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エレ式ブートキャンプ 模擬戦と紅白戦

カイルさん、実は強いんです

 盾を構え剣は下段の構え。こちらは剣を垂直に立てて構える正統派の剣術の構え。合図はない、構えた瞬間から始まっている。そもそも戦場で開始の合図があって斬りかかる阿呆はいない。腰を落とし盾を前にかざしてどっしりと構える。どんな斬撃も弾き返され、カウンターを受けるイメージしか無い。っち、相変わらず対戦したくないやつだ。

 垂直に構えた剣を脇を閉めて引き寄せ、水平に振るう。一歩引いて受け流す。剣を振りきったあとの隙に刺突を加えるのがセオリーで、そのとおりに胴をめがけて突きが飛んできた。柄で受け止め手首を返して剣先を跳ね上げる。その回転のまま、切っ先を地面近くから跳ね上げた。体を開いて剣先をやり過ごし、盾ごと体当りしてくる。垂直に戻した剣を立て、剣の腹で受ける。そのまましのぎを削るがお互いに飛び退って仕切りなおした。

 兵士たちが熱狂している。わずか数合のやり取りで、この二人が卓越した剣士であることを理解したのか。カイルの指導は攻撃を受け止めるだけで、防御技術に関しては知られていたようだ。何をどうやっても攻撃が当たらないと兵士たちのボヤキはよく聞こえていた。しかし、その技術が兵士たちからすれば、英雄である主君の攻撃すら凌ぎきるものと思っていなかったのである。


「ったく、相変わらず可愛げのねえ剣さばきだな」

「褒め言葉をいただき恐悦至極」

口調とは裏腹に揃って笑みを浮かべている。二人の影が交差し乾いた衝突音が連続して聞こえる。太鼓に合わせて剣舞のような打ち合いに、兵士たちは固唾を呑んで見守っていた。


 たっぷり15分続いた打ち合いは唐突に終わりを告げた。互いの武器がポッキリと折れてしまったのである。訓練用の木剣はかなり頑丈に作られているはずが、短時間の試合でそれをへし折るあたり常識を外れていると言っても過言ではない。新入りの兵たちは畏怖の表情を浮かべ、同じくこれが己等を率いる将であることに思い当たり改めて士気を高めていた。


「さて、こっからどうする?」

「そうですな、兵を半分に分けて紅白戦をやりますか。新任の4人には指揮官役をやってもらいましょう。一応総大将は我々で、前線の指揮をとってもらいましょうか」

「お、いい考えだ。アトラス、ベルガ、俺の下につけ!先鋒はアトラス中陣にベルガだ」

「では、クレイ!先陣だ。ディーンは中陣とする」

「各40の兵を持て。俺たち後陣は指揮官一人だ。指揮官まで突破された方の負けで、武器はペイントを使うか。マークされた奴は脱落だ」

説明しよう!特殊な木の実から取れる塗料があり、水で簡単に落ちる。粘り気があり、訓練用の木剣を浸すとしばらくそれで叩いたものに跡が残り、こういった試合の判定用に使われるのだ!

「エレス殿、誰に向かって喋っているのですか?」

「気にするな、なんか喋っておかないとまずい気がしただけだ」

 

 両軍の兵は盾と剣、手投げ矢を5本持つことになった。矢にもペイントがされており、盾と鎧以外に当たった兵は死亡扱いとなる。2列横隊で両軍向かい合った。

「アトラス隊前進!前列盾構え!」

盾を構え、歩調を合わせてジリジリと進む。相手も同様の構えでジリジリ進む。

「後列手投げ矢用意!・・・・放て!」

放物線を描いて、両軍の手投げ矢が降り注ぐ。鏃側についた錘でかなりの加速度で落下してくる。矢を投げた後列の兵は盾を頭上にかざし、前列の兵にくっついて矢の雨から身を守る。盾の隙間をぬって直撃を受けた兵が悲鳴を上げ、両軍数名の脱落者が出た。

前衛部隊が接近し盾と剣で殴り合いを始める。戦列から突出した兵は囲まれあえなく離脱となっていた。力自慢だった新兵たちも集団戦の恐ろしさと難しさをその身に叩きこまれていた。倒された兵が抜けた穴を後列の兵が埋める。どちらも同様の損害を出しており戦況は膠着した。

「今だ、後列突撃!」

エレスの指示が飛んだ。第2陣が相手の列が薄くなっている左側に猛攻を加えさせた。

「左翼後退。中軍一列横隊!回り込め!」

兵の密度がどちらも偏っていた。中軍を一塊で突撃させ、一気に突破を図ったが、崩れかけた陣列を後ろからもう1列増やし、突破までの時間を稼ぎ、逆に相手の密度が薄い側を包囲して突き崩したのである。

わずかな差であったが、前列を突破され、部隊を率いた戦いではカイルに軍配が上がった。

「各指揮官はよく戦った。だが、盾をもっと密集させれば、矢による被害はもっと減らせた。盾をしっかりと並べ、相手の攻撃を確実に防ぐことが戦友を守ることにもなるのだ、わかったか!」

おおおおお!鬨の声が上がる。


「ベルガ、突破を図るときには最も信頼している兵に先頭を任せ、紡錘陣を取るのだ。陣に厚みがあってはお互い突破ができなくなる。いいか?」

「はっ、次に活かします!」

「そうだな、いい言葉だ。だがな、実戦に基本次はない。間違った指示で死んだ兵は戻らない。そこを腹に収めたうえで指揮を執るんだ。いいな!」

新米指揮官たちにもいい勉強になってると良いなと思いつつ柄にもない説教をする自分が可笑しくなってしまった。

つい数カ月前までは教官に怒鳴られるのが俺達の仕事だったはずなのにな。

 

 それからの兵隊の訓練は熾烈を極めた。朝から晩まで走り回り、武器の訓練と陣を組むための集団行動訓練。疲労困憊してぶっ倒れても回復魔法で復活してしまうのである。そのため、過言でなく死ぬ寸前までしごかれていた。日によっては森で魔物討伐。ただし、森での討伐訓練は、ギルドから出る報酬は兵士へのボーナスとしていたので、士気は高かった。

別途魔法が得意な兵を集め、個別訓練を行っていた。集団で同じ魔法を放つことにより威力を高めるのである。魔法兵には別途手当が出ることもあり、志願する兵は多かった。

こうして、軍事面での充実が図られていったのである。


一人の勇者は多数の兵を率いた指揮官にはかなわない。

ただまあ、ファンタジーものだとそれは必ずしも当てはまりません。

なんつ-か、自分で作った設定ながら戦術魔法使い、反則です。

7/3誤字修正ほか、文章追加

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