光栄に存ずる」
恐らくレックスの指揮によるものだろう、ラーハルト軍仕込みの野戦築城が見事なレベルで再現されていた。空堀に土塁、柵を連ね、力押しをすると苦労しそうなレベルである。
南北のみ攻め口を作ってあり、迎撃戦力や射線がそこに集中するよう巧みに経路が作られていた。兵の力量差をうまく帳消しにできるように作ってあるあたり、戦術家としてのレベルが伺える。
まあ、とりあえず降伏勧告を行う。トゥールーズ軍が明朝到着予定であることを伝え、首謀者の首一つで助命することとした。
意外なことに内輪もめのようなものは起きなかった。どう言いくるめたかは不明だが、それなりにしっかりと掌握しているようだ。勝ち目がどんどん失われているにもかかわらず、いっそ不思議だった。
明朝、トゥールーズ候カイルが着陣した。領内の政務が大変とぼやく。最近奥方は二人目を懐妊したとのことで、仲が良くて何よりだ。閑話休題。北側はカイルに、南側は俺が受け持って攻囲することとした。いざとなれば、戦術魔法で一気に突破ができる。その切り札もあって、攻囲側には余裕が見えた。反面、反乱軍からは日に日に余裕が失われる。そして破局は攻囲開始から2日後の深夜に訪れた。
レックスが首領のモンペイザ子爵を討ち取ったのである。埋伏の毒の計略はうまく行ったようだ。
レックスが築いた砦は防衛のためではなく、反乱軍を逃がさないようにするための牢獄であったという具合である。
参加した貴族階級は平民に落としたうえで、バルデン領預りとした。もともと父と兄がクーデターを起こした首謀者という引け目もあり、諸侯からもどことなく距離を置かれていた。妾腹の生まれでもあり、庶子が伯爵家を乗っ取ったという目でも見られていたこともある。だが今回の戦いで功績を上げたこと。戦術の妙を見せたこと。野戦築城の技術の素晴らしさを示したこと。なにより、新王エレスの信頼が厚いことを国の内外に示したことだ。
王の武勇と知略、また股肱の臣の忠義を内外に示し、エレスの王権は急速に固まっていった。先王の口利きもあり、廃嫡の身とはいえ、第一王女クレアがバルデン伯のもとに降嫁することが決まったことで、軍事的に有力な諸侯がほぼすべて新王を積極的に支持していることが判明したのである。王家の血筋ガーとか喚く年寄りどもも、王子誕生でその口を閉ざしていった。新たな強き王のもと、ウェストファリア王国はさらなる発展を遂げることになるのである。
「大公、何勝手にへんてこな日記をつけているのですか!?」
「おう、陛下、後の世に英雄王エレスの足跡を残しておこうと思っての。わしの日記が資料となったら面白いではないか」
「あーもう、なにたわごとをほざいてるのですか」
「貴様、義父に向かってたわごととは何事だこのアホ息子!」
「確かに反乱鎮圧したし、今貴族を縛る法の草案書いてるけどもだな。国境付近とか不安が山盛りだよこのクソオヤジ!」
「武力背景にしてるから多少のことは大丈夫だ。そもそも、反乱軍の半数の兵で出撃するアホな指揮官がどこにいるんじゃ!?」
「国庫のどこに大軍動かす余力があるんだYO!カッツカツやで!」
「国債ばらまきゃ済むだろうがYO!」
「息子に借金残すとかどんな放蕩親父だ!」
「知るかボケ、その時々でなんとかやるもんだよ!全部お膳立てされてちゃ面白く無いだろうが!」
「余計な苦労はいらんだろうが!」
「若いころの苦労は有り金はたいてでもしとけ、さもないとろくな大人にならねえんだよ!」
「なるほど、確かに!」
「わかったか!」
「・・・俺は運がいいな。新米王でもなんとかなってるのは、偉大な親父殿が後ろにデーンと構えていてくれるからだ」
「ふん、わしゃなんもせんぞ。ただお前さんがやり過ぎたり、迷ってる時にはなんとかしてやる」
「感謝する、義父上」
「ふん、隠居をあまりこき使うでないぞ」
「承知した」
そうして俺はレックス卿とクレア義姉上の婚姻許可書にサインを入れた。書類を義父上に渡すと、とてもいい顔で微笑んでいた。いつもそうやってニコニコしてりゃいい爺様なんだがな。黒い笑顔の時にも孫どもは喜々としてまとわりつくあたり血筋なんだろうか?
しかしあれだ。俺はどこで道を間違ったら王様になっちまったんだろうな。
反乱を見事な手腕で即座に鎮圧してみせたエレス王。表立って反旗を翻す諸侯は鳴りを潜めたが、新たに交付された法。ノブレス・オブリージュが諸侯を揺るがすことになる。領民を豊かにできない領主には存在意義がない。領民を守れない領主は害悪である。を基本方針としていた。
東部国境地帯で新たな火種が勃発?
次回:紛争の火種
上記煽りはフィクションになる可能性があります。