次世代の農業?水耕栽培レタスの可能性について
さあ、書き出してつらつらと書いていたらいつの間にか最終回を迎えてしまったこのシリーズ。
最終回はこれだけは必ず書こうと最初から決心していたものを書くこととする。
それはなにか?ちょっと意外かもしれないが、レタスだ。レタスに儲かるイメージがあるという人は多くはないだろう。確かに生長が早くてすぐに食べられるようになるのだが、だがレタスはとにかく年間の売値がたいへんに不安定だ。
頑張って作ったのに売値が1個30円……という悲劇がたまに存在する。それぞれの産地の出来具合で供給過多になることも往々にしてある。困ったことにレタスは畑においておくという事ができないので、儲けにならずともとりあえず収穫はせねばならない。何年かに1度はガッカリしながら金にもならないレタスを収穫することになるのだという。
だが、最近、その不安定さから脱却し、年間売り上げを安定させる方法が次々と生まれつつある。それがタイトルにも書いた、レタスの水耕栽培。どうしても複雑で大規模な施設が必要なので投資額は億単位な上、まだノウハウ蓄積が浅いため、様々な農家さんと企業がトライアンドエラーを繰り返している段階だが、これが完全に育て方として確立したら次世代の農業として大きな位置を占めるだろうなと暇庭は考えている。ついでに食糧の安定供給にも大きな役割を果たすだろう。
実際に知っている範囲の話をしようと思う。元建築業で働いていたHさんの話だ。
大工さんなんかものを作る花形の職業であると思うのだが、Hさんは働いている間不満があったという。
「一から物作ってない気がしちゃったんだ」
そう言ったのを覚えている。暇庭にはよくわからない感覚だ。意外と型が定まっているし、工期短縮でパーツ組み立てが多くなってちっとも面白くないのだとか。
仕事に浪漫がないとやってられないという人は意外といるものだ。もちろんHさんのようにそれで実際に転職、しかも経験無しの新興の栽培法に果敢に突っ込むあたりは胆力の無せる技だろう。
Hさんはそれまでの業務経験から、ガレージ程度のごく小さな面積で水耕栽培をできないか考えたのだという。実際にHさんのレタス工場は、外見は個人宅の資材倉庫と見分けがつかない。中に入るといきなり水の流れる栽培レーンがどーんとお出迎えするのだ。
ではそんな小さな面積でいかにレタスを作り、売っているのか?Hさんは水耕栽培をするにあたって、階数を重ねることでレタスの売り数を確保したのだ
畑にものを作る上での限界は、言うまでもなく土地の広さが生産性の限界に直結することだ。だが、水耕栽培はその限界にとらわれない。Hさんは水分と肥料を含んだ水溶液を、上、中、下の3段の栽培容器を循環するようにした。これで同じ面積で作れるレタスの株数はほぼ3倍である。
さらに屋内での栽培は、気温を最適に保ち続けることができる。夏も冬も空調で20度に設定されたレタス工場は、畑よりずっと早くレタスを育てることを可能にした。
年間ほぼ休まず稼働し続けるHさんのレタス工場は、年間9万株、売り上げ1000万円を毎年休まず稼ぎ出している。この工場を作るときに1500万円の融資を受けたが難なく返しきってしまったという。すごい話である。
投資額1500万円で完成してからたったの3週間で初出荷、ランニングコストは栽培施設で年間おおよそ100万円。(ここも驚異的。普通こんなに安くない。何をどうしたらそうなる)
種、液肥、水道代など込み込みでも200万円。種の高価なことには驚いたが、売り上げから見ればそれでもお安い。差し引きの粗利益800万円。農業用の重機を一切使用しないので機械代に頭を痛める必要もない。
もちろんこの話は流石に夢物語に近い。施設に関する技術を大工の仕事から応用してくる柔軟性とバイタリティ、無謀をひっくり返すだけの頭の冴えがHさんに常にあるからこその話だ。二階建ての高さにロフトの仕組みを応用して3層の栽培容器を収めるというのは、いちごなどの多段栽培ベンチともまた違う発想に見える。中段を収穫する用の足場はいまも改良を続けているらしい。ここまでのことをできる生産者はそうは多くないように思う。
しかし忘れてはならないのが、Hさんのような人が切り拓いた方法こそがスタンダードになることがあるという事実だ。
今はまだ主流ではないが、日本の農家のひとつのかたちとして、水耕栽培や野菜生産工場が現れる日はそう遠くないのかもしれない。
お読みいただいた皆様、本当にありがとうございました。
おかげさまで今回の連載も無事、完結まで書き切ることができました。
前半は今すでに有名かつ主流の品目、後半は少し品目から視野を広げ、生産者の花形、ぶどう農家や新しい時代を感じさせる水耕栽培の話をさせていただきました。
農業について、もうかる可能性があったり、安定した生活を望めたりする希望をちゃんと見せたいなと思っていました。
課題山積の産業ではありますが、良いところに1度はスポットライトを当てたいと願って書きました。もし楽しんで読んでいただけたなら、そんなに嬉しいことはありません。重ねて感謝申し上げます。




