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第26話 礼奈子の超電磁砲(意味深)

「こないだはちょっとだけやりすぎちゃったから、気を付けないとね♡」


(ちょっとじゃねぇ!!)


 博士の指令は、礼奈子を使って他の二人の手綱を握りつつ、『担当』に執着する礼奈子の別人格を俺に依存させること。


『礼奈子君の別人格は、君が現界し、彼女が君と担当は別人物だと認識することで母体と統合されるだろう』


『……つまり?』


『今の礼奈子君は、他の二人とは異なるヤンデレシフトを発生可能だと考えられる。……ということで、頑張ってくれたまえ!』


『結局いつものヤツうううううっ!!』


 超過勤務はなはだしいが、結局自分の義体と真彩を取り戻すために、俺は頑張るしかないのだ。


『とりあえず、俺に”入れる”のは、攻撃の90秒前。頼むぜ?』


「はぁい」


 この”入れる”とは、礼奈子の担当ダーリンである俺に、注文を入れることだ。

 具体的には高級洋酒をオーダーし、実体のない俺の代わりに礼奈子が飲み干すという流れになる。


(高級洋酒が常備されている決戦兵器のコックピットなんて、聞いた事ないんだが!!)


 礼奈子が座るシートの後ろには小型の冷蔵庫が備え付けられている。

 これがカグツチ弐型参号機の、嫌すぎる必殺技スイッチである。


『目標までの距離、およそ167㎞。超電磁砲バッテリーの充電率78%。そろそろ準備をしてくれたまえ』


『……了解です』


 博士の指示に従い、熱核バーストタービンエンジンの出力を絞り、バッテリーへの充電に回す。

 参号機の過半を占める巨大なバッテリーは過充電状態になると溶解の危険もあり、礼奈子の”スイッチ”を入れるタイミングと合わせてシビアな判断が求められるのだ。


『礼奈子、入店の準備! 10秒前……9、8、7、6、5秒前!』


「ふふ、了解よ」


 冷蔵庫の扉を開け、高級ワインを取り出す礼奈子。

 グラス10万円はする、超ヤバいやつだ。


「これでユージの売り上げランキングも……」


 まだ酒を飲んでいないというのに、礼奈子の瞳が揺れて来た。

 結構怖い。


「トップを目指せるわね!」


 ぽんっとコルクの栓を開け、一気にラッパ飲み。

 情緒のかけらもない飲み方だが、すぐに効果が表れる。


「うふふ、わたくしのユージぃ~」


 礼奈子の相貌がとろんと座り、彼女の別人格が顔を出す。

 既に喪われたであろう、彼女の”担当ダーリン”を探し求める悲しい女の子。


(…………俺もいっしょ、か)


 俺も、最愛の妹である真彩を探し求めている。

 二年前の攻撃で、真彩が消えたところを見ていない。彼女が死者・行方不明者リストに載っていないというだけの薄弱な理由で。

 戸籍ごと消失して存在すら消えた人間は大勢いるというのに。


(支えて、やらないとな)


 彼女の妄執が、いつか現実に溶け消え統合されるまで。

 俺は改めてそのことを心に決める。


「う、ふふふふふふふっ、ユージぃ! いいわぁ! わたくし、シャンパンタワーも追加しちゃう! もちろんツケで!!」


『…………』


 欲望まみれのホスト通いムーブを始めた礼奈子に、さっそく決意が揺らぐが鉄の意思で踏みとどまる。


『そ、それは来月分に回していいから、礼奈子。それより……今日は君と出かけたいな』


「!?!? そ、それって!」


 アフター、同伴……つまり店外でのお付き合いである。


『ああ。このゴキゲンな機体で……大空へと繰り出そう!』


 ゴオオオッ!


 二基の大型熱核バーストタービンエンジンを全開にする。

 加速のためではなく、レールガンの最終充電のためだ。

 電力ゲージが、一気にイエローゾーンへ上昇する。


「ユージと一緒に、蒼空へのドライブ……この振動、さいっこう!!」


 熱核バーストタービンエンジンの咆哮で、ビリビリと揺れるコックピット。

 頬を染めた礼奈子が、シートに座ったまま悩ましく体をよじる。


『ヤンデレシフトを観測! ……この位相角度は、イケるっ!』


 博士の完成が、俺の耳に届いた。

 何がいけるのか分からないが、想定通りらしい。


『礼奈子、超電磁砲展開、発射準備シークエンスを開始しよう。俺と君との、最初の共同作業だ』


「!! っくぅ! ええ!」


 感極まった様子の礼奈子の瞳がうるむ。

 おいこら、涎を垂らすな。


 ピピッ

 ずううううん


 礼奈子がアクティブになった超電磁砲発射シークエンスを進めていく。

 機体の背面に背負った長大な砲身が回転し、参号機の腹部へ移動する。

 そのまま、両腕で抱え込むような姿勢へ……なんだろうこの絵面。


「うふふ、太くて……長ぁい♪ まるでユージの(ピー)」


(セ、セーフっ!!)


 いきなりとんでもないことを口走る礼奈子。慌ててピー音を入れる。

 訓練記録は研究センターの公式情報として十年間保管されるのだ。放送禁止用語を入れたくない。


「バッテリーと超電磁砲を接続ぅ……発射可能まで10カウントぉ」


 熱に浮かされたようにつぶやく礼奈子。

 どこかにトリップしているのは間違いない。


『オムニゲート機関の位相面を三角錐上に展開。強制冷却モード起動』


 参号機に搭載されたオムニゲート機関が位相を発生させる。ソイツを俺は2カ所に分散させた。

 一つは砲身の先端、超電磁砲で加速された砲弾に空間のねじれを纏わせるため。

 もう一つを使い、機体の周囲に猛烈な暴風を発生させる。


 ズゴオオオオオッ


『おっとぉ!』


 コントロールを失いそうになる参号機を、急いで制御する。

 風速数百メートルに及ぶ暴風は、砲弾の発射で加熱した砲身を冷却する為に利用するのだ。


「いいわぁ、このスリル! 高揚!! 発射まであと5カウント!」


 礼奈子のテンションも、さらに上がって来た。

 超電磁砲発射の最終シークエンスへ移行。


『『え、えっと……』』


 壱号機と弐号機には、礼奈子の音声だけが中継されている。

 そりゃ困惑するよな……。


『よし、美嘉君と莉乃君にもヤンデレシフト発生を確認。壱号機と弐号機を所定の位置へ』


『了解です』


 俺は壱号機と弐号機を参号機の左右に展開し、リンク。

 発射の瞬間、参号機の防壁は消失するので、そのカバーと発射の衝撃を抑えるためである。


 ピピピッ


『リンク確立を確認。オムニゲート防壁を参号機の背面に展開』


 ヴンッ


 光の網が、参号機の後方を包み込む。


「超電磁砲への電力伝達を開始ぃ……38㎝徹甲弾の装填を確認んっ」


 礼奈子の両手が踊り、発射準備が完了していく。


「強制排気モード開始、照準固定ぃ!」


 ぴこんっ


 コックピット内のメインコンソールにターゲットマーカーが出現し、目標をロックオンする。

 標的ドローンまでの距離、1752m。


「超電磁砲、発射ぁ♡」


 ブオオオオオオオンッ!


 最後のハートはなんだ、とツッコミを入れる間もなく、超電磁砲の砲身に莫大な電力が注ぎ込まれる。


 バチバチバチバチッ……ガショオオン!!


 火砲とは明らかに違う発射音と同時に、口径38㎝の巨大な徹甲弾が、極超音速まで加速される。


(くっ!?)


 壱号機と弐号機のアシストを受けながら、必死に参号機の機体を制御する。


 ぶしゅううううううううっ!


 冷却時に発生した大量の水蒸気が、参号機の巨体を覆いつくす。


 ガッ……ズドオオオオオオオオオオオンッ!


『目標に着弾! 観測された衝撃、35.7GN! 想定以上の威力だ!』


 着弾までの時間は、0.5秒もなかっただろう。

 博士の歓声と共に、標的ドローンはチリ一つ残さず消滅した。


(す、すごい!)


 必殺武器にふさわしい威力である。

 発射までの準備が(いろんな意味で)大変とはいえ、正に人類の切り札となるだろう。


「……ふうっ、状況終了ね」


 シートに背中を預け、大きく息を吐く礼奈子。

 そこには先ほどまでの狂気は存在せず、清楚な(服装以外)優しいお姉さんが戻って来ていた。


「美嘉ちゃん、莉乃ちゃん、サポートありがとね。あとで研究センターのカフェテリアで甘い物奢るわね?」


『『アッハイ』』


 いきなり普通に戻った礼奈子に、揃った返事をする美嘉と莉乃。


(はぁ~、今回も疲れた……)


 超電磁砲の試射は問題なかった。参号機の操縦はかなり難しかったが、そこは博士たちが調整してくれるだろう。

 俺はこの三人の気性難パイロットと一緒に、プローバーの打倒を目指すことになる。


「……ユージ、今夜二人だけで打ち上げをしましょう?」


『ああ』


 緊張から解放されたせいか、深く考えずに礼奈子の誘いを了承する俺。

 その日の夜、参号機のコックピットで繰り広げられた打ち上げとやらは……彼女のためにも語らない方がいいだろう。

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