あなたに捧ぐ愛の歌
秋の夕暮れに女は枯れ葉が作った色彩豊かな道を進んだ。
右手に公園で遊ぶ子供達が見える。
歩くたびに小さな音がする。
その音はなんとも心地良いものだ。
あまりのも静かな道沿いで音声が聞こえる。
ラジオから流れているのはなんともこの雰囲気にあった音楽だ。
ラジオを聴いているのは木製のベンチに座った男だった。
灰色のスーツに灰色の円形の帽子を被っている。
女は男の隣に座った。
「どうも。」
男は笑顔で挨拶した。
「こんにちは、良い音楽ですね。」
女は笑顔で答えた。
「えぇ、私の一番好きな音楽です。」
男と女は枯れ葉が舞い落ちる公園のベンチでしばらくラジオから流れる音楽を聴いていた。
目をつむれば指揮者が目の前で大きな音楽隊の指揮をとっている光景が目にうかぶ。
ほどなくして音楽は終った。
しばらく乾いた秋風が通り過ぎるのを肌で感じていた。
「それでは、私はこれで。」
男は女の前に立つと帽子を取って会釈した。
「さようなら。」
「さようなら。」
お互いが頭を下げながらいった。
何故だろう。
「さようなら」という言葉が妙に寂しく聞こえた。
女は男の背中を眺めていた。
その背中が寂しく見える。
女はしばらくして立ち上がった。
そして家路にむかって足を運んだ。
翌日も同じ道を歩いた。
すると昨日とは違う音が聞こえる。
そちらに目を向けると昨日の男が座っていた。
女は男の方へ歩いていった。
「また、会いましたね。」
女は笑顔でいった。
「奇遇ですね、こんにちは。」
男は立ち上がって笑顔で頭を下げながら言った。
「こんいちは。」
女も同じように返した。
そして男の隣に座って昨日とは違う音楽が流れるラジオに耳をよせた。
「この曲は、小学校の卒業の時に演奏した曲なんです。」
「そうなんですか。」
男は懐かしいといった感じで音を聞いていた。
それから、毎日のように男と女は同じ時間に公園で音楽を聴いた。
毎日同じ時間に、同じ場所で。
一日もかかすことなくその場所には一人の女と一人の男が座っている。
「お仕事は何をなされているのですか?」
女は男に尋ねた。
今日はバッハの音楽が流れている。
「私はホテルで支配人をしています。
いつもこの時間は暇ができるんですよ。
アナタは?」
「私は歌をうたっています。」
女は恥ずかしそうに言った。
赤面して下を向く。
「それはすばらしいお仕事だ。」
男は笑顔で言った。
「でも、まだまだです。」
「今度、お聞かせ願いますかな?」
「私などの歌で良いなら・・・。」
女は恥ずかしそうに言った。
「楽しみにしていますよ。」
男はそう云うと立ち上がった。
「それではこれで。」
「さようなら。」
「さようなら。」
いつものようにそう言葉を交わした。
また明日、そう思って。
翌日から男は公園にこなくなった。
女は最初は都合が悪くなったのだろうと思った。
しかし、そんな日が続くと不安になってくる。
来る日も来る日も。
女は公園のベンチで男を待った。
しかし、男が現れることはなかった。
男の死を知ったのは、男が来なくなってから実に2ヶ月の時間が過ぎてからだった。
あの日、さようならと云ったその帰り道に、事故で怪我をしていたのだそうだ。
それから病院で意識不明の状態が続いた。
そして、ついに先日。
その息を引き取ったのだった。
女は体中の力が抜けた。
流れ出る涙は乾いた部屋の床を濡らしていく。
電話を持つ手に力が入らず。
電話は床に落ちた。
訃報を知らせてくれたのは男の母親だった。
事故にあったその日。
意識がもうろうとしている中、男は言ったそうだ。
「あの人の歌は、どこまで届くのだろうか、
もし、天国にいっても、あの人の歌は聞こえるだろうか。」
女は自分の無知さに劣等感をいだいた。
何故、男の事故を知らないままだったのか。
何故、自分は待っているしかできなかったのか。
何故・・・・自分はこんなに悲しい思いをしなければならないのか。
涙の池に写る自分の姿を見て女は気づいた。
「そうか、私はあの人のことが好きだったのか。」
聞いてもらいたい。
好きなあの人に。
私の歌を。
みさなんこんにちわMr.Jです
今回は初の試みで恋物語IN短編集でがんばってみました
色々見苦しい点も多々存在したハハズですが
いかがだったでしょうか?
こんな恋をしてみたいと思われたでしょうか?
まぁ結果的に言えば失恋話なのでそれはないですね
^^;
感想など、お待ちしておりますm(__)m
ps.この話は連載中小説
「Execution」に続きます
もしよろしければそちらもご覧くださいm(__)m