神。それは創造の果てに
初のオリジナル作品です。
やはり難しいですね(汗)
神様という誰もが知っていて、でも心からは信じていない人が多い存在。
そんなファンタジーなお話です。
気軽に読んでいただけると幸いです。
では、どうぞ
神。それは創造の果てに
彼女は信じていた。神という存在を。
彼女は信じていた。神という存在が宇宙空間を創り出したと。
彼女は信じていた。神という存在が生物を創り出したと。
彼女は信じていた。神という存在が私を創り出したのだと。
この十六年間信じ続けてきた。
「神様はいるんだよ!」
そう肯定するのは黒い髪をショートカットに切りそろえた少女とも女性ともとれる微妙な年頃の高校生。イリシア・ルゥ・イース。
「いや、いないって」
イリシアが語る真実を無残にも一刀両断するのはイリシアと同じ高校に通うアエラ・バル・カルロ。こちらは身長も高く妙に大人げていて、高校生にはまず見られない。
朝早くの時折吹く風が冷たい冬の登校風景。二人で同じ制服を着て、いつもと変わらない、道を歩いて、イリシアの隣にはいつもアエラがいて。小さい時から変わらない。何の変哲もない。
イリシアは今の生活に満足していたし、変わらず隣に居続けてくれて、時々きつい突っ込みを入れるアエラが大好きだ。
しかし、彼女にとって不満なことが一つだけあった。
「神様が私たちを創ったんだよ」
アエラを含め、学校の友達が誰一人として肯定してくれる人がいないこと。
この国はあまり宗教とうものに拘束されていないので、神様という存在も信じている人はごくわずかだ。
イリシアの場合それとはまた違う意味で神様を信じているのだが。
「神様ってのは、人々が求めたすがる対象。実際に存在するはずないでしょ?」
ピシャリとアエラに切り捨てられたイリシア。しかし、そこでへこたれるイリシアではなかった。
「でも、」
「おっはよ!またイリシアの神様論始まったの?」
アエラに反論しようとしたところちょうど良いタイミングでリリスに介入された。
「だーかーらー、いるんだって」
「はいはい。ところで、今日の課題やった?」
リリスの呆れ声の次に出てきた言葉は、イリシアが最もおそれた単語だった。
「・・・忘れた。からいいや」
からっとした笑顔で堂々と言い切るイリシア。
「おい」
イリシアの潔すぎる開き直りっぷりにずっこけてアエラは突っ込みをいれる。
べしっ!と頭を叩かれたイリシアは、ぶった!親 にもぶたれたことないのに!
とお決まりのセリフを吐いていた。
ーーーーーーーーー。
イリシア・ルゥ・イースは俗にいう「天然」と呼ばれる人である。
そんなイリシアだから神様はいると熱弁しても誰も聞き入れてくれないのである。
彼女がこれ程までに神の存在を信じる理由。
それはただ、この世界に不思議なことが多いから。イリシアが無邪気で天然故の理由なのかもしれない。
まるで小さい子どもがサンタクロースを信じるようにイリシアは神様を信じて来た。
だが、イリシアの親友であり、幼馴染のアエラは神様のことを話しているときのイリシアが一番楽しそうなのを知っているから、笑い飛ばすようなことは決してしない。
アエラはそんなイリシアの楽しそうに話している姿を見るのが好きなのだ。
しかし、神という存在は信じている者を助けてくれるという保証は無く。
「イリシア・ルゥ・イース!お前、忘れたなら学校で急いでやるぐらいの素振りをみせろ!まったく手をつけていないとは、どういうことだ!?」
イリシアたちの担任である、ニック・ハイドフェルト先生がイリシアに向かって怒声を吐いた。
本当にイリシアはあの後何もせず、神様論を語っていたのである。
その後の授業でハイドフェルト先生が自分が一週間前に出した課題を、白紙のまま、しかも悪びれもなく提出するイリシアを怒らない筈がなかった。
イリシアはハイドフェルト先生に放課後職員室に呼び出されたのである。
「すみません」
あれ程からっとした声でやらないと言ったイリシアも、叱られた手前反省の色をみせないわけにもいかず、しゅんとした態度を見せる。
「まったくいつまでも神様なんか信じてるからだ。高校生なんだからいい加減大人になって、課題くらい真面目n・・・」
先生の言い分も分かる。課題をやらなかったイリシアがそもそも悪いのであって、注意した先生は先生の職務を真っ当したのだ。文句を言われる理由は無い。
だがイリシアに神様なんかはまずかった。
「神様なんかじゃありません!神様はいるんです!」
先生を覇気だけで黙らせる程にイリシアを怒らせる原因となり得るから。
イリシア激怒ぶりにハイドフェルト先生は硬直した。言葉こそ、そこまで恐れを抱くものではないが、その言葉にまとわりついている覇気が、先生に恐怖という感情をいだかせていた。
ハイドフェルト先生は他の先生の注目を浴びていることに気がつき、自分の意識へと戻って来るまでだいぶ時間がかかった。
「分かった。お前の神様論は分かった。だが、課題は、やってこい。明日までだ」
イリシアの怒りに蹴落とされながらもハイドフェルト先生は最後までイリシアへの説教を終わらせた。
なんというか、ご苦労な先生である。神様のことをちょっと侮辱しただけでこれである。
この時ハイドフェルト先生含め、これを見ていた他の先生は理解した。イリシアの前で神様の話題を出すことは止めようと。
良かれ悪かれイリシアに捕まる。
「アエラ~。先生が神様いないって言ったぁ!」
説教が終わり先生から開放されたイリシアは真っ先にアエラのもとに飛びつきにいった。
正確にいえば、先生は神の存在を否定したわけではないのだが、イリシアの脳内ではそう変換されてしまったらしい。
「はいはい。・・・先生も災難だな」
最後の方はボソッと言ったためイリシアの耳には届かなかった。
イリシアはアエラに軽くあしらわれたのが気に食わなかったらしくリリスにも同じセリフを繰り返していた。
しかし、やはり反応はリリスもアエラと同じで実に素っ気なかった。
神様はいるのに・・・
しかしこんな扱いは長年のことで慣れているし、天然と称されるイリシアだ。そんなことを気にする筈もない。
イリシアの場合、周りの人が神様を信じてくれなくても構わない。
誰かが信じなければ神様がいなくなるわけでもないし、何より自分自身が信じているからそれでいい。
「アエラ、帰ろ~」
イリシアはリリスと話し込んでいたアエラの制服を引っ張って催促する。
「まったく、お前はいつでも Going My Wayだな」
やれやれといった表情でアエラはリリスに手を振った。
「何で?」
イリシアは首をかしげる。アエラはそんなイリシアを見て、ただ何でもない。と言って鞄を持ったのだった。
ーーーーーーーーー
本当は真っ直ぐ家に帰るつもりだった。そのまま今日出された宿題を片付けるつもりだった。
だがいつも通りイリシアのわがままに付き合わされて、こうして帰路につく時には辺りはもう真っ暗になっていた。
「あ、アエラ!流れ星!」
見上げればそこにあったのは、一面の星空。
イリシアはそんな空を指差しながら言った。しかし、アエラが首を上げて空を見る頃には流れ星はもうすでにそこにはいない。
「ほら~。アエラが直ぐに見ないから」
イリシアは不機嫌そうに頬っぺたをぷぅと膨らませる。
アエラはそんなイリシアをなだめながらもう一度真っ暗な空を見上げた。
「イリシア、ほら」
アエラはまだ拗ねているイリシアの肩を数回叩いてから空を指差した。
「うわぁ・・・」
イリシアが感嘆の声をあげる。
そこにあったのは、漆黒の夜空に輝き無数に流れては果ての方に消えていく星々であった。
その数は寒い冬の夜空を埋め尽くしてもなお、足りないようであった。
その光景に二人は言葉を失い、息をするのも忘れる勢いで魅了されていた。
「アエラ!お願い事!お願い事しないと!」
イリシアはふと思い出したように焦って言った。
「ああ、そっか。流れ星というのは、そういうものだったな」
アエラが感心しながら返答を述べる頃には、イリシアはもう手を組み、その上に頭を垂れて目を閉じていた。
アエラはその様子に少々呆れ顔を浮かべながらも、自分もちゃっかりお願い事を夜空を駆ける星々に願うのであった。
ーーーーーーーーーーー。
大量の流れ星を見た次の日も変わらずイリシアとアエラは寒い通学路を歩いていた。
吐いた息が白く大気を舞う。もう少しで雪が降ってきそうな。そんな天気だった。
「うわぁ・・・寒いねぇ」
ポッケに手を突っ込んだまま首をすくめてイリシアは言った。
「結局、昨日は何をお願いしたんだ?」
アエラもイリシアと同じような格好だった。
「内緒!教えたら意味ないでしょ?」
「私にも?」
「アエラにも!」
イリシアは断固として譲らなかった。かくゆうアエラも何を願ったかイリシアに言っていないのだが。
イリシアは流れ星に願い事をした時、その願い事は星たちが神様のもとまで運んでくれると思っている。
よく人に願い事を話すとその願い事が叶わない。なんてシチュエーションはよくある。
イリシアはそれが怖いというわけではない。ただ、星たちが一生懸命に願い事を届けようとしてくれているのを人に話すことによって何らかの支障が出てはいけないと思っているだけなのだ。
ただ、アエラもそんなイリシアから無理矢理聞き出そうなんてことはしない。
アエラはイリシアがそんなことをされるのを一番嫌うことを知っているから。
「叶うといいな」
珍しくアエラがそんなことを言った。神様とか願い事とかまったく信じないアエラが。
「珍しいね。アエラがそんな事言うなんて・・・」
イリシアは素っ頓狂な顔をしていた。いつものアエラなら、くだらないとか、ありえないとか言うところなのに。
今日は否定しないで、しかも笑顔でそんなことを言ったアエラがイリシアにはとても新鮮だった。
「ばっ!違っ!ただ、私もたまにはそういうのもいいかなと思っただけだ!い、行くぞ!遅刻する」
照れ隠しなのだろう。とイリシアは思った。
それはマフラーで隠されきれてない耳が真っ赤に染まっているのを見てしまったからだ。
それにまだ時計は午前七時半を刺していた。まだ登校時間まで十分ある。
イリシア笑いをこらえること出来ずに、ただ大笑いするとアエラに怒られそうなので、静かに笑みをもらした。
ーーーーーーーーーー。
「昨日の流れ星見た!?」
机をバンッ!と勢いよく叩いているのは、いつかの朝と同じリリスだ。
やはり女という性別は願い事や占いとかが好きなようで、いつもは神を信じていない人でも、こういう時だけ神頼みをする。
多分、こういう人の望みを神は叶えないだろう。都合のいい時だけ神頼み。それは何とも神様が可哀想だ。
ただ、いつも信じているものの願い事を叶えるということはないのだが。
ただ、今回の。流れ星の願い事は何かいつもとは違うような気がしていた。
ーーーーーーーーーーー。
「イリシア。そういえば、この間探していた本、見つかったのか?」
アエラにそう聞かれたのは昼食を取り終わって残りの昼休みを過ごしていた時だった。
イリシアは一週間前に大切な本を無くした。お父さんからもらった本。単身赴任でなかなか家に帰って来ないお父さんが寂しくないようにってくれた。神様の出てくるお話。
イリシアの宝物。
それが一週間前にどこかにいってしまった。別にどこかに置きっぱなしにしたわけではない。
大切に本棚にいれて置いた。それがある朝起きたら、無くなっていたのだ。
それが何故なのか。それはイリシアには分からない。
ただ、イリシアは大切な本がない。今あるべきはずの場所に父から貰った大切な本がない。
それがイリシアにとっては、最重要事項だった。
その日イリシアは学校を休んだ。お母さんには適当に頭が痛いと言った。
お母さんは心配していたが、イリシアは適当な言い訳をして部屋から追い出した。
今はただ大切な本を探すことが先決だった。
イリシアはその日の全てを本探しにあてた。
だけど見つけられなかった。あの本はどこにもなかった。
イリシアはあの日宝物を失った。
だからイリシアは流れ星に、神様に願った。あの本を見つけ出して欲しいと。
アエラがそのことを聞いたのは単なる偶然だろう。
やはり一昼夜では願い事は叶わないということなのだろうか。それとも、いつもの様に神様は願いを聞き届けてくれないのか。
「ううん、まだ。本当にどこにいっちゃったんだろう・・・」
「まぁ、そんなに落ち込むことないさ。そのうち見つかるよ。大丈夫。探し物は意外と近くにあるものだよ」
アエラが言ったことはただ単に励ましだったのだろう。目の前にいる困っている友達に対して。
だが、それは単なる言葉ではなく事実へと変わった。
「何だろこれ?机の中に何か入ってて、教科書が入らない」
そう思ってイリシアは机の中に手を入れた。そして、机の中に奇跡はあった。
「あった・・・」
「何が?」
「本」
机の中にあったのはイリシアが父から貰ったあの本だった。
「よかったじゃん」
「もしかして、流れ星にお願いした!?流石はイリシア。いつも神様を信じているからかなぁ・・・」
アエラは安堵の笑みを浮かべ、リリスはブツブツ言っている。
イリシアとしては何がどうなっているのか分からなかった。
なぜ家の本棚にあった本がいきなり今日学校の机の中から出てくるのか。昨日までなかったはずなのに。
基本流れ星に願いを叶えてもらうには一個の星につき三回願い事を唱えなくてはならない。
イリシアには一個願うのが限界だった。つまり、この願いが叶うということは、イリシアの願いが神様に届いたということになるだろうか。
イリシアはもう一度机の中を確認した。
イリシアはほんの少し、
机の中に何かを期待していた。
何でもいい。何かがいつもと違えばいいい。それだけで自分は神様という存在をより一層信じるかてとなるのだから。
しかしそこにあったのは、いつも通り少し通り乱雑に入っている教科書やノートだけだった。
「もしかしたら、神様か?」
アエラがそんなことを言った。
やはりイリシアは今日のアエラは可笑しいと思った。
いつもなら笑い飛ばす神様を今日はよく肯定する。
それが何故なのかはイリシアは分からない。
それに本当に神様が本を見つけてくれたのかは分からない。
神様が実在しているのかと言われれば、イリシアはいると肯定するが、それは確信が持てるのかと問われれば、イリシアは自信をもって肯定することは出来ない。
ただ、イリシアの考える神様とは不思議な存在。不思議なことが起こるのは神様の悪戯。
神様は人に創造された存在。
ただただ、不思議な存在。
「神様だよ。流れ星と神様が私の願いを叶えてくれたんだ。もしかしたら、本を隠したのは神様の悪戯だったのかもね」
イリシアがそう言ったとき、さぁっと風がそこにいた三人の少女たちの頬を、優しく撫でて通り過ぎていった。
これは神様を心から信じていた少女の物語。
あなたも神様という存在を心から信じれば、何か不思議な事が起こるかもしれません・・・
いかがだったでしょうか?
神様という存在。信じたくなりました?