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I〈アイ〉の遺伝子  作者: YuYu
第一章 夢-ユメ-
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悲劇の足音が聞こえるか

 

 綺麗だと――率直にそう思った。


 もこもこの浮き雲に似た白く輝く被毛は、穢れない気高さの象徴であるかのようだ。

 背中から生える立派な翼は、仕舞われていてもその逞しい存在感を放つ。

 まるで中世の騎士を思わせる甲冑を身にまとい、腰の横にはイカを真っ二つに切り裂いた剣を下げている。


 “その人”は明らかに人間では無かったし、どちらかと言えば人型をした鳥の化物だ。

 それでも精悍で凛々しさすら感じさせる風貌や、こちらを射抜く真摯な眼差しに酷く惹き付けられてしまった。


 ゆっくりと私の身体が降ろされる。

 彼は私の足がきちんと地面に着いたのを確認すると、二メートル以上はありそうな背丈を少しだけ屈ませた。


「聞いても、良いだろうか」

「……な……に……?」

「先程、貴女が言っていた『やらなければならないこと』とは何だ?」


 私は目を瞬かせた後、傍らでこと切れて横たわるイカをちらりと見た。


(さっきって“あれ”に食べられそうになってた時のこと?)


 確かに何やら喚いていた気がする。

 「死にたくない」とか「やらなきゃいけないことがある」とか色々と。

 正直、あの幻聴のせいでやけくそになっていて、何故そんなことを口走ったか自分でもさっぱりだ。


「……分からない。無意識に喋ってたし覚えてないの。でも、生まれたからには何かを成したいんだと思う」

「そうか。――ならば私も仕えよう」


 彼は片膝を付いて恭しくかしずくと、私の掌をそっと掴んで彼自身の胸元へ添えさせる。

 そして、真っ直ぐにこちらを見据えて口を開いた。


「私の名はアエトス。貴女の使命が果たされるその時まで、我が魂にかけて貴女を守り抜くことを誓う」

「へっ!?」


 急速に自分の頬が熱くなるのが分かった。

 おとぎ話に出てくる騎士のような気障な台詞に、相手は鳥であるにも関わらず少しときめいてしまう。

 どう反応するのが正解なのか分からなくて、私は呆然としながら彼――アエトスの視線を受けた。


「あっ、あのっ、私……」


 色々と聞きたいことも言いたいこともあるような気がするけれど、取りあえず一番に言うべきことがある。


「私は、理花です……えっと、さっきは助けてくれてありがとう」

「礼には及ばない、それに貴女のことは以前から知っている」

「え、どうして――――痛っ」


 どうして知っているの?そう聞こうとしたけど無理だった。

 太股に刺激が走って、眉を寄せた次の瞬間、痺れにも似た痛みが波のように襲い掛かったからだ。


(何っ、これ?)


 全身が戦慄く。冗談みたいに手足が震えて止まってくれない。

 風邪で発熱した時のように、熱くて暑くて焼かれそうだ。


【――神経毒だよ。触手に捕まった時に棘から混入したの】


(っ、神経毒?)


【大丈夫、致死量じゃない。これから少し苦しいことになるけど、自力排出してしまえば助かるわ】


「どうした、理花?」


【ごめんね、アタシには何もしてあげられないの……】


 頭が朦朧とする中、あの幻聴がまた聞こえた。可愛らしい口調なのに冷静で、どこか大人びている少女の声だ。

 ぐったりと崩れ落ちた私の身体を支えてくれるアエトスは、鋭い金色の目を見開いてとても動揺しているようだった。


(……そういう顔、するんだ)


 何だか人間みたい、と内心驚きながら私は白濁する意識を手放した。


【おやすみ理花。アタシ達の始まりの場所で逢いましょう】

 

 

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