新しい住人
すみません、この話も長かったです……
グツグツ、コトコト。
私は珍しく朝早くにおき、きちんとした朝食をつくっている。なぜか、と聞かれると昨日拾ったある人のためだ。
「…うーん。お昼は作りおきで我慢してもらって……」
本日、金曜日。今日を乗り越えると三連休が、待っている。そして、私としてはその三連休を使ってアルクさんにこの世界の物の使い方を覚えてもらいたいのだ。
「おはようございます、優奈さん。」
「あ、おはよう、アルクさん」
私が振り返れば昨晩と同じ格好のアルクさんがたっていた。
名前は、見上優奈様から優奈さんに変えてもらった。いつまでもフルネームで様付けはこちらとしても恥ずかしいし、名前を呼ぶときも面倒である。アルクさんは頑なに首を横に振っていたが、なんとか説得した。
「…汚いので着るのをためらったんですけど、本当にいいんですか?」
アルクさんは自分の服の匂いを確かめた。
実はというと、着てほしくないのが本音だけれど変わりの服がないため私は我慢している。なんたって、出会いはゴミ捨て場だ。
「んー、まあ、今日1日だけだし…」
そして、今日の帰りに買ってこようと頭の中に押し込む。
「…すみません。あ、朝食を運びますね。」
アルクさんはキッチンを見て朝食が出来ているのを知ったのか自分のそでをめくってこちらに向かってきた。
歳は、私の2個の上の30らしい。これも昨晩に教えてもらった情報である。
「ありがとう、じゃあこれもよろしくお願いします。」
私は今そそいでいる味噌汁も後で運んでもらう事にしてもらう。
そうして、いつもより丁寧につくった朝食が完成した。白ご飯に、味噌汁、焼き魚に玉子焼。完全なる日本食であった。
「いただきます。」
しばらくして2人はお互い向き合って座った。私の家にはテーブルがないので折りたたみ式の机に朝食を置いた。
アルクさんはとても器用らしく、お箸の使い方も昨晩で習得してしまった。だけど、少し慣れてないのか力んでいるのが見える。そぅっと口に白ご飯を運ぶアルクさん。そして、この世界の味をかみしめるかのようにゆっくりと咀嚼していた。
「…これは、噛めば噛むほど独特な甘みが出てきますね。私の国では似たようなものがあるのですが、これほど奥深いものではありません。」
お茶碗に入った白ご飯をキラキラとした目で見つめるアルクさんは少し子供っぽく見えた。しかし、その前に30歳とは感じられないこの若さ。下手すれば年下に見えても仕方がないくらいだ。
「それは、よかったです。」
私は微笑んで自分の朝食に手をつけた。
……うん、この焼き魚の塩加減完璧ね。
と、心の中で自画自賛してみたり。
「今日のお昼は冷蔵庫に入れてますから。それを温めて食べてくださいね。」
「はい、わかりました。」
アルクさんは食べ終わったのか食器を流しに持って行くため立ち上がった。
まだアルクさんが来てから一日も経ってはいないけど、アルクさんはとてもよく細かいところに気を配ってくれていた。
例えば、さっきのお皿もそうだし、寝るときはちゃんと挨拶してくれた。笑顔で
ちゃんと目をみて話してくれる。
こうして見てみると私より年上なのもうなずける。もし私がトリップしてしまったら、緊張しすぎて目も合わせていられないかもしれない。
「あ、温め方教えないとね。」
食器を片づけてメイクをしたあと、思い出したようにアルクさんにレンジの使い方を教えた。
そうしたら、あとはなんとかいけるだろう。
「それじゃあ行ってきます。」
お気に入りのパンプスを履いて玄関のドアノブをひねった。
「はい、いってらっしゃいませ。お気をつけて。」
私は、誰かに見送られるのをすごく懐かしく感じて少し胸が熱くなった。アルクさんの表情が少し柔らかくなり、微笑んでくれる。
これから、少しの間見送ってくれる人がいる。そう思うと私は何だか頑張れるような気がした。