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やってきた人

ながーくなります。こんなに長くなるのは最初で最後かな……と。

ガチャン。

と、私は鍵をひねりドアを開けた。


「……えぇと、靴を脱いで上がってもらえます?」


外国人ならば靴は脱ぐ習慣がないだろうと思い声をかける。

それが効いたのかどうかは知らないが、外人さんは丁寧に靴を脱いで端っこに揃えた。


「…寒かったですよね、温かいの用意しますから。」

「…ご迷惑をおかけします。」


まだかすれている声で、お礼を言う。


「あの、お名前を伺ってもよろしいでしょうか??」


お湯を沸かしていた私はキッチンから少し出て外人さんを見た。

……こうしてみると、外人さんは私より15㎝ぐらい高かった。そして、どこかの国の軍人みたいな服をきていて、腰には日本では見ない剣が刺さっていた。


「…見上優奈です。」

「見上優奈様、このご恩決して忘れません。」

「……え、ちょっと、やめてくださいよ!!」


まるで、昔の外国の人みたいに膝をおって胸に手をあててお礼をいう外人さんに慌てて体を起こさせた。

確かに、誰かも名前もわからない人を簡単に入れるなど他の人はしないだろう。常識に考えて、そんなことは絶対にしない。けれど、ほっておけない何かがあるような気がしたのだ。…気のせいかもしれないけれど。


──


温かいお茶と少し賞味期間が昨日のうどんを用意した。……いや、晩ご飯にも食べようとしてたのが見たからであって…。うん、お腹は壊さないからいけるよね。決してわざとではない。


お茶を一気に飲み干した外人さんは空のコップを机において、しばらくしてから首をひねった。


「…これは、何ですか?」


指を指したのは湯気が立つうどんだった。


「えっと、ジャパニーズ、パスタ??っていうのかな?……うどんって、言うの。」

「……うどん…」


つぶやいた後食べようとしてお箸の方を見た。


「これは?」

「それは、お箸、といって食べる時に使うの。」


私は「こうやって使うの」と、自分でやってみせた。外人さんだからもてないのも無理はない。そう思い、お箸からフォークに変えてあげる。すると、フォークを使って食べ始めた。


─数十分後。

汁まで飲み干した外人さんは「ありがとうございました。」と律儀にお辞儀した。

食べ終わった食器を流しに持って行くと私は外人さんの目の前にすわった。


「…あの、お名前を伺っても?」


名前に関して私は答えても相手の方は聞いてなかった。すると、外人さんはハッとなり背筋を伸ばした。


「申し訳ありません。申し遅れましたが、アルクワス・サルファイドと申します。」

「あ、あるくわす…さる…??んん?」

「…アルク、とお呼びください。」

「そ、そう?じゃあ、アルクさん。」


アルクさんは、「はい」と笑顔で返事さした。


「何故、あのところに倒れていたのですか?どちらからこられたのでしょう?」


アルクさんは私の問いかけに、少し考える素振りを見せた。


「……実は、私にもわからないのです。」

「わからない?」


酔っていたのかなと考えるが、それにしてはお酒の匂いもしない。


「はい、私は戦争で戦っておりました。魔法であらゆるものを防いでいましたが、ある時何か落とし穴のようなものに落ちてしまいまして、それで…」


だんだん声が小さくなっていくのがわかった。

どうやら、本当に気づいたらゴミ捨て場で倒れていたらしい。気づいたのが夜でよかった。朝見つかったらすぐに警察行きだ。


と、安堵のため息をついたのもつかの間。アルクさんの言葉に私は引っかかった。


「……魔法?」


いやいや、まって。この現代に魔法があるはずがない。そんなもの、漫画とかゲームの世界にしか有り得ない。


「……魔法っていった?」


私が聞き直すとアルクさんは当然のように頷いた。

───いやいやいやいやいや。そんなもの、あるわけ……


「…どこから、きたんですか?」

「パウチャード王国です。」

「………っっ!!」


一瞬、気が飛びそうになった。パウチャード王国なんて生まれて一度も聞いたことがない。


これはいわゆる、逆トリップ……


うわぁ、本当あるんだ。本物だよ。


「…あの、一体どうしたのですか?」


ころころと表情をかえる私にアルクさんが心配そうに、訪ねてきた。

さて、この状況をどう説明したらいいのやら。


「…アルクさん。」


私は、決意して話を切り出す。


「日本、またはジャパンという国は聞いたことがありますか?」

「…いいえ、そのような名前の国は聞き覚えがありません。」


やはりか、私は思わず頭を抱えた。


「…えぇと、単刀直入にいいます。ここはあなたの世界ではありません。パウチャード王国という国はこの世界には存在しないんです。」

「……そん、ざい、しない……」


アルクさんも息を飲むのがわかった。綺麗な喉仏が動く。アクアグリーンの透き通るような色の瞳が揺れた。


「…確かに、私の国には“お箸”や“うどん”は存在しません。」


声色が少し暗いように感じた。


「それに、ここにはみたことがないような物が沢山あるのです。」


まるで、目の前の現実を受け入れるかのように目を閉じた。その間私はじっとアルクさんを見つめた。


「…お願いがございます。」

「…っはい。」


アルクさんは私のそばによって腰を下げ片足を曲げる。名前を聞いてきたときと同じポーズだった。


「…私をここに置いて頂けないでしょうか。」


まぁ、予想はしていた。でも、アルクさんにとってこの世界には誰一人知っている人がいないのだ。頼れるのも助けてあげた私ぐらいなのだ。


「…あの、私の仕事があったり、とか家事とか、色々手伝ってもらいますけど。それでいいのなら…」

「本当にですか!?ありがとうございます!このご恩は決して忘れはしません。この、アルク・サルファイドに何なりとお申し付けください。」

「ちょっ、そんなにかしこまらないで……!!」


このときの私の声はほぼ悲鳴に近かったと思う。周りには誰もいないとは言えこれほど恥ずかしい思いをしたのはいつぶりであろう。


「…ですが、私の命を助けていただいたのです。」

「へ?あ、うん、いや、そうなんだけど!」

「…なにか、気に触るようなことでもしたでしょうか?」

「はい!?ち、違うって!あ──もうっ……!」


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