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「では、クルフェさんはその方に命を救われたのですね。」
「はい。」
クルフェはシルディーと話に花を咲かせていた。普段あまり人と打ち解けないクルフェにとって、これだけ話せる相手というのはとても珍しい。
「シーアに出会い、あの方のような立派な医師になりたいと思いまして医学をあの方の元で学んだのです。私にとって、シーアは師として何よりも大切な方です。」
子供のように目を輝かせ、幸せそうに語り終えるクルフェをシルディーは穏やかに見つめた。
「・・・やはり、貴方は私の元にいらっしゃる方ではありませんわね。」
突然の言葉にクルフェの表情が驚きに彩られる。その様子にくすりと笑い、シルディーは言葉を続けた。
「貴方は心にもう他の方を住まわせていらっしゃいますもの。」
「シルディー嬢・・・?」
「貴方の瞳は確かに私を見ていらっしゃるけれど、心は他の方へ向けられていらっしゃいます。私は貴方の想い人に似ていますか?」
「シ、シルディー殿!?」
真っ赤になったクルフェをシルディーは面白そうに見つめた。
「似ているのでしょう?私、こう見えても結構聡いんです。上手くいくと良いですね、そのお師匠様と。」
さらに真っ赤になったクルフェを残し、シルディーは椅子から立ち上がる。
「お父様には私の方からお断りしたと伝えておきます。」
笑顔でそう言ってシルディーは自分の机の引き出しから一つの石のついた鎖を取り出し、クルフェに手渡した。
「これをお持ちになってください。」
「これは・・・?」
「恋のお守りです。意中の方に送って差し上げてください。」
トマト以上に顔を赤くしたクルフェに無理に鎖を押し付けると、追い出すようにぐいぐいと部屋から連れ出す。
「また遊びにいらしてくださいな。今度はカティンさんもご一緒に。」
「は、はい。」
ギクシャクとした動作で頷くクルフェにくすりと笑い、シルディーは一礼した。
「では、また。」
パタンと扉を閉め、シルディーは人の気配が遠ざかるのを静かに待った。しばらくして、クルフェがその場を立ち去ったのを確認し、そっと苦笑を漏らす。
「(いい方でしたが、縁がありませんでしたね。)」
器量も悪くないし、何より実直で穏やかな気性のクルフェをシルディーはすぐに気に入った。しかし、あれだけ一途に一人を想っている相手を自分の我侭に付き合わせるのは気がひけたのだ。上手くいって欲しいと思う。あれだけ純粋な想いを長年保ち続けているのだから。