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冬に死ぬ蛍のお話 ‐壱‐

作者: 月々


無駄だったかもしれない。無意味だったかもしれない。でも決して無価値ではなかった。


我輩は冬蛍である。冬の季節になると生まれる蛍として、そう名づけられた。今となってはもう誰にそう呼ばれ始めたのかでさえ実に朧げだ。


我輩には本当の意味での死という概念はない。否、正確には死んで、生まれ、死んでを繰り返している身であるが故、そのように思うのだ。その点だけを踏まえるならば水辺を無邪気に飛び回る妖精たちと我輩は何ら変らないだろう。



しかし我輩に妖力はなく、霊力はなく、神力はない。


何の力も持たないただの蛍である。だからか、妖怪なのか、亡霊なのか、傍または神なのかでさえ定かではない。おそらくただの虫なのだろう。



そして、不可解な点がもう一つある。我輩には決められた生誕場所がない。毎回違う土地にて生まれ、次もまた違う土地で目を覚ます。


何の為に生まれたのかも明らかではなく、誰に産み落とされたわけでもなく。当たり前のように、それが自然の摂理のように。気付いたら大地を踏み空を見上げていた。







冬に死ぬ蛍のお話し ‐壱‐







死期が近い。漠然とそう感じたのは冬の終わりを悟ったからである。冬の間しか生きられぬ身。冬が終われば我輩の命も朽ちるだろう。我輩は自身の死期を悟り、宛ても無く死に場所を探しフラフラ飛んでいると。


ふと獣道で立ち往生している若い男が目に入った。その男が溜息混じりに呟いた言葉を聞けば。病にかかった父を治す為の万能薬を探しているが一向に見つからないとのこと。先祖が残した地図があったが、役に立たないだの。男は口々に誰に言うでもなく愚痴を吐いていた。そしてそうこうしている内に日が暮れ、夜になってしまった。周りは暗く、右も左もわからない始末。


なるほど。我輩は男の頭上まで行き、残り少ない命を振り絞り照らしてやる。男は何事かと上に居る我輩を見やる。そして笑って我輩に言うた。



「季節はずれの蛍よ。そなたがこの暗き道を照らしてくれるというのか?」


我輩は男の問いに応答するように点滅した。どうせ残り少ない命だ。親を思う男の助けになるのもまた一興。我輩は快くその男の足元を照らしてやろう。





「おお! おお! あったぞ! あったぞッ!」



数刻も経たない内にその万能薬とやらが見つかり、男は手放しで喜んだ。


男はそなたのおかげだと口々に何度もお礼を言った。我輩は安堵と共にいよいよ自身の寿命が迫ってきているのをひしひしと感じつつ、一刻も早く父にこの薬をと去っていく男を見送る。



嗚呼、よかった。よかった。どうやら我輩は役に立てたようである。これで心置きなく逝けるというものだ。さて、また旅立つとしよう。目覚めるのはまた冬の季節だろうが。




はて、次はどんな地だろうか。



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