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第10話 莉乃の王子様(※マッチポンプ)

 ガンッ

 ドガアッ


「くっ、何て修復速度……百以上の並行プロセスでガードしているなんて、どんなCPUを使っているんですか!」


 莉乃が攻撃を始めて10分以上。

 彼女はいまだにドラゴンを突破できずにいた。


自動巡回ボット(アンチウイルス)に復元ポイントの大半を潰されましたし、ダイブの限界時間も迫っています」


 莉乃がドラゴンに付けた傷は、すぐに塞がってしまう。

 対して、莉乃はボロボロだ。

 仮想体とはいえ、眼鏡は割れ、身に着けている制服はあちこちで破れている。


「かくなる上は、ダイブインターフェースのオーバードライブを使って……!」


 ピピッ


「っとお、マズい!」


 博士から警告。

 これ以上ネットダイブを続け、仮想体にダメージが入ると精神汚染の危険があるらしい。


『いくら莉乃君のスキルが規格外だとしても、天才であるこのワタシには及ばない! 力及ばず、心が折れ涙を流す莉乃君に、サンマタ君が諦めるなとビンタを一発、その後優しくする……これで彼女はイチコロさ!』


 出来の悪いヤクザムーブを博士は嬉しそうに語っていたが、それでは駄目である。

 莉乃に刺さるスパダリムーブをしなければ。あとミマタだから。


「ふうっ」


 俺は小さく息を吐き、メンタルを整える。

『私なんて所詮地下アイドルで終わる女……プロデューサーの貴方に枕営業をすればもっと売れるんですか!?』

 そうやさぐれる担当の子に、どうやってメンタルケアをした?過去の経験を思い出せ俺。


「行きます。やあああああああああっ!」


 そんなことを考えていたら、

 掛け声とともに、莉乃のパイルバンカーが青く輝く。


 だんっ


 一気に加速した莉乃は、右腕のパイルバンカーを突き出して……。


 ザシュッ!


 パイルバンカーはドラゴンの腹に深々と突き刺さるものの、ドラゴンはひるんだ様子を見せない。


 がしっ


 それどころか、動きを止めた莉乃の仮想体を、丸太のようなドラゴンの前足が拘束する。


「……あ」


 莉乃に向かって開かれる、真っ赤な顎。

 中央サーバーの防衛機構(?)であるドラゴンの全力攻撃を受ければ、莉乃の精神はたやすく焼き切れてしまうに違いない。


(……よし)


 ここが仕掛けどころ。そう判断した俺は、

 仮想体の音声をオンにし、ありったけの声で叫ぶ。


「やらせないっ!!」


 同時にこの空間に仮想体を移動させる。服装は……キラキラの王子様衣裳にしよう。王道イズベストである。


「……え?」


 空中を見上げた莉乃の目は大きく見開かれ、茶色の瞳は真ん丸だ。


「君のことは、俺が守る!!」


 細かいことはどうでもいい。

 自分のピンチに助けに来てくれた、イケメン(当社比)の王子様。

 彼女が秘密の裏垢でつづっていたシチュエーションを、全力で演出する。


「お、王子……様?」


「はあああああああああああああああっ!」


 裂帛の気合と共に、莉乃とドラゴンの間に割り込む。

 武器は……王子様と言えばレイピアだろう。


「食らえっ!」


 ざしゅっ!


 レイピアをドラゴンの腹に突き刺す。

 パイルバンカーに比べれば頼りないが、何しろこのドラゴンは博士が操っているのだ。

 こっそり博士に合図を送る。


 ギャオオオオオオオオオンッ


 断末魔の悲鳴と共に、ドラゴンは消滅した。


「え、あ……なんで、悪いことをした私を助けてくれたの?」


 あまりの衝撃で、

 幼い子供のような喋り方になる莉乃。

 俺は仮想体の声色を調整し、とっておきのカードを切ることにした。


「今日という日を……君の誕生日を、悲しい日にしたくなくて」


「っっ!?!?」


 両手を口に当て、息をのむ莉乃。

 そう、裏垢に残っていた彼女の本当の誕生日。

 児童福祉施設に預けられた日が戸籍上の誕生日だが、それより二カ月ほど早い。


「な、なんでそれを?」


 目を白黒させる莉乃だが、詮索の時間は与えない。


 ビーッビーッビーッ!!


 仮想空間を、真っ赤なアラートが埋め尽くす。

 はるか向こうから、無数の自動巡回ボット(アンチウイルス)が迫ってくるのが見えた。


「くっ、気付かれたか! 一緒に逃げよう!」


「きゃう!?」


 俺は莉乃を抱き上げる。


「来いっ!」


 ヒヒーン!


 俺の呼びかけに答えて現れたのは、純白のペガサス。

 俺は莉乃を抱いたままペガサスに飛び乗った。


「え、えへへ♡」


 嬉しそうに笑った莉乃の笑顔は、年相応に感じられた。


「この人が私の……私だけの王子様なのですね」


 莉乃の瞳がしっとりと光る……もしかしたら、少々やりすぎたかもしれない。



 ***  ***


「なるほど……優史さんはプローバーの攻撃で瀕死の重傷を負った後、あのマッドサイエンティストな博士にカグツチ弐型の制御コアに改造されたんですね」


 ペガサスを使って脱出した俺たちはハッキングの痕跡を消し、莉乃の部屋で向かい合っていた。

 もちろん、俺は莉乃のPC上に表示された仮想モデルで、彼女は生身でだが。


「そうなんだよ。しかも俺を死亡扱いにして、俺の意見を聞くことなく。ていうか目を覚ましたら、仮想体で制御コアの中だったんだけどな」


「助かる見込みはなかったとはいえ、それは中々のスキャンダルですね……闇深すぎます」


 ……この辺りはガチの真実なので、演技をする必要がない。

 やっぱり何度考えてもひどいだろこれ。


「しかも、博士は優史さんの意識が目覚めたことに気付いていない……と」


「博士はカグツチ弐型に夢中だからな。俺の仮想体は超高性能で、博士に気付かれずにネット内で活動できるんだ」


「確かに、このログですと脳をCPUとして利用したAI的反応に見えるでしょうね」


 後半は一部事実を織り交ぜた『設定』である。

 白馬の王子様に憧れる莉乃は、秘密を共有することが大好きだ。


「俺としては、博士が研究中の義体を完成させた後、その義体を乗っ取って人間に戻りたい……そのためには」


「私の協力が必要、ですね?」


「ああ。莉乃のネットスキルは、博士より高いからな。とはいえ、今すぐ仕掛けることはできない。()()()()()を考えたらプローバーは倒しておく必要がある」


「っっ!! 確かにそうです。私と優史さんの将来、ですもんね」


 何を想像したのか知らないが、頬を赤らめる莉乃。


「俺は当面、仮想上で君の王子様になる事しかできないけど……手伝ってくれないか?」


 最後の一押し。

 莉乃の瞳の中に、きらりと星が舞った。


「もちろんです! この陰野莉乃、全身全霊で『私の』王子様である優史さんを支えることを誓い、人類なんかの未来より優先します!」


 うん、そうだね。

 人類の未来もついでに救って欲しい。

 キラキラと瞳を輝かせながら宣言した莉乃だが、不意にその眼鏡に影が落ちる。


「ふ、ふふふふふっ。それにしても優史さんをこんな状態にした博士は度し難いですね……少しずつネットに悪いうわさを流して、破滅させてやります。ああもちろん、義体を完成させるまではトドメは刺しませんが。

 あと、美嘉さんも感心しませんね……優史さんのパイロットの一人なのにパパ活をしているビッチだなんて。ああそうです。敵は前からくるとは限りませんからね……」


「…………あの、莉乃さん?」


 ちょっとスパダリムーブが強すぎただろうか。

 どこか別の世界にぶっ飛んでしまった莉乃に、冷や汗をかく俺なのだった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


二人目のヤンデレパイロットちゃんが気になってしまった方は、

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