しばらくして
そもそも、異世界だなんて小説ぐらいにしかないと思っていた。小説で平凡な主人公がいきなりすごい人になっちゃって、世界を救う、とか。
私は中学生のころそれに凄くはまったものだ。
「…………はぁ。」
家族はもういないし、親戚も遠いから疎遠だし、私がいなくなっても大丈夫だとおもう。けど、ここには私の友達はいる。
「ゆーうーなー!!!」
「───わっ、あれ、早百合なんでここに?」
「お昼だよ!お・ひ・る!」
はっとなって時計をみると12時をすぎたところだった。
あれ、今日どうやって会社にきたっけ。最近はそんなのばっかりだった。
「あぁ、今いくね。」
私は、アルク特製のお弁当を持って食堂に向かった。
「ねぇ、今日飲まない?」
そう、声をかけてきたのは仕事がおわった早百合だった。いつもより剣幕な雰囲気を漂わせて。
「……………うん。」
いつもだったら断った誘いだが、今日は断れなかった。早百合が怖いっていうのもあるけど、大半は家に帰りたくないからだった。告白されて気まずい空間にいるのは耐えられない。まだ、別々に住んでいるならまだしも、一緒に住んでいる身である。
「話、聞いてほしい。」
「だとおもった。」
早百合は「行くよ」といって私を会社から連れ出す。私は、それに続くだけだった。
「………………………まじで?」
ビールの泡を口につけて目が点になっているのは私の友達早百合である。
さっき、異世界からきた人を保護して一緒に住んでいると言い終えたところだった。
「うん、本当。」
実はというと、早百合だにでも言いたかった。ちゃんと報告して、相談にものってほしかった。けれど、きっと信じてもらえないと思い込んでいた。
「なーるほどね、だから”お弁当“か。」
「お弁当作ってなかったもんね。」
料理はそんな得意ではない。簡単なものは作れるけど。
「優奈はその人のこと好きなの?」
「うん、好き。」
「なんで伝えないの。」
「だって………」
「だって、どうせ“居なくなる人”だから想いを伝えなかった??」
「ちがっ……」
早百合の言葉に叫びそうになるも、本当の事だったから黙った。
そう、私は弱いの。弱いから、言えないの。口に出したら、想いが溢れそうで。
ガヤガヤと賑やかな居酒屋で私と早百合の周りは静かだった。
「私は、優奈がいなくなるのさみしいよ。さみしいし、辛いよ。」
早百合はビールを数口飲んだ。
「さみしいけど、優奈が後悔する姿を見る方がもっと辛い。」
「早百合……」
「決めるのは優奈自身よ。」
そう、決めゼリフを言って私の髪をくしゃくしゃにした。早百合が私によくやる恥ずかしがっている癖だ。私に顔を見せないようにわざと髪を崩すのだ。
「早百合、ありがとう。」
覚悟はまだ決まらないかもしれない。けど、心がずっと軽くなった。
なんでもっと早くに相談しなかったんだろう。アルクとの話をしていたら。まぁ、今更過去を振り返ったってしょうがない。
私の口元には笑顔があった。
ありがとう。
早百合に頭をくしゃくしゃにされながら、笑い、そして目からは涙が止まらなかった。




