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第8話 莉乃の裏アカウント

「ふむ、なるほど」


 莉乃をネットストーキングもとい観察し始めて数日。

 彼女の行動パターンが大体わかって来た。


「カグツチ弐型の訓練と、学園の授業以外はほぼ自室に籠っており、買い物もネット経由か」


 さすがに、以前のア○ゾンほど物流はきめ細やかじゃないので食料や日用品は近くのスーパーで買っているようだが。


「典型的な電脳少女だな」


『カゲ』というネームを使ったメインアカウントのほかに、国内外の主要SNSに数十に及ぶ裏垢を持ち、匿名性の高い通信アプリを使っているようだ。

 彼女の私室には、今や高根の花となった数台の高性能サーバー。

 ……これだけ揃えるのは、児童福祉施設出身の学生には不可能なのでは?

 プローバーの攻撃前に買ったのだろうか……更なる調査を進めた俺は、衝撃の事実を発見する。


「マ、マジかよ……」


 仮想通貨のマイニングに、独自開発のAIを使ったネットオークションでの転売。

 それだけではなく、ダークウェブに入り浸り企業のブラックな機密情報と引き換えにインサイダー情報を手に入れ、投資を行う。


「ガチ犯罪じゃねーか」


 前者はともかく、後者は両手が後ろに回るヤツである。

 それぞれ、全く別の人間のアカウントを乗っ取り、本人にはバレないように運用しているみたいだが……。


「これは思った以上に手強いか?」


 莉乃がパイロット候補に応募したのはカグツチ弐型などの機密情報を手に入れる為?

 博士が開発したオムニゲート機関や決戦兵器の情報を欲しがる輩は多いだろう。


「とはいえ、やけに危ない橋を渡るんだな」


 オムニゲート機関やカグツチ弐型の情報は、ガチの国家機密でありそれを狙うのも他国の情報機関やテロリストたちである。

(皮肉なことに博士が生み出した防壁のお陰で少し余裕の出た人類は、国家間の揉め事が増えているらしい)

 ネットやITに精通しているとはいえ、一介の女子高校生が手を出していい世界とは思えなかったが……。


「もう少し調べてみるか」


 何しろ、俺はスーパーコンピューターを遥かに超える演算能力を持つ制御コア様である。(自分で言って恥ずかしくなった)

 俺は莉乃が使用している通信アプリや回線の情報を博士に送信すると、彼女の裏垢調査に着手するのだった。



 ***  ***


「ほほ~」


 1時間ほど経っただろうか。

 一通り莉乃の裏垢を調べ終えた俺は、大きくため息をついた。


「莉乃の目的が分かった」


 殆どの裏垢は、捨て垢だったり成りすまし垢だったのだが、いにしえの匿名SNS、今や使う人間がほとんどおらずネットの片隅で忘れられていたソイツの最奥で、

 彼女のガチ裏アカウントを発見することが出来た。


『リノの夢は、白馬の王子様に出会うこと! キラキラ輝く素敵な王子様が、クソったれな世界に住んでるリノを、白いお馬さんに乗って迎えに来てくれるの!』


 なにこれ可愛いかよ。

 コイツが書かれた日付は、5年ほど前。

 莉乃が児童福祉施設で過ごしていた時期と一致する。


「莉乃が入所していたのは、やべぇ施設だったんだよな~」


 プローバーの攻撃で吹っ飛んだこの施設は、補助金の不正受給に児童に対する虐待、果ては卒業生を水商売へ斡旋する行為まで行っていた。

 2年ほど前、プローバーの攻撃で世の中が崩壊する直前にワイドショーをにぎわせていたことをよく覚えている。


「確か攻撃の直前にガサ入れがあったから、それで莉乃は他の施設に移ったのか」


 そのお陰で莉乃は難を逃れた、というワケである。

 裏アカウントには彼女の日記が保存されており、つい半年ほど前の日付で夢見がちな少女の言葉が並んでいた。


『白馬が欲しいから、葦毛のお馬さんを買ったよ!

○○社の機密情報をハッキングしたんだけど、生体パーツを使った超高性能な義体が開発中なんだって! これを使えば、リノの理想の王子様を作れるかなぁ?』


 ……所々に可愛くない情報があるが、彼女の目的は明確だ。

 お金を貯め、自分にとって理想の王子様を創り出す。

 年相応の?可愛い目的じゃないか……手段は可愛くないけど。


「そういうことなら、彼女の攻略……もとい、心を解きほぐすための作戦は」


 これは美嘉とは異なるアプローチが必要になる。


「こういう時に頼りになるのは……あの人だよな」


 あまり頼りたくはないが、仕方ない。

 俺は博士に秘匿通信を繋ぐのだった。


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