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異伝 どうしてこうなった!?

100話達成記念SSです。

23時前にもう1話投稿しております。


 これはもう一つの物語。あったかもしれなかった世界の行く末。どちらがいい、悪いではなくて、ともに等価である可能性の一ページ。


 俺の名はエレス。自由戦士だ。相棒のミリアムと一緒に諸国を渡り歩いていたが、ちょいとした事件がきっかけでこのトゥール村に腰を落ち着けることにした。村長の家に居候し、北の森に入って獲物を持ち帰る。ギルドに納品して報酬を受け取る。そんな生活を送っていた。最近もう一人というか一匹?加わったやつがいる。黒い子狼で、シリウスと名付けた。森で拾ったのだがなんかやたらなつかれるのでそのまま連れ帰ったのである。

 そんな日々が1年続いた。少し前にミリアムに押し切られ、結婚する羽目になった。羽目になったといっても別に嫌なわけではなく、なんというか物心ついたころから隣にいたので、なんか照れくさいというかなんというか・・・うん。まあ、いい嫁だ。だからたまにはゆっくり寝かせてくれても罰は当たらないと思う。

 あの事件でともに戦った親友で村長の息子のカイルは、先日、師匠の娘と結婚式を挙げた。女剣士リンは最近ギルドでも名をあげてきていたが、伝説の戦士マッセナの娘であることを聞いたときはみな開いた口がふさがらず、さらにカイルがリンと結婚することが決まったときは、いろいろと衝撃的だった。ちなみに、新郎と一緒に酔いつぶれて互いの嫁に絞められたのは今でも笑い話だ。

 年取って体が動かなくなったら宿屋でも開くかと夢物語を語りながら今日も森へと急ぐ。マッセナさんは最近このトゥール村を含む領主のアルフェンス伯のところに仕官したらしい。その時カイルとか俺にも騎士にならないかとのお誘いをいただいたが、堅苦しい暮らしは好きじゃないという理由で断っていた。そしていつも通り、ミリアムの放った矢がクマをしとめる。口の中や目を射抜くことで、毛皮に一切傷がつかないので高く売れるのだ。戦利品を引きずって村に戻ると、何かざわついていた。またキマイラでも出たか?と思って村長宅へ急ぐと、なぜかマッセナさんがいた。

「おお、エレス。久しぶりだな」

「お久しぶりです、なんかあったんですか?」

「ちと困ったことがあってな。お前らに力を借りたいのだ」

「何事です?」

「うむ、王都でクーデターが起きた」

「・・・はい?」

「それでだな、政変を感じ取って東の連中が攻め寄せてくる動きがある」

「あの、そんな重要な情報をただの村人の俺に話していいんですかね?」

「ん?お前がただの村人だったら、俺はこの村の人間率いて世界を統一してやるわ」

「えっと何が言いたいのかよくわかりませんが、勘弁してください」

「うん、お前そろそろ自分が非常識だって気づけ」

「いや、俺ほどの常識人はそういませんよ?!」

「クマの口の中を一矢で射貫くとか離れ業すぎんだろ!!!!」

「えー、ミリアムも同じ事やりますよ?」

「んじゃお前ら夫婦が非常識なんだ」

「あー、もういいです・・・」

「って話がそれまくってるな。本題に入る。村から義勇兵を募っている」

「なるほど、だからざわついているんですね」

「ぶっちゃけようか、おめえとミリアムとカイルとリン。4人出してくれたらこの村の義理は果たしたことにできる」

「はい?」

「お前ら4人がいれば100以上の兵力に優る」

「またまた、宮仕えで冗談がうまくなったんですかね?」

「俺は本気なんだがな? で、どうだ、俺と来てくれるか?」

「一つだけ聞きたいんですが、この村はどうなりますかね?」

「まあ、どっちの軍が来ても蹂躙されるな。敵国は言うに及ばねえ。王都のクーデター派から見るとうちの大将は謀反人だ。無法人の領内の村を焼き払いました。だれがとがめる?」

「わかりました、とりあえず俺は誰をブチコロセバイインデスカネ?」

「おい、おちつけ。まだ敵はいないぞ」

「センメツタイショウヲインプットシテクダサイ」

スパーーーンと頭上にミリアムのハリセンが叩き込まれ、俺はキラーマシーンモードから戻る。

「エレス、私たちの安住の地を脅かすものは」

「ああ、殲滅だな」

ぐっと親指を立てた拳を向けあう。マッセナさんは頭を抱えていた。


 一月後、俺はアルフェンス伯フェルナン卿の陣営で、先陣に立っていた。敵はイーストファリア軍。国境を越え略奪に来ているとのうわさだが、開拓村がすでに3つ焼き払われているという。こちらのほうが兵力は少ない。西からクーデター派が進軍してきているからだ。とりあえずこいつらをとっとと殲滅して、引き返さないといけない。

 攻撃命令がでた。俺たち義勇兵、自由戦士の混合部隊は一気に坂を駆け降りる。敵も軽歩兵を繰り出し、瞬く間に乱戦が始まった。とりあえず自分の目の前に味方がいないことを確認してミリアムが呪文を唱える。キュドっと腹に響くような爆発音とともに目の前の兵数十名が吹き飛ばされた。きな臭いにおいが立ち込める戦場を駆け抜けてゆく。黒光りする大剣は鎧をまとった敵兵を難なく両断し、俺の周囲は血煙が充満する。切り開いた経路に後続の戦士たちが殺到し、敵の前衛は混乱に陥った。先陣同士のぶつかり合いは自軍が圧倒し、そこにさらに後詰めが投入される。序盤の勢いの左派を盛り返すことができず、敵軍は総崩れに陥った。その追撃戦は国境線まで続き、イーストファリアの総大将がある自由戦士に打ち取られて戦いはアルフェンス伯軍の完勝に終わったのである。


「やっちまった・・・」

「エレス、大手柄だね」

 ジト目でミリアムがこちらを見つめる。目立つつもりがなかったのだがついカッとなってやってしまった。今は少し後悔している。俺たちは総大将の陣幕に呼び出されていた。

「失礼します」

「おお、入りなさい」

壮年の落ち着いた雰囲気の男性貴族が俺たちを出迎えてくれた。今となってはこうだが、若い頃は猛将として知られていたと聞くから恐れ入る。

「さて、エレス殿。此度の戦い、誠に見事な働きだった」

「いえ、私の周囲の戦士たちが勇猛だったからです」

「なればその戦士達は口をそろえてこう言うぞ。エレス殿の働きは抜群であったと」

「いえいえいえ。それほどでも」

「まあ、君が目立つことを嫌っていたのはマッセナから聞いておる。だがな、ここで君が全く褒美を受け取らなんだら、わしは誰も賞することができなくなるのだ」

「う・・むう・・・私が辞退したといってもいけませんか?」

「私の器量が問われるな。勇戦したものへの褒美をケチったと」

「あー・・・わかりました」

がっくりとうなだれる俺と対照的に、フェルナン卿はゆったりとした笑みを浮かべていた。

 戦時任官が行われ、俺はどうやら騎士様になったようだ。しかも上級騎士。魔法攻撃で敵陣に穴をあけまくったミリアムも騎士、中軍でマッセナさんとともに敵を蹴散らしまくったカイルも騎士爵を賜りトゥール村を領土として与えられた。今までは代官だったのだが正式に領地として与えられたのである。俺の肩書は法衣貴族としてであり、領土はなかった。むしろ助かった。

 

 さらに一月後、俺は先陣の自由戦士部隊を指揮する羽目になっていた。腕っぷしであれば先日の戦いで示しまくったので、戦士たちのなんかキラキラしたまなざしが向けられる。いい年のおっさんのまなざしなんぞ受けたくもないが、自業自得とあきらめる。くそ、俺はどこで間違えたんだ?なんでこうなるよ?熱いまなざしはミリアムから向けられてりゃいいんだよ、俺は。

 オルレアン平原の西の平野部。地形の凹凸も少なく、兵力がすべてを決するような地形。そんな場所で会敵していた。敵はバルデン伯オーギュスト。クーデター派の軍権を握る大物だ。一騎打ちの達人で、敵将5人を続けざまに馬上から叩き落したとか、総崩れの軍で踏みとどまり反撃のきっかけを作ったとか伝説には不自由していない。なんか先日の戦いで俺も伝説作っちゃったみたいだが、まだあのおっさんには及ばないだろう。ていうかそんな伝説の人になっちまったら平穏無事な生活が…

 こちらの兵は4000ちょっと。敵は5000ほど。ややこちらが不利だ。会戦の作法とやらで、お互いの正当性を主張し、相手の士気を下げようとしている。ま、お互い相手を謀反人呼ばわりし、なんか不毛なやり取りになっていた。

 そしてフェルナン卿が相手を言い負かして向こうの口げんか担当?が顔を真っ赤にして地団太を踏み始めた。なんか見苦しいので俺はキュッと弓を引き絞り、シュッと放った。突撃を命じようとして開いた大口に矢が吸い込まれ、下品な敵騎士は打ち取られる。俺の位置からは普通に矢は届かない。その距離を狙撃してのけたのだから、敵は動揺し、味方の士気が上がる。俺はさらに馬を進め、無造作に次の矢を放った。これもポカーンと口を開けていた騎士を射抜いた。3人目を射抜いたあたりで、敵に指揮官と思われる騎士が立て兵の間に隠れた。

 俺はそのまま駆け出す。フェルナン卿の仕立ててくれた黒一色のチェーンメイルが陽光を弾き返し黒光りする。剣を構えたのを見て狙撃されないと考えたのか、敵陣から騎士が飛び出してくる。すれ違いざまに剣を振りぬき、先頭の騎士が真っ二つになった。そして同じことを後二回。弓と剣の腕を示し、早くも返り血に濡れる。味方に合図を送った後、そのまま切り込んだ。

 あまりの腕に敵軍は震撼していた。並の弓兵では矢を届かせるのも難しい距離で狙撃を行い、あっという間に三対一の場面で勝利を収めてのける。田舎騎士を一気に蹂躙してくれようと出張ってきた、王都周辺の諸侯軍がまず足を止めた。

 先手はもらったと、エレスの部下になっている戦士団が切り込む。テンションマックス状態で高笑いをあげるもの、戦斧を振り回し切り込んでいくもの。陣列も何もなく、各々の腕を頼りに死地に飛び込んでいく。騎士相手とは勝手が違う戦いぶりに敵騎士団は混乱をきたした。そこにちゅうちょなくフェルナン卿が突撃を命じる。区々たる戦術ではなく、兵の勢いで押し切る単純な戦い方であるが、義勇兵を含む混成部隊としては緻密な戦術を駆使できるはずもない。突撃のタイミングを外せば全軍崩壊という非常に危険な戦いを強いられている。だがそんな中でも刹那を見切って突撃を命じたフェルナン卿はやはり歴戦の武人であった。

 戦いはバルデン軍が踏みとどまったが、周辺の諸侯軍が崩れたため戦線を支えきれなくなった。オーギュスト卿は殿軍を務めていたが、矢に射抜かれたところでマッセナ卿に討たれた。バルデン伯の領都に幽閉されていた長子レックス卿が降伏し、バルデン領が落ちたことで、クーデター軍は総崩れとなったのである。北から進軍してきたトゥールーズ候の軍と合流し、王都は解放された。

 この内戦で、俺はオーギュスト卿を討ち取った勇者として祭り上げられた。国を割っての戦いで弱った国威を盛り上げようというのはわからんでもない。なんかいきなり近衛兵団の副団長にさせられた。フェルナン卿は王都にとどまり、軍の最高指揮官に抜擢された。アルフェンス辺境伯に叙爵され、自分の領土は長子のライエル卿が代理として運営するらしい。

 王位は、第二王女イリス殿下が継ぎ、女王として君臨することとなった。俺は遠征軍を任され各地を転戦することとなる。おかしいな、田舎でのんびり過ごすのが夢だったのにな。なんで俺は軍を率いているんだろう? そういえば、ずっと子狼のままだったシリウスの正体がフェンリルだったことには魂消た。奇襲を受けて取り囲まれたときに、いきなりかみつかれた。そしていきなり育った。頭の中に声が響いて、その声に従ってシリウスにまたがって敵陣に切り込んだが、フェンリルだーって敵が蜘蛛の子を散らしたときはもう乾いた笑いが出た。そのあとで俺の二つ名が「黒狼の騎士」とかもうね。なんというか・・・もういいや。

 そんなこんなで、ウェストファリア王国は勢力を盛り返した。あほな貴族を一掃したおかげで様々な無駄が取り払われ、国が若返ったこともある。で、俺は軍を率いて20年。ついに統一を成し遂げた。

 田舎暮らしで生涯を終えるはずだったんだがどこでどう間違ったのかね?まあ、次代に託して俺は隠棲する。懐かしいトゥール村で。給料はたっぷりもらったし年金も出るし、悠々自適の余生を送るのだ!

もとはこんなプロットだったんですが、書いてるうちに別ものになりました。

今書いてる分を書き上げたら、こっちを書いてみるのもありかもしれません。

しばらくしたら別シリーズに移行する・・かも?

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