閑話 アストリア、仕官する
書いた本人が設定が頭からすっぽ抜けてるってどういうことですか。
前話を本編に合わせて修正しております。
わたしの名はアストリア。サンカ族を支配下に治めることができた。エスゲイはそのまま副頭目として許し、まずは人心掌握に努めたが、そもそも腕っぷしが正義という非常にわかりやすい連中である。今のところはおとなしく収まっていた。
手始めに集落周辺の調査を行ったが、露天掘りが可能な鉄などの鉱物資源に、木材、湧き水もあったので農地の拡張もまだできそうだった。しかしながら人口はすぐに頭打ちになるだろう。居住地と農地の拡張が難しいのだ。さらに別の集落を築けば話が変わるが、それもまずここを限界まで開発してからになるだろう。
テムジンはひとまずわたしの副官とした。実はエスゲイの息子らしい。腕っぷしよりも頭が回るので、なかなか重宝している。兵たちの訓練と集落の開発の指揮を執り、ふもとの調査を進めていたある日、テムジンがやってきて来客を告げた。貴族風の男と凄腕の剣士が数人という集団らしい。
応接室にフェルナン卿と護衛隊長と思われる黒衣の騎士が入ってきた。できる。わたしが相打ちを覚悟するほどの使い手は初めてではないか?フェルナン卿とは何度も干戈を交えた間柄ではあるがこれほどの腕の立つ騎士を抱えていたとは初めて聞いた。
「アストリア卿、まさか貴方が山賊の頭目ですか」
開口一番、先制口撃のつもりか?
「なに、権力争いに敗れた敗残者ですよ。して、我がサンカ族に対して話したいことがあると?」
「さよう。当家に従っていただきたい。領民としての庇護をお約束する」
「フェルナン卿、それは無理な相談だ。我らは国と言うものを信じられない。私も地位と家族など全てを失ってここに来たのだ。力が正義という掟に従って力を示したゆえ、頭目などに祭り上げられたがね」
まあ、いずれどこかに所属する必要は感じていた。さすがに500あまりの人口で国を相手にはできん。だが安売りをするのは論外だった。
「独立した勢力であるということは理解している。正直、一部の腐敗した領主については私もよく思っていない。貴公らにはその名誉を回復する機会があればとも思っているのだが・・」
「国単位で軍を送り込まれては、流石に我らも勝てないでしょうな。しかし、ただの山賊と侮ってもらっては困る。我らの数倍の損害は覚悟していただこう」
「ふむ、交渉の余地はないと?」
「そうですな、我らの掟は力だと先に伝えました。我らに力を認めさせていただきたい」
「ふむ、それはどのようにしたら良い?」
「そうですな。風王の塔に登って、最上階にあるという宝珠を持ち帰っていただこうか」
「なっ・・それは無茶だ、過去よりいかなる勇者もあの塔から生きて帰ってこなかった」
「ふむ、一人可能性がありそうな方がいるが。上位魔獣を打ち倒したそちらのエレス卿とか・・ね」
黒衣の騎士はぴくっとこちらを見た。ふもとの情報を仕入れていた時に拾ってきた噂話だ。って自分が有名になっていることの自覚はないのだろうか。あんな目立つ格好しているのにな。
「って…俺になにをしろと?」
「古代遺跡の一つで、風の精霊王が住処としている塔があるのだよ。王に認められれば比類なき力を得るとの話だ。ただ、ここ100年ほど記録に残っている範囲で、帰って来たものはおらぬ」
「ふむ。なるほど」
「アストリア卿、今日の話はここまでとしよう。また後日話し合いの機会を設けていただければ幸いだが・・」
まあ、いずれ頭を下げることになるとしても、まだ一族の中で根回しができていない。まあ、実際にあの塔から生きて帰ったら改めて説得の必要はないだろうが。
「いや、行きましょう」
「エレス殿??」
「アストリア卿とか言ったな。俺が生きて帰ってきたら俺に従うか?」
「私とサンカ族の腕利きが行ってもまず生きて帰れまいと思っている。そんなところから生還するならば、至上の勇者であろうよ。我らは強き者に従いは最高の誇りとしている」
「わかった。その言葉、違えるなよ?」
ニヤリとした笑みを浮かべて集落を出てゆく。わたしはフェルナン卿を伴い、腕の立つ兵10名を率いて彼らの後を追いかけた。
彼らは立ち止まることなく、それこそ何の躊躇もなく死地へ飛び込んでいった。エスゲイも若いころここに挑んだらしいが、最初のフロアすら突破できず、命からがら逃げ伸びた。むしろあそこに入って落命しなかったことが武勇伝になるレベルである。正直自分も入っていきたくない。
彼らが入ってすぐ、低く重い音が響いた。明り取りの窓から光が漏れている。攻撃魔法をぶっ放したらしい。だがあれほどの規模の魔法を使ってしまっては先に進む余力はないだろうとおもっていると、30分ほどして2層目と思われる位置からまばゆい光が漏れた。浄化魔法か?と思うとさらに上のフロアから火柱のようなものが漏れていた。半日もしないうちにあの塔を踏破したらしい。連れてきた兵はうつろな目つきで何かぶつぶつとつぶやいている。後で聞いたらエスゲイとともに突入した兵の生き残りらしい。
屋上と思われるあたりで膨大な魔力の渦が立ち上った。すさまじいまでの魔力の奔流がたたきつけられ、それを迎え撃つ3つの輝き。そして最後にたたきつけられた人外な規模の攻撃魔法。しばらくして押し合いしていた魔力が急激に霧散した。直感的に風王の塔の攻略に成功したことを実感する。ふとフェルナン卿を見ると、彼も驚いた顔で、目が合うとやたら魅力的な苦笑を浮かべた。
そして間もなく、エレス卿と部下たちが塔から出てくる。わたしが連れてきた兵たちは最敬礼どころか土下座している。いっそ私もそうしたい気分であったが、まあ、それは後だ。わたしがいることに怪訝な表情を浮かべ、フェルナン卿と目が合ってエレス卿も苦笑を浮かべる。
「エレス殿、我らサンカ族の民は貴方に従いましょう」
「え、貴公らはフェルナン卿の配下になるのではないのか?」
「貴公はこういいましたぞ?俺に従えと。それこそこれ以上ない形で力を示していただいた。精霊王を従えるは心正しきもののみ。それにですな、ラーハルト領の善政は我らにも伝わっているのです」
「やめてくれ、俺はそんな大層なもんじゃない。一度フェルナン卿に話はさせてもらう。そのうえで問題なければ、部族まるごと引き受けよう」
「ということですがよろしいか?」
「無論、私に異存はないよ」
「ってなんかもう話が俺がいないところで決まっていたような気がするんですが?」
ハッハッハと笑みをこぼすとエレス卿は疲れ切った表情で笑みを浮かべる。苦労性の未来が垣間見えた気がした。
こうしてわたしは一族すべてを引き連れてラーハルト家の家臣となった。ここから転変してゆく私の運命の序章である。
サンカ族改め、フリーデン兵を率いるアストリアですこんばんわ。
この殊勲、むちゃくちゃですが面白い人です。退屈はしなさそうです。
次回 アストリア、戦う