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閑話 アストリア、誓う

グラナダ攻略戦が予想以上のボリュームになってまとまらなかったorz

 わたしの名はアストリア。わが軍はグラナダ要塞を前に陣を張っていた。昨夜の軍議で連合軍は分裂し、ラーハルト軍だけで要塞を攻撃する羽目になっていた。兵に動揺は見られないが、それでも死地に赴くと同然の状況に表情は硬い。だが、市への恐怖を上回る殿への信頼が軍を支えていた。

 われら指揮官は事前に策を伝えられている。それでも綱渡りのような作戦に正直わたし自身が不安を覚えている。だが、わたしが動揺すれば兵に伝わり、勝てる戦も勝てなくなる。故に胸を張る。どんな戦も勝利するとの自信をもって。


「魔法兵、土木魔法を開始せよ。方陣だ。堀には川から水を引き入れるのだ」

「はっ!」

「筏をばらして柵を組め。魔法結界補助の魔道具を均等に設置するのを忘れるな」


 訓練通りに兵が動き、野戦築城を行ってゆく。簡易ではあるが砦に入ることにより、3倍の兵とも渡り合うことができるだろう。ラーハルト軍は殿自らが鍛えられた。投降してきた兵を加えているが、彼らは後方支援や補助的な役割を持たせている。背水の陣に従っているあたり性根は座っている。信頼はできると思っている。何より殿が悠然と構えている。そのいつも通りの姿が兵を落ち着かせて働かせていた。

 払暁から始まった渡河と築城作業は昼前に完了した。それを見計らっていたかのように要塞から兵が出撃してくる。近衛兵団は国内最精鋭と名高い。その名に恥じない武勲も上げている。わが軍の真価が問われる一戦になることは明白だった。


「ラーハルトの精鋭たちよ。一騎当千の我が戦士たちよ。私は知っている。諸君らがどれだけの血と汗を流し、今ここに立っているかを。フルボッコにされて骨が折れよーが回復魔法で即座に立たされ、ゲロ吐いて突っ伏してたら魔法薬で無理やり回復され、朝から晩まで山野を駆けまわり、アメニモマケズカゼニモマケズ、魔物の群れに突っ込まされ・・・ってあれ?」


 調子に乗って演説してたらトラウマ刺激された兵が真っ青になっていた。なんか隅っこのほうでうずくまってるのもいる。

「閣下、戦いの前に兵にダメージ与えてどうするんですか……?」

カイルのジト目で殿をいさめる。

「あー、すまん」

手巾でわざとらしく汗を拭く。

「うおっほん!ゲフンゲフン!あー、そう、諸君らほど過酷な鍛錬を耐えぬいたものはいないだろう!

そう言いたかったのだ!だからそう、あれだ、近衛騎士なんぞ敵じゃない!王都にぬくぬくとしていただけのへっぽこ共に目にもの見せてやろうじゃねえか野郎ども!」

うおおおおおおおおおおおおおお!

兵の士気は上がっている。まあ、緊張感のない演説も殿らしい。笑っている兵すらいる。見事な掌握だ。

「閣下、野郎どもって・・・うちら何時から山賊になったんですか?」

「あー、すまん、アストリアの口癖が」

「ほう?ジェントルの極みの私がいつそのような口を聞きましたかね?」

「閣下、ごまかさないでいただきたい」

「だーもー、演説が締まらねえだろうが」

「最後の「野郎ども」である意味台無しです」

カイル、殿を責めているようだが笑いをこらえているのがありありだ。生暖かく殿を見ていると微妙な突込みを受けた。死を覚悟すべき戦いを前にしてこんなに心が軽いのは初めてではなかろうか?


「おっしゃ!全軍配置につけ!ラーハルト軍の最強を証明するんだ!」

うおおおおおおおおおおおおおお!


 敵の意図は簡単だ。殿の首をとること。それでこの内乱の勝敗がほぼ決する。おそらく至上命令としても殿打ち取れと命が下されているだろう。あえて前線に立ち、討ち取れそうな状況を作り出して敵兵力と要塞を分断する。そして別動隊が要塞を占領し、出撃してきた敵兵力を無力化する。言葉にするとこれだけだが、かなりのリスクを伴っている。そもそも殿が討たれたら負けの状況で、敵の3割の兵力で迎撃って時点で正気の沙汰じゃない。攻撃は熾烈を極めるだろう。国内最強の兵を相手に、だ。

 さて、予想通りのすさまじい構成だった。矢は雨のように降り注ぎ、盾があっという間にハリネズミのようになった。魔法弾も雨あられというやつだ。わが軍は魔法兵の訓練は特に厳しく行っている。まあ、その分待遇もいいのだが。結果として魔法兵の質は相手を上回り、射撃戦は勝利を収めた。だが、元の兵力差が大きく、白兵戦になったときどの程度持ちこたえられるかだ。よって柵際で足止めし投射攻撃で討ち取るのが最善の策となる。シャイロックの部隊からクロスボウを配備させたのもこう言った理由による。

 時間は敵に味方している。敵は前衛部隊を次々に入れ替えて繰り出しており、こちらは消耗に消耗を重ねている。身動きが取れなくなって討たれる兵も増えてきた。わたしも自ら柵際に出て剣を振るう。そんなさなか柵から飛び出した人影があった。って殿?!

 

「我は近衛騎士、第3連隊第4大隊所属のギョームだ。いざ尋常に勝負!」

「いい度胸だ、死んでも文句言うなよ」


 勝負は一瞬だった。確かに強者には違いないが次元が違う。敵軍がどよめくさなか、兜を脱いだと思ったらシリウスだった。ってペットを戦場に連れてきてるんですかと突っ込みを入れそうになったが、いきなり巨大な黒狼が現れる。殿はそれにまたがって敵中に突撃を敢行した。敵陣が混乱し、こちらへの攻撃が弱まる。それはそうだろう。戦術目標の敵の首魁が単騎で突っ込んでくるとか。わたしでも混乱する。だが今は殿が稼いでくれた時間を使い陣営を立て直す。負傷兵を治療し、策を立て直し、部隊を再編する。頃合いを見たか、敵の包囲が狭まる前にうまく突破して帰還してくれた。正直わたしが生きた心地がしなかった。

「おう、見事な手際だ。助かった」

「殿、無茶はやめてください」

「そういいながらもきっちり陣営を立て直してるな。見事!」

「何度も回収の兵を出そうと思いましたが・・」

「出さなくて正解だ。シリウスの足についてこれなきゃ結局同じだからな」

「上位魔獣を敵中に突っ込ませるとかどんだけですか!?」

「効果的だったろう?」

「って、なんか真っ赤な顔したご老体が現れましたな」

「ああ、あれがバルデン伯だ」

「ほう、ってなんかブチ切れてるようですな」

「まあ、獲物が飛び込んできたのに取り逃がしたからな。奴らの目がこちらを向けば向くほど俺たちは勝利に近づく」

「さようですな。ではせいぜい嫌がらせでもしてやりましょうか」

「そうだな」


 後で知ったが、味方の兵が倒れていく姿に耐え切れず、飛び出してしまったらしい。単騎で敵をかき回したことはほとんど意図したわけではなかったとか。だがあの時間がなければ陣は崩壊していたと思われる。総大将が感情に任せて単騎駆けとか褒められた行動ではない、が、多くの兵を救ったことも事実である。わたしはこの人を全力で守る盾となろうと思った。特に口に出したとか、表明したわけではない。だが、この剣は主君のために振るうことを己に誓ったのだ。


 戦況は一気にひっくり返った。敵総大将が明らかに冷静さを欠いていたことも一因であろう。フェルナン卿は完璧な用兵をした。敵の側面を突き崩し、混乱に陥れた後で退路を断つように見せかけることで敵の後陣が崩れた。そこで陣に立て籠っていたラーハルト本隊が突撃する。見事な挟撃だった。敵陣がドミノ倒しのように崩壊して行く。先頭の騎兵が持ちこたえている敵部隊を的確に突き崩して指揮系統を寸断してゆく。組織的な抵抗は徐々に弱まり、敗走が始まる。

 決着はあっけなかった。城壁の上から獅子吼する前近衛兵団長サヴォイ伯の前に降伏の連鎖が始まった。オーギュスト卿はほぼ単騎で王都に向けて落ちていった。グラナダ要塞にラーハルトの旗が翻ったのだ。


 戦後処理と補給、負傷兵の後送と再編成を行った。ラーハルト本隊としては今までになかった規模で死傷者を出しており。むしろあの激戦の中でよくも程度の損害で済んだと感動していたのだが、殿は兵を数で見たくない。一人一人の兵には一人一人の名前や家族があったのだと。人生があったのだと告げた。後日、われらが立て籠もった陣の後に石碑が建てられた。そこには戦死者の名前が全員分刻まれたとのことだ。

次回、王都解放と王位継承まででアストリア編は終わる。…予定です(;´・ω・)

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